テクノロジーをつかったコミュニケーションは、日々進歩している。近年では、AI(人工知能)の発達により、デバイスに話しかけるだけでルート検索やアラームの設定などさまざまな指示を出せるようになった。これらのコミュニケーションでは、いずれも声を出すなど何らかの動作が必要となるが、今回はそんな常識をくつがえすような研究をご紹介する。
アメリカ、マサチューセッツ工科大学(以下、MIT)の研究チームは、言いたいことを“頭の中に思い浮かべるだけ”でコミュニケーションできる特殊なヘッドセット「AlterEgo(オルターエゴ)」を開発した。皮膚を貫いたりするものではなく、あごや顔に装着するだけのウェアラブルデバイスだ。AlterEgoを着けたまま頭の中で指示を送ると、デバイスが筋肉からの微弱な電気信号を感知して理解し、操作を実行する。
また、通常のイヤホンとは違い、外耳道(耳の穴)をふさがずに骨伝導を利用してユーザーに話しかけることもできる。これにより、一見会話をしているようには見えないが、コンピューターとユーザーの頭の中で対話ができるようになるのだ。たとえば、頭の中で「今何時?」と話しかけると、オルターエゴが「10時43分です」などと返してくれる。
この技術により、スマートフォンなどのデバイスを手で操作したり、発声したり、周囲の音を遮断したりすることなく、コンピューター・システム、デジタルアシスタント等とコミュニケーションを行うことが可能になる。発声に関する障がいを持っている人には有用だ。他にも、騒音のある場所で活動する空港スタッフやパイロット、消防隊員などがこの技術を互いに用いることで、よりスムーズなコミュニケーションをとることが可能になる。
研究チームは試作品のデバイスをテストし、平均92%の精度で脳内発声を認識することに成功した。現在は、システムが理解できる語彙を増やすために、データの収集をしているという。MITが新たに開発した技術は、さまざまな理由でコミュニケーションが取りづらい状況にある人の生活を豊かにしてくれるだろう。
【参照サイト】AlterEgo