凹凸を持ったまま”上手に”生きる。発達障害を持つ大人のためのビジネススクール「キズキビジネスカレッジ」

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近年、テレビや書籍で特集が組まれるなど、話題を集めている「大人の発達障害」。発達障害とはADHD(注意欠陥多動性障害)・ASD(自閉スペクトラム症)・LD(学習障害)など、脳機能の発達に偏りがある障害のことを指す。

発達障害当事者にとっての大きな課題の一つが「自分に合った働き方を見つける」ことだ。日本には「就労移行支援」という福祉制度があり、障害を持つ人がミスマッチなく就職できるよう様々なサポートが行われている。しかし、従来の就労移行支援施設では、当事者が「軽作業や一般事務など限られた職種に就くこと」が想定されている場合がほとんどであり、幅広い選択肢が提示されているとは決して言い難い状況であった。

2019年4月、これまでとは全く異なるコンセプトを掲げる就労移行支援施設が誕生した。それが、発達障害の大人、うつ病などの経験者のための「ビジネススクール」、キズキビジネスカレッジ(KBC)だ。KBCの特徴は、会計やプログラミング、英語といった専門スキルを、実践的に習得できること。大企業・ベンチャー・フリーランスなどの枠にとらわれず、利用者に多様な働き方を提案するのも、従来型の支援とは大きく異なる点である。そんなKBCの運営責任者を務めるのが、自身も発達障害の診断を受けているという林田絵美さんだ。KBCの設立にどのような想いを込めたのか?どんな未来を思い描いているのか?直接お話を伺ってきた。

話者プロフィール:林田絵美(はやしだ・えみ)

林田さんプロフィール画像2013年、公認会計士論文式本試験合格、2017年公認会計士資格取得。2015年4月、新卒でPwCあらた有限責任監査法人に入社。本業の傍ら、NPO法人ARUN Seedでプロボノ活動も行う。2018年9月に株式会社キズキに入社後、うつ病と発達障害の方の就労支援を行う新規事業「キズキビジネスカレッジ」の立ち上げに奔走する。2019年4月、新宿区にて1校目のスクールをオープン。2016年には自身も発達障害の診断を受けている。

大人の発達障害者が抱えがちな悩みとは

Q:発達障害のためのビジネススクールを設立しようと思ったきっかけは?

実は、私自身がADHDなんですよ。診断を受けたのは2016年、24歳と大人になってからのことでしたが、学生時代から忘れ物や失くし物が多かったり、人から話しかけられても気づかないくらい一つの物事に集中(過集中)してしまうことが多かったりして──昔から、自分は周りの人と何か違うなと思っていました。前職の会計士になることを決めたのも「普通に」就職して「普通に」お金を稼いでいるイメージができなかったからなんですよ。何か武器を持とう、手に職をつけて食べていけるようになろうと考え、公認会計士の国家資格を取得したんです。

診断が出てからも「どう自分の特性と向き合うのか」と悩みもがく日々は続きました。1年ほど経ったころ、ふと「同じようなことで苦しみ、生きづらさを抱えている人が他にもたくさんいるんだ」と思い当たるようになって。そこで感じた「同じようなしんどさを抱える人の力になりたい」という想いが活動の原点でしたね。

林田絵美さん

運営責任者・林田絵美さん

Q:大人の発達障害ならではの悩みとは?

学生までの人間関係は「相手が好きだから、一緒にいると楽しいから」という理由で、損得勘定なしに築きやすかったのではないかと思います。しかし、仕事をする際の人間関係には、顕著な利害関係が伴いますよね。例えば学生時代なら、一緒のクラスに失くし物が多かったり毎回提出物を忘れたりするような子がいたとしても、「ちょっと抜けてるな」だけで見のがせちゃっていたと思うんです。あくまでもその子のミスなので周りの人に影響はありませんし、人柄が好きであれば小さなミスなんて大した問題ではなかった。一方、仕事の場合は、1人の仕事が遅れただけで関わっている仲間全員の仕事に支障が出てしまいます。社内だけでなく取引先の企業や顧客にも迷惑がかかるかもしれないし、会社の信頼や収益に影響することも考えられますよね。このように、利害が絡む仕事の場となると、純粋に人柄だけで付き合うのが難しくなってしまうんです。

