なぜ今、オランダ流デザイン思考が求められているのか?

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デザイナーの思考様式をビジネスに活用する「デザイン思考」。「デザイン思考」を用いて、クリエイティブなアイデアを考え出し、イノベーションを起こしたいと考えている会社員や個人は多い。

世界で「デザイン思考」の取り組みが進んでいる国のひとつがオランダである。今オランダでは、デザインを活用して、社会を良くするビジネスが活発化しているという。ではオランダ人は、デザインに対してどう考え、ビジネスシーンでどう実践しているのだろうか。

様々な人種の人が一緒にブレーストーミングしている

Image via Shutterstock

先日、デザインワークショップを手がけるMediaLAB Amsterdam&Digital Society School/Amsterdamとデジタルコミュニケーション専門会社であるneuromagicが、欧州デザインメソッド最前線「企業の課題解決に貢献するデザインとは?」というイベントを開催した。MediaLAB Amsterdam&Digital Society School/Amsterdamでプログラム開発を担当するMarco Van Hout(マルコ・ファン・ハウト)氏から、「社会を変革するためにデザイン思考を活用すること」、そのための「デザイン自身の変革」についてお話を聞いてきた。

マルコ氏が講演している

Marco Van Hout(マルコ・ファン・ハウト)氏

ダッチデザインの背景にあるオランダ人の特徴

オランダ流「デザイン思考」を理解するためには、まずオランダという国とオランダ人の特性について知る必要がある。

オランダは、ドイツとベルギーと国境を接しており、またNetherlands, the lower countries, Holland というたくさんの名前があるように、非常に多様な国である。Forbes Insight の調査によると、オランダは労働環境において最も多様性のある国のひとつにランクインしている。

育ってきた環境も考え方も価値観も異なる多様なコミュニティの中で生きてきたオランダ人の性格には、以下6つの特徴があるという。

  • 直接的でオープン
  • 経済的にも合理的なので、節約志向
  • 移民を受け入れてきた国なので、多様な文化にセンシティブ
  • 鎖国時代から日本にも積極的に進出しているように、冒険家で商人気質
  • 試してみることにオープン
  • オランダでは、街中の人が話している光景をよく見る。お互いを理解しようとして、共通理解が得られるまで話し続ける
  • シェアする文化があり、国際的に展開することに常にマインドセットがある

バックグラウンドも価値観も違う多様な人々が集まる環境でうまくやっていくためには、必然的に言語に依存した直接的なコミュニケーションが求められる。

だからこそ人の価値観によって左右されづらいロジカルで合理的な考え方が重視され、価値観の異なる相手と合意に至るために、徹底的にコミュニケーションをとることが当たり前になる。

そして、そうした多様な環境は、いわばグローバル世界の縮図でもあり、オランダというローカルで暮らしていたとしても自然と国際感覚が養われる。こうしたオランダならではの多様性が、オランダ人の性格、ひいてはオランダのデザインにも大きな影響を与えているのだ。

アムステルダムのストリートで多くの人が集まっている

Image via Shutterstock

ダッチデザインの特徴

上記で述べたオランダ人の特徴が、ダッチデザインにも表れている。

まず、デザインとは問題解決の手段である。

オランダが抱える課題の根本は、いかに多様なニーズのなかで誰もが満足できる環境を作り出していくかという点にある。だからこそ、オランダのデザインは、人々とコミュニケーションをとり、働きかけていくエンゲージメント重視のデザインとして表れる。そしてそのスタイルは、オランダ人と同様にシンプルかつ合理的で、経済性を重視したものが多い。

では具体例を見てみよう。

    • Open / Practical
  • 倒れた木の幹にイスの背もたれを取り付けて、そのままイスとして利用できる。しかし、注文できるのは、木に取り付けるブロンズのイスの背もたれのみだ。腰掛ける本体は、地元の倒れた木を利用する。遠い場所から木をわざわざ運ぶのは合理的でないとオランダ人は言う。

    木の幹でできたイスの上で、一人が立ち一人が座っている

    Image via droog

    • Engaging/Conversational

    外で使える丸型のバスタブ。4人まで一緒に入ることができる。自然の中で、または自宅の庭で、家族や友人とのつながりや会話を楽しむのに最適だ。

    丸型のバスタブに二人の子供が浸かっている

    Image via Weltevree

    • Economic/Sustainable

    以前、IDEAS FOR GOODでも取り上げた「Goedzaq」。オランダ語で、「Good bag」と「いいことをする人」という意味を持つ。不要なモノをGoedzaqに入れて道端に置いておくだけで、欲しい人は中に入っているものを自由に持ち帰って行っていいですよ、という意志表示になっている。経済的でサステナブルなアイデアだ。

    黒いゴミ袋の横に、オレンジと透明の袋でできたゴミ袋が置いてある

    Image via Goedzak

    デザインは、個人へのフォーカスから、社会へのインパクトを考えて人類にフォーカスしたものへとシフトしているのだ。

    「変革するデザイン」とは?

