人類が今の生活を続けると、2030年までに地球2個分以上の資源が必要だと言われている。
私たちが働き、暮らす地球。その地球が直面している環境課題を無視して、経済価値を生み出すことはできない。地球が危機に直面する今、消費者だけでなく企業単位で大きく行動を起こすことが必要不可欠だ。
そんな状況の中、企業がすぐに実践できるヒントを学び、これからの“環境とビジネスの新しい関係”を考えるイベント「530 conference 2019」が今年5月30日(ごみゼロの日)に、東京・渋谷で開催された。
当日は、参加者同士でネットワーキングを行いながら、サーキュラーエコノミーの概念である“再生し続ける経済環境”を、知識として取り入れるためのトークセッションと、すぐに職場で実践できるようになるためのワークショップからなる2部構成で行われた。スターバックスやメルカリなどの計20社・ブランドが参加し、多くの人々で賑わった。
今回は、イベントの中で特に印象的だった内容をご紹介したい。
企業の戦い方はエゴシステムからエコシステムへ
「今、エゴシステムからエコシステムに、企業の戦い方は変わってきています。政府の発言を鵜呑みにせず、先読みすることが大事です。」
そう話したのは基調講演で登壇したMonitor Deloitte日本リーダーの藤井剛氏。プラスチック問題に対して世界的に意識が高まっており、2050年には魚とプラスチックの量が同等となると言われている。そんな中、海外ではプラスチック削減の動きが大きく進んでいる。たとえばヨーロッパでは、先にプラスチック使用禁止のルールを設けてしまい、すでに再生材利用拡大のためのルール形成が行われているという。
藤井氏とNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー理事長、坂野晶氏とのトークセッションでは、日本企業のソーシャルセクターの連携はヨーロッパと比べるとだいぶ薄い傾向にあることが課題としてあげられた。これに対して藤井氏は、社会課題の最前線にいるNPOと連携し、一時情報を取り入れることの大切さを述べた。
ダボス会議を沈黙させた高校生のメッセージは、記憶に新しい。今、社会意識の高いミレニアル世代は、企業に対してより根本的、本質的な変革を求めているという。
「若い人材の確保が難しくなる中で、こうした社会意識の高い若者が増えています。この若者たちが、これから自分たちが働く企業を選ぶことになるのです。人材の確保をするうえで、企業として社会問題に取り組むことがいかに大切か、考える必要があります。」と藤井氏は、企業が今こそ大きく変わる必要があることを強調した。
フリマアプリの流行で“いいモノ”のみを買う流れに
サーキュラーエコノミーのビジネスモデルに沿ったトークセッションでは、「再生型サプライ」「回収とリサイクル」「製品寿命の延長」「シェアリング・プラットフォーム」「サービスとしての製品」の5つのをテーマに沿って、それぞれ企業の担当者が実際に実践している循環型ビジネスの事例を話した。
トークセッション「製品寿命の延長」に登壇したフリマアプリ、株式会社メルカリの田原純香氏は「メリカリは、100回エコのことを言うよりも“なんだかワクワクしてやってみたくなる”を大切にし、これが結果的に環境に良い流れを作ることを目指しています。」と、話した。
続けて田原氏は「今、一次流通と二次流通がシームレスになってきている」と話す。メルカリが行なった調査によると、メルカリを利用する顧客の3割が「新品を購入するときに商品の単価が上がった」という。
「モノを選ぶときに、消費者は『使い終わった後もメルカリで高く売れるか?』を考えて購入しています。そうすると必然的に、時間が経っても高値がつく“いいモノ”だけを購入する流れができてきています。今、メルカリで1番売れているのはユニクロですが、何度使っても“いいモノ”が消費者に支持されています。」(田原氏)
シェアエコが生み出すのは経済効果だけではない
トークセッション「シェアリング・プラットフォーム」では、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師の石山アンジュ氏が「令和の時代で“シェア”こそがこれからの時代を幸せに生きていくためのキーワードです。」と話し、空いているスペースを貸し借りできるスペースマーケットや、他拠点生活ができるADDressなどの日本のシェアリングエコノミーの事例を紹介した。
日本は、江戸時代に庶民の住宅としてスタンダードなものであった長屋で、もともとシェアする文化が古くから根付いていた。それが次第に三種の神器が一家に揃えられ、モノの個別化とつながりの希薄化が起こり、衣食住の中で誰かとモノをシェアすることがなくなった。一方でインターネットが発達した今、時代がめぐり誰とでも「広く」シェアができる時代になった。
しかし日本では、こうしたシェアサービスの普及は海外と比べて遅れをとっているという。シェアフードシェアサービス「TABETE」を運営する株式会社コークッキングの川越一磨氏は、この理由を「日本人のBtoC(企業が一般消費者を対象に行うビジネス)のサービスレベルの高さにある」と話した。
ハイクオリティのサービスに慣れ、求めてしまう日本人はCtoC(個人間取引)のサービスに抵抗を感じる人が多い。一方で、シェアビジネスが広がる中国の消費者間では、レストランで使われる油よりも家庭料理で使われる油のほうが安全だとされる。同様に、インドネシアのライドシェアが今盛んであるが、民間企業のタクシーではぼったくりに合ったり道を間違えたりするため、個人間取引であるライドシェアのほうが信用して利用することができ、シェアサービスが広がりやすいのだという。
「日本でシェア文化を広めたい。シェアリングエコノミーの市場は広がっていますが、経済だけではなく、関わる人の幸福度も上がるんです。」(石山氏)
個人主義となり、多様化した現代は今、次第に「個人主義」から「みんな主義」に移り変わっている。民泊が浸透し「ただいま」と言える場所が増えたように、シェアすることが人々の「居場所」をつくり、それが幸福感をもたらしたのだ。
5つすべてのトークセッションの最後に、今回の「530 conference 2019」を企画した530week共同代表の大山氏は、「みなさんにも、企業側にも今回の気づきを参考にしてもらい、みんなでムーブメントを起こしたい。」とイベントを締めくくった。
イベントに参加して
今回のイベントで改めて感じたのは、「社会にとってよいこと=ビジネスにとってもよいこと」というのが新たな世の中の常識となりつつあることだ。
イベントには企業だけでなく、大学生の参加も目立った。基調講演でMonitor Deloitte日本リーダーの藤井氏からも話があったように、これからまさに社会に出て大きな購買力を持つ彼らの関心は、少しずつ「社会的にいいことをしている会社に就職をしたい」というマインドに傾いている。(参考:読者100人に聞いた「#シェアしたくなる企業サイト」。ミレニアル世代の心を掴むための3つのキーワードとは?)
イベントで出会った、ある就活中の大学生が「内定をもらった企業が社会的にいい取り組みをしている企業ではなく、入社を迷っている。」と、話してくれた。これから人材確保が課題となる中で、企業が存在する意義であるとされる「パーパス」をもう一度見直し、消費者だけでなく企業が大きな変革を起こす必要があるのではないだろうか。
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Image via 530 conference