また、発達障害者の中にはぼかした表現が苦手で、はっきり言ってくれないとわからないという特性を持つ人も多いですね。例えば、上司から「これ、やっといて」と頼まれたとき。発達障害でない人たちなら、現場の緊張感や周囲の人の慌て具合、上司のこれまでの発言傾向などから総合的に考えて判断しているのでしょう。ですが、発達障害の場合は曖昧な指示だけだと「どういうクオリティでいつまでにやればいいのか?」という加減がわからないことが多いんです。仕事の場には、本音と建て前の使い分けなど、たくさんの暗黙の了解が存在しますよね。子どものころならとんちんかんな発言をしてもなんとなく許されることが多いですが、大人の場合、空気を読めるのがマナーとみなされてしまうところがあるので、当事者にとってはなかなか大変な状況だと思います。

ややこしいのが、発達障害が「目に見えない脳の特性」だということ。本人は一生懸命やっているのに、周囲から「努力が足りないだけなんじゃない?」「言い訳しているだけなんじゃない?」と誤解されてしまうこともありますね。

理解されない発達障害

Image via Pixels

Q:就職や転職の際に当事者が抱えがちな悩みとは?

当事者が仕事を選ぶ上でぶつかりがちな悩みが、障害をオープンにして障害者雇用枠で働くのか、それとも一般枠で就職するかということです。現段階だと、障害者枠で理解を得ながら働きたいと思っても職種が限定されてしまうことが多かったり、かといってやりがい重視で一般枠での就職をするとサポートが得づらい状況になったり……そのうちどちらかを選択しなければならないような状況に陥ってしまいがち。企業側も、発達障害がどういうものなのかよくわからずイメージでなんとなく職種を設定しているというところがあるのかもしれません。

特性が「社会でどう作用するか」を知る

Q:KBCで行う支援の特長は?

KBCでは、大きく「①自己理解を深める、②自分に合った専門知識を習得する、③ミスマッチのない働き先を見つける」という3つのステップで支援を行っています。

「①自己理解を深める」フェーズでは、まず自分の特性を理解することからスタートします。ひと口に発達障害といっても、当事者によって苦手な分野・得意な分野は全く違うんですね。例えば、私の場合は過集中という特性がありますが、同じADHDでも集中力がどうしても続かないという方もいらっしゃいます。だからこそ「自分なりの傾向を理解する」ことが必要なんです。自分は何が得意で、何が苦手なのか、どこにストレスを感じやすいのか、どんな失敗をしてしまうことが多いのか……そういったことをはっきりさせて、自分に対する根本的な理解を深めるのが、このフェーズの最初の目標ですね。

それが明確になったら次は、自分の特性や傾向が「社会のなかでどう作用するか」を考えていきます。過集中という特性を例にとってみましょう。一点に集中して作業を続けるのが得意なので、もしかしたら職人のような仕事ではものすごく力を発揮できるかもしれません。反対に、過集中傾向のある人が接客業に就いたとしたらどうでしょうか。接客業では、お客様から頻繁に話しかけられますよね。声をかけられたときに自分のことに集中しすぎて返事を返せなかったとすると……事情を知らないお客様からしたら「無視された」と感じられてしまいますよね。自分の傾向が良いふうに作用することもあれば、好ましくない方に作用してしまうこともあります。そこまできちんと知る、というのが第二の目標ですね。

KBC内のようす

学べるスキルは、会計・ファイナンス、マーケティング、プログラミング、ビジネス英語など多岐に渡る。自分の持つビジネスアイデアを事業性、財務性などの観点からブラッシュアップしていき、最終的に経営者等の審査員の前でアイデアを発表することができるという面白い講座も。Image via KBC

KBC内のようす

Image via KBC

「②自分に合った専門知識を習得する」フェーズでは、ただテキストをなぞるだけではなく、学んだことを使えるようにしっかりトレーニングするのが特徴です。例えばエクセルの講義でも、関数の種類を学ぶだけではなく、習った関数を使ってデータを分析する、分析した結果をもとに改善策を提案するというところまでシミュレーションします。知識があるだけではなく「使える」ことこそが大切ですから。

