シンプルなからし色。ショートパスタのようにうねったものもあれば幾何学模様をしたコースターのようなものもある。一体何だろう、と誰もが不思議に思う形状。
実はこれはクラッカーのような食べ物で、ペースト状にした食材を今話題の3Dプリンターで印刷し、オーブンで焼いている。ただし、この原材料がちょっと変わっている。すべて廃棄予定の食品なのだ。
発案者はオランダの大学生、エリゼリンデ・ファン・ドーリウィードさん。世界で生産される食品の三分の一が捨てられていることを知り、産業デザインの学位を取得するための最後のプロジェクトとして、食品廃棄物の活用方法に取り組んだ。
調査によると、オランダ人は年に41キロの食べ物を捨てているという。主な廃棄物はパン、乳製品、フルーツ、野菜。もちろんフルーツの皮や、規格外の野菜や果物も多く捨てられている。
ドーリウィードさんはこう語る。「オランダではたくさんのパンが捨てられています。でもパンは古くなると、食べたくなくなってしまうものですよね。だから私は、その古くなったパンでペーストを作ることからスタートしました」
まず、バナナの皮と玉ねぎを茹で、パンは乾燥させる。これらの原材料をすり潰して混ぜ、滑らかなペーストにした後、3Dプリンタで印刷し、オーブンで焼く。焼いた後は乾燥させ、水分が残らないようにする。
これによってバクテリアの活動が弱まり、安心して食べられる上、長期保存できるようになるという。ペーストをつくるための原材料や香料用のスパイスは、75%以上を地元から調達している。
試食会で、はじめてこの3Dプリント製の食品を食べたエスター・ファン・ブリートさんは「素敵な形をしていること以外は、この食べ物が特別なものだとは気づかなかった。でも、食品廃棄物の問題に気づかせるとてもいい方法だと思う」と語った。
今後は、中国に拠点を置くDefacto Design Agency社と協力し、中国でよく捨てられる食品から製品を創りだす事業を展開するという。たとえば、米と紫芋を使い、色鮮やかな赤紫色をした幾何学模様のコースター状のスナックをつくったり、カップのような立体的なスナックをつくったりするそうだ。味も甘いものや塩味のきいたものなどさまざま。
創作料理からおしゃれなスイーツまで、さまざまな場面で活用できそうだ。
世界では約8億人もの人が飢えに苦しむ一方、年間約13億トンもの食べ物が捨てられている。これは、全世界で生産される食べ物の三分の一に該当する。国連の持続可能な開発目標(SDGs)でも2030年までに世界全体の1人あたりの食品廃棄物を半減するという目標が掲げられており、食料廃棄の削減は世界共通の喫緊の課題といえる。
「今後人口が増えていくことを考えると、将来的にはもっと多くの食べ物が必要になるでしょう。しかし一方で、三分の一の食品が捨てられているという現実もあります。テクノロジーを駆使し、社会の食糧変革の道を探したいです」とドーリウィードさん。
3Dプリンターが創り出すユニークな造形は見ているだけでも楽しい。食品廃棄物問題を解決するだけでなく、食の新たな魅力を創り出していくことにもつながるのではないだろうか。