インターネットや人工知能の隆盛により、ビッグデータの時代が到来した。私たちは膨大なデータに囲まれて日々生活をしている。
簡単にデータが手に入る世の中だからこそ、個人情報の露出に敏感になる人は多い。今年3月、データを活用した選挙コンサルティングを行うケンブリッジ・アナリティカ社が、フェイスブックから個人情報を不正入手したという事件があったことは記憶に新しく、他にもデータを第三者から不正に利用される恐れがあるためだ。
そんななか、IT分野の調査やアドバイスを行う米ガートナー社がある調査を行った。公開されたレポートによると、近年ますます多くの企業が、慈善事業と商業的利益の両方を目的にデータを活用する“Data for Good”プログラムを立ち上げているという。
ガートナー社は、このData for Goodを「人々が組織の境界を超えて社会を改善するためにデータを使用する動き」と定義した。いくつかの企業の事例を見ていこう。
データを活用する企業の取り組み
レビューサイトYelpは、自治体に評価データを提供し、食品安全検査官が検査の優先順位をつける支援を行っている。さらに、世界最大級の検索エンジンGoogleは、感染症の流行を防ぐために検索データを病院と共有している。
環境保全や難民に関する取り組みもある。DrivenData社が、クラウドソーシングプラットフォームを使用してソーシャルメディアを分析し、欧州における難民への認識と、気候変動に対する人々の意識調査を行っていることがわかった。統計解析ソフトを開発するSAS Institute社は、絶滅の危機に瀕している動物の足跡の画像を分析し追跡する。
世界的なネットワークと1万8,000人のボランティアを擁するDataKind社は、地域イベントを企画し、データサイエンスのボランティアと、その地域に必要な取り組みを結びつける活動を行っている。テキストメッセージでカウンセラーとの相談を24時間提供するCrisis Text Lineと協働し、データ分析を活用して自殺や自傷行為の危険にさらされている推定1万4,000人の救援に貢献した。
従業員がデータを活用できるサポートを
商業データを取り扱う企業では、社会貢献活動を行う団体をITで支援し、自社の従業員には慈善活動を促している。たとえば、データ分析ソリューションを提供するAlteryx社では、従業員がデータ関連の慈善活動に年間20時間を費やす。さらに、クラウド顧客関係管理ソリューションで知られるSalesforce.comは、時間、株式、製品の1%を地域コミュニティに還元しているという。
さまざまな社会貢献の場面でのデータ使用に関する保護規則は、多くの場合、われわれが考えるよりも柔軟なようだ。
「“一般データ保護規則”を含むプライバシー原則は、データの共有をサポートし、企業が社会的な利益を含めた商業目的でデータを共有できるようにする」とレポートは指摘する。
Data for Goodプログラムには、ビジネス上の利点もある。非営利団体や政府機関と協力している企業は、収集したデータを採用活動に活かすこともできるのだ。ガートナー社は、同プログラムを導入した事業者が、今後数年間で、導入していない事業者よりもデータや分析の専門家を20%多く確保できるとしている。人手不足に直面する近年の労働市場においては重要になってくるだろう。
また、社会的に影響のあるプログラムへの投資は、米国で2014年から2016年にかけて33%増。オーストラリアでは、2014年から2017年にかけて4倍に増えている。
企業は「デジタル倫理戦略」の作成を
ガートナー社の発表したレポートは、「民間企業は、内部データや外部データを含むデータを、社会貢献の目的のために活用する立場にある。」と指摘。Data for Goodプログラムに着手しようとしている企業に対して、同レポートでは、まず何のデータが共有されるのか、どのような状況下にあるのかを記述する「デジタル倫理戦略」を作成することを推奨している。
何がルール違反にあたるのかがわからない状況で違反を恐れ、企業や団体がデータを共有しないことを選んだ場合、たとえば児童虐待などの悲惨なケースがしっかり報告されないことにつながる可能性もある。企業が世界をより良くすることを妨げるこのような「懸念」を、当局は助長するべきではないと研究者らは結論付けている。
個人情報の漏えいや政治利用など、ネガティブな側面が強調されがちなデータの共有だが、医療データの提供やメンタルヘルスの向上など、世の中に良いデータの活用法も多くあることを私たちは知っておくべきだ。倫理的なルールに基づいた、商業的にも社会的にもメリットのあるデータ活用の事例がより増えていくことを願う。