MDF(中密度繊維板)に代表される典型的な建築資材の多くには、ホルムアルデヒドなどの毒性の物質が含まれている。さらに、これらの資材の寿命は短く、すぐに廃棄されるため、環境に大きな負荷がかかってしまう。現に、毎年全MDFの1/3に当たる3,000万トンもの建築資材が埋め立てられているという。
そんな「使い捨て資材」に打って変わる、新しい選択肢が登場した。それが、廃棄予定のジャガイモからできた新建築素材「Chip[s] Board」だ。
Chip[s] Boardを開発したのは、ロンドンに拠点を置くデザイナーのRowan Minkley,、Robert Nicollと科学者Greg Cooperの3人。Chip[s] Boardは、食品としての規格基準に満たないジャガイモや、ジャガイモの皮からつくられており、毒性のある合成樹脂や化学物質、ホルムアルデヒドなどを含まない。廃棄時に土に埋めたとしても、生分解性なので環境にネガティブな影響を及ぼすことはないという。
このプロダクトの特筆すべきは、環境とフードロスの「両方の問題に」アプローチしているという点だ。
開発者の3人は、もともと資材廃棄の問題と食糧廃棄の問題を結びつけたいと考えていたそう。そしてようやくたどり着いた答えが、「廃棄予定のジャガイモからサステナブルな建築資材をつくる」という方法だったのだ。ゴミとして捨てられていたはずのジャガイモの皮が、毒性のない建築資材となり、資材としての役目を終えても埋めれば地中で分解されて肥料になる―まさに、建築資材でサーキュラーエコノミーを実現したのである。
もちろん、建築素材そのものとしても優れている。ボードは硬質のつくりで、インテリアデザインに適した表面仕上げが施されている。また、天然色素で着色したシリーズも存在する。カラー展開も豊富なので、自分で塗装しなおす手間も必要ない。環境への負荷を減らすと同時に、人件費まで削減できてしまうのだ。
試行錯誤の末に生まれたというChip[s] Board。デザインチームは「何度もやり直したが、失敗も含め全てのことが、使いやすい資材の開発を後押している」と前向きな姿勢を見せている。彼らは現在、サステナブルなファッション素材を新たに開発中とのことだ。
食品の無駄も、建築資材の無駄も省くというエコ資材のコンセプトからは、大地からいただいたものを残さず活かし、きちんと循環させていこうという地球へのリスペクトが感じられる。環境負荷を減らすだけでなく、毒性物質を含まず、人間にもやさしいChip[s] Board。今後の建築資材の新たなスタンダードになることを願う。
【参照サイト】Chip[s] Board