それから、コミュニケーション力、時間管理力や最低限のマナーなど、働いていくうえで必要とされる「社会人基礎力」ってありますよね。もちろん、それは重要な力だと思いますが、KBCではそういった社会人基礎力について学ぶためだけの単独講座はあえて設けていません。代わりにスキル習得講座のなかで、課題を時間内に提出する、曖昧な指示からやるべきことを考える、などの練習をして実践的に身に着けていけるようにプログラムを組んでいます。私たちが重要視しているのは、受講者の自己肯定感が下がってしまうような状況をつくらないこと、モチベーションを保ってもらえるようにすること。単独講座でみっちりと授業することによって、受講者の中には「こんなことからやらなきゃいけないくらい自分ってだめなんだな……」と感じてしまう方もいて。それをどうしても避けたかったのでこのような形をとっています。

以上のステップを踏まえたうえで、受講者と一緒に「③ミスマッチのない働き先を見つける」フェーズに入ります。

Q:1か月ほど実際に運営してみて、反響はどうか?

生徒さんからは「自分の欠点だと思っていた点が、実は自分の強みだったと初めて知ることができた」「こんなこと学べる場所、今までにはなかった!」という声を多くいただいています。外部からも「苦しかったときにこういうサービスがあればよかった!」という声が届いていますね。「利用者がちゃんとやりがいを感じられているんだな」「ポジティブな変化に貢献できているんだな」と感じられて、本当に嬉しいですね。自分たちが信じてやってきたことは正しかったんだなと実感しています。まだまだスタートしたばかりで足りない部分もたくさんありますから、引き続き改善しながら頑張っていきたいですね。

「どう生きていくか」をデザインする

Q:発達障害は個性だという考え方について

人と違ってもその人のまま生きていこう、というコンセプトは素敵だと思います。ただ、薬を飲んだりカウンセリングを受けたり、適切な対処を受けることで生きづらさに繋がっていた特性を緩和できる人がいるのも事実。「個性だから、何もしなくて良い」と言えるかというと、また難しいところだと思うんですよね。

例えば、目が悪かったら眼鏡をかけますよね。視力そのものは変えられないけれど、ものが見えるようになります。実際にものが見づらいという不都合が起きているのに「君は君なんだから、眼鏡なんてかけなくていいんじゃない」って助言するのはちょっと違うんじゃないのかなと思うんです。「眼鏡をかけるという選択肢もあるよ」「かけてもかけてなくても、君は君だってことにかわりはないよ」という提案ができたほうが、生きやすくなるんじゃないかなって。手札はいくつか持っておいて、実際にどの道を選ぶかは自分で決める。これっていわば「生き方のデザイン」だと思うんです。そういう考え方ももう少し広がったらいいな、と思いますね。

林田絵美さん

斜め掛けバックの工夫は、林田さんの生き方デザインの一つ。「気づいたらモノを消してしまっていることが多くて。スマホも財布も、持ち物はすべてカバンに括り付けるようにしました。これを始めてから、モノを消滅させることが無くなりました(笑)」

Q:当事者が今実践できることは?

まずは、とにかく「自分のことを全面的に否定するのはやめよう」ということ。自分も以前までは過剰な自己嫌悪に陥りがちでしたが、自己否定するということは「全部、自分がだめなせいだ」っていう、ある種のネガティブな自己解決をしてしまうということでもあるんです。それでは、他の道や可能性を見つけることもできなくなってしまいます。

だから、まずは自分のことを理解することから始めていく。自分の特性がわかれば、それが社会でどう作用するのかわかってくる。対策の取りようがあるんですよ。「自分にはこんな傾向がある」と伝えられれば、周囲もサポートしやすくなりますしね。

それから、特性だけではなくて「自分はどういう状況でテンションが上がるのか」を知っておくことは本当に大切だと思います。どんな言葉を聞くとモチベーションが上がるのか、何をしていたら楽しいのか。それって人によって違いますよね。例えば、良く言われる格言で「成長するためにも苦しいほうを選べ」というものがあるじゃないですか。あれは、あくまでも「逆境に置かれることが成長のモチベーションになる人」のためのものだと思うんですよ。ハードルが高いほうが頑張れるという人も、自分にもできそうだなと思えることがモチベーションになる人という人もいる。だから、他の人にとっての正解や社会通念なんて気にしなくていい。自分にとってテンションが上がる方を選んだら良いと思いますね。

Q:当事者に対して、周囲の人ができるサポートは?