    アメリカがメキシコとの国境で壁を作ったように、世界が閉鎖的な方向へ向かっている。一方で、地球上には解決しなければならない複雑な課題が山積みだ。

    それらを一つひとつ解決するために、デザイン思考を活用することが大事である。そのために、デザイン自身が変化する時が来ている。これこそ今回のイベントのテーマである、Transformation Designの必要性なのだ。

    女性がアイデアにあふれた未来を描いている

    Image via Shutterstock

    Transformation Designとは、個人や組織を超え、社会や環境を変えるところに目を向けるデザインプロセスのことだ。従来のように、新しいプロダクトやサービスを創造するだけではない。それを超えた新しい役割や組織、政策、文化までをも作り出していくことである。つまり、社会を変えていく思考プロセスに、デザインを活用するのである。

    そして、人工物やシステム、サービスをデザインするだけではなく、組織内での変革を目指したり、グローバルスケールで変革を起こせる人のことはTransformation Designerと呼ばれている。

    この変革の背景には、Design Wasteという課題がある。これまでデザインの過程は、ドキュメント化されず、シェアされず、知られず、再利用されず、捨てられてきた。もうこれ以上の余裕はないのに、物理的なものだけではなく、方法論や思考も含めた無駄が生じている状況が続いてきたのだ。

    では、非伝統的な分野にデザイン思考を取り入れるために、デザイン自身はどう変化する必要があるのだろうか。Marco氏は以下の4点を挙げた。

    • もっと積極的に活動する
    • もっとシェアする
    • 一人ひとりの仕事で完結せずに、お互いの仕事の上にさらに築いていく
    • 自分の分野や規則を超えて、考え、行動する

    そしてこう付け加えた。

    「我々はシェアすることを怠っている。結果はシェアするが、その過程はシェアされない。やっていることをその場で記録し、ブログやフェイスブック、インスタグラムなどでどんどんシェアしたほうがいい」と。

    「社会を変革する」とは、つまりは自分以外の他人を動かすことの積み重ねである。そのためには、自分だけで抱え込まず、人を巻き込む必要がある。だから、モノやサービスがデザインされる過程を記録しシェアし、分野を超えた多くの人とより良い価値を一緒に作り上げていくことが大切になる。

    アイデアをシェアする

    Image via Shutterstock

    2018年9月21-23日に日本で開催!Global Goals Jam:Tokyo

    オランダ流デザイン思考やサービスデザインをさらに知りたい人のために、学ぶ機会がいくつか用意されている。

    まず一つ目は、日本で参加できるGlobal Goals Jamという短期間のワークショップである。これは、MediaLAB Amsterdamのデザインフレームワークを用いて、SDGsの課題に向けて取り組むことを目的とし、世界中のデザイナーやクリエイター、起業家などが参加する。

    ほかにも、2年間のアムステルダムでのポストマスター研修コースや、社内やオンライン上での短期間のプロフェッショナル向けコースが提供されている。

    世界で戦うための日本人の強みとは?

    多様性のある国で生まれたダッチデザインの考え方は、そのまま国外に行っても通用する。一方で、同質性の強い日本で育った日本人は、世界で対応できるのだろうかという疑問がわく。

    そこで日本人の強みはどこにあるのか、Marco氏に聞いてみた。

    「デザインの無駄をなくすためにはプロセスのシェアがとても大事だが、いかに使いやすいようにドキュメントするかは課題。その点、日本人はドキュメントにわかりやすく残すのがうまい。

    「デザインという分野ひとつとってもいろんなフィールドがある。だから様々な分野の人が一緒になって、チームで仕事をする必要がある。その点、オランダ人は個人主義だが、日本人は集団主義。だから、日本人のチームワークも仕事の中で生かせるといいと思う。」

    つまり、日本人の強みのひとつは、全体的な視点で物事を見ることができる点であると言えそうだ。

    日本人四人がチームとなってディスカッションしている

    Image via Shutterstock

    イベントに参加して

    国の文化とデザインの特徴との関係性について知ることは、単純におもしろい。今回話を聞いて、オープンでシェアするのが好きなオランダ人の特徴が、外を向いて社会のためにあるダッチデザインに現れていることに納得した。

    また多様な国だからこそ、お互い理解し合うには共通言語が必要になる。そのときに時間を節約するためのツールとして、オープンキットのデザインフレームワークが開発されたのも、合理的なオランダらしい。

    このようにオランダ文化から生まれたデザインに対する考え方は、ソーシャルグッドなビジネスを行う際に大事なものだ。自分のためだけではなく、みんなのためのデザイン。モノ・サービスだけではなく、文化、社会そして環境までも作り変えていくデザイン。そのデザインの変革が、地球規模の緊急課題が山積みの今、求められているのだ。

    チューリップと風車のある風景

    Image via Shutterstock

    【参照リンク】Global Diversity Rankings by Country,Sector and Occupation
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