ベトナム最大の都市ホーチミン(旧名サイゴン)にあるZero Waste Saigon。世界で5番目に多くのプラスチックゴミを排出している国ベトナムで、プラスチック削減に向けた活動をしている団体だ。創立者はアメリカ人のマイケルとフランス人のジュリアン夫妻。今回、マイケルにZero Waste Saigonの活動内容から商品、日々感じることなど、さまざまなお話を聞いてきた。
Zero Waste Saigonの主な活動
Zero Waste Saigonでは、主に5つの活動をおこなっている。ひとつ目は、プラスチックストローの代替品として竹や葉っぱ、メタルを材料としたストローを販売することだ。
2つ目として、地元の学校やビジネススクールでプラスチック問題に関する教育プログラムも提供している。
3つ目は、ゼロウェイストやプラスチック削減に取組んでいる企業などに、独自のメダルを渡してウェブサイト上で表彰するメダルプロジェクトだ。
アートに関する活動もはじめている。今後スターバックスと協力してベトナム人アーティストによる廃棄ストローを使ったアートインスタレーションの作品が披露される。
ほかにもベトナム人の有名ブロガーと協力して、使い捨てではないメイクアップボックスの販売や、デオドラントや歯磨き粉、ゼロウェイストソープを手作りするワークショップもおこなっている。
ベトナムで活動していて感じること
Q. アメリカ人とフランス人カップルがやっているZero Waste Saigon。アメリカともフランスとも離れた地ベトナムにやってきて、なぜプラスチック削減活動をはじめようとしたのだろうか?
マイケル:私たち夫婦は、ふたりとも旅が好きです。場所にとらわれずに毎年違う場所で暮らせるようになりたく、息子が学校に入学する前にいろいろな場所を旅して周りたいと思っていました。以前はバンコクに住んでいて、あと1~2年くらいはベトナムにいるつもりです。
僕の故郷であるカリフォルニアと妻の出身地のパリの人々はエコ意識が高いです。それに比べてベトナムはゴミ処理システムが機能していなく、目に見えるほどゴミが溢れています。
そんななか、近くの山にいた猿がプラスチック製の袋を食べているのを見てジュリアンが衝撃を受け、プラスチック削減に向けたフェイスブックページを作成したのが始まりです。
Q. マイケルは高校や大学へ、ジュリアンは小学校などで出張授業をしている。学校の授業はどんな様子なのだろうか?
マイケル:子どもたちの反応には驚かさせます。大人と違って確固とした習慣をまだ持っていないので純粋ですし、すぐに実践してくれる。そして学んだことを家族にも話をしてくれるので雪だるまのように教育の効果が波及していきます。
1日の単発イベントとしてプラスチックフリーデーを設けた学校もあり、影響の大きい企画だったと実感しています。
Q. ベトナム人のエコ意識は?
マイケル:ベトナム人にとってエコが一番の優先事項ではないので、大部分の人は気にしていないと思います。彼らの優先度が高いものは健康、清潔さ、食品安全です。たとえば、マイクロプラスチックを食べた魚を摂取することで人体にも蓄積している事実については家族の健康と絡めて話すとインパクトがあります。
一方、Zero Waste Saigonでインターン生として働いているベトナム人女学生は、「フェイスブックなどSNSを通してみんなの意識がだんだん高まっていると思う」と話してくれた。
Q. 今後の展開予定は?
彼らの活動費の大半は、商品の売り上げと別のビジネスから得たお金でまかなっている。マイケルはウェブマーケティングの会社を経営し、ジュリアンは民泊物件の運用をしている、まさにノマドスタイルで働ける環境を築いている。
マイケル:ベトナムにはあと数年はいるつもりですが、そのあとはわかりません。Zero Waste Saigonの活動は、ベトナム人に引き継いでもらいたいと考えています。僕たちに声をかけてくれる団体や人も多いのですが、みんな僕たちが問題を解決することを期待している。でもそうではなくて、行動しないといけないのはみんな一人ひとりです。そのモチベーションをどうあげるかは難しいところだと感じます。
シンプルだが、「行動」に移すのに有効なツールである代替ストロー
彼らの活動の大きな部分を占めるのが、プラスチック代替ストローの販売である。知り合いのアーティストと最初の代替ストローを作ったとき、マイケルは「これだ!」と感じたという。代替ストローはシンプルなソリューションで、誰かをトレーニングしたり、難しい操作を覚える必要もなく、そして誰も「なぜやるの?」と疑問を持つことはない。実物があると問題をリアルに感じるので、人はもっと行動する。「話すだけ」から「行動」にまでうつしてもらうのに代替ストローは最適なツールなのだ。
しかし実際にビジネスとして販売していくとなると困難なこともある。たとえば、コスト面。プラスチックストローは、20-30ドン(日本円にして1円未満)で作れてしまう一方、繰り返し使える竹のストロー一本は8000-10000ドン(約50円)、一回限りで使い捨ての葉っぱのストローは600ドン(約2円)かかるという。
「取引先は小規模の会社が多いので、コスト面は非常に大事です。プラスチックと価格面でも競争できるようになりたいと思っています」とマイケル。
「今の僕たちの活動費は主に商品の売り上げと別のビジネスから得たお金で賄っています。一部助成金ももらっていますが、それらは主に教育事業に使い、ストロー販売には使っていません。理由は、代替ストローが必要とされているか否かは市場が決めるべきだと考えているからです。そういった意味で、競争者が増えることはコミュニティにとって良いことです。一方、自分たちの製品を買ってもらいたいというエゴとコミュニティを助けたいという気持ちの狭間で悩むこともあります」
ちなみに彼らの製品のなかで一番売れているのは、見た目が良く耐久性もあるメタルストローと、鮮やかな緑が印象的な葉っぱのストローだという。
編集後記
Zero Waste Saigonは、フルタイムスタッフ3-4名、インターン生やパートタイマー数名で成り立つ小さな団体だ。しかし、マリオットホテルからスターバックス、Pizza4P’sというベトナムで有名なレストランまで、さまざまな会社と協力関係を築いており、相手側からコンタクトを取ってくれる企業もある。
しかし自分たちの製品をベトナム国外に輸出したり、竹ストローを作るのに竹を他の国から輸入するつもりはないという。手元に眠っている宝物に息を吹き込み直すかのように、地元の問題は地元の人々が解決することが大事だと考えている。たとえば彼らにとっては、自分たちの竹ストローが日本で売れることよりも、日本の会社が日本の竹を使って竹ストローを作ることの方が、理想的な姿なのだ。
ベトナムは世界で5番目に多くのプラスチックゴミを排出している国で、足元に問題があるから、今ここでできることをすぐにやる。まさに有言実行な実践者たちだ。
また、彼らの働き方も素敵だ。彼らの活動費の大半は、商品の売り上げと別のビジネスから得たお金で賄われている。マイケルはウェブマーケティング会社を経営し、ジュリアンは民泊物件の運用をし、まさにノマドスタイルで働ける環境を築いている。
旅をしながらその土地の問題をそこにあるリソースで解決し、また次の場所へと移る。新しい土地に何か素敵なものを残しながら転々とする、次世代のノマドスタイルとも言えよう。
【参照サイト】Zero Waste Saigon