「思考プロセス」を聞くことですね。発達障害の人たちは、思考の過程でトラブルが起きて「どうしてこうなっているのか自分でも分からない」という状態に陥ってしまうことが多いんですね。そんなときに「○○しないように気を付けて」とアドバイスを貰っても、本人は「そもそもどこにどう気を付けたらいいかがわからない」ので、ますますパニックになってしまうことも。

こんなとき、現時点に至るまでにどういうふうな思考をたどってきたのか」を聞くと、本人が話しながら情報の整理整頓をすることができます。他者と一緒に確認することで、何が抜けていたかかが分かるのは、本人にとって大切な気づきになります。周囲の人にとっても、一見突飛でわけの分からない行動の裏にある理由を知ることは、今後の付き合い方に活かせる材料になるのではないでしょうか。

思考回路が混乱する

思考回路の混乱を紐解いてあげる。 Image via Pixabay

お互いの凹凸を活かしあえるように

Q:理想の社会とは?

もっと「違いに好奇心が持てる社会」になっていったらいいなと思いますね。違いをダメなものだと捉える社会は、「違いを活かせない社会」だと思うんですよ。それは、誰もが自分の凹みを埋めることだけに必死になってしまうから。そして、自分の強みを誰かのために活かすという発想に至れないからです。もちろん、苦手を克服する努力は必要だと思います。でも、誰だって完璧にはなれませんよね。自分の努力だけでは変えられないこともあります。私たちは、1人で生きているわけではありません。自分の力だけでは解決できないときには、できる人の力を貸してもらうという方法だってあると思うんです。個人で努力しつつ、足りないところは補いあって生きていく──そんな方法がとれたら、障害のあるなしに関係なく皆が生きやすい社会になるんじゃないかな、と思います。

全ての人を好きにならなくちゃいけないということはないし、最終的に相手を受け入れられなくてもいい。でも、「違うからダメだ」と最初からシャットアウトしてしまうのはもったいないと思うんです。まず、一人ひとりが「違う」のを良しとすること。そして、自分や他の人の良いところを探してみること。違いに好奇心を持つことは、社会でそれぞれの凹凸を活かしていくために、とても重要なことなのではないかと思います。

Q:今後について

現在の就労支援って、まだまだ「違うところを矯正して、人並みにできるようにする」ということを目指しているものが多いと思うんです。

でも、私たちは「違いは違いとして認めて」いきたい。そのうえで、「どうやったら自分の弱みを補っていけるか」「自分の強みを伸ばすにはどうしたらいいか」について一緒に考えていきたいと思っています。「違いを活かして世の中で活躍できる人」を増やせるようにサポートをしていきたいですね。

事業としては今後、私費で利用できるビジネスカレッジも作りたいなと思っています。国の就労移行支援制度では、「グレーゾーン(発達障害かもしれないけれどハッキリそうだとはわかっていない)」に該当する人たちは、支援対象になっていないんです。制度上、現状のKBCだと支援できる方に制限があります。でも、「診断はないけれど困っている」という人は多くいると思うんですよ。だから、自己負担で通うことができるサービスも作っていきたいですね。

凹凸を活かす

Image via Pixabay

Q:読者へのメッセージ

失敗したり、大変な想いをしたりしてきた経験が多い人ほど、「人と違うのはダメなことだ」と感じているんじゃないかと思います。ですが、人と違うということは、変なことでも恥ずかしいことでもないんです。誰もが知っている偉人にだってマヌケな失敗や、すごく残念なエピソードがあったりする。完全無欠の人なんて、いないんです。

人は誰しも、自分では変えられない何か先天的な要素を持ちながら生きています。身体的な障害や、脳の特性、生まれた国や環境……人それぞれ中身は異なれど、与えられた何かを背負って生きています。そして、その何かは自分の力だけではどうにもできないことが多いですよね。違いはあって当たり前のもの。できないところを克服しようとする努力は大切ですが、自分にムチを打ち、心を壊してまで「皆と同じにならなきゃ」と頑張る必要はないと思うんです。重要なのは、それぞれが「違いを持ちながら生きるのに向き合うこと」。そしてそのために「違いを上手にコントロールすること」です。得手不得手がない人間なんていません。私たちがすべきは、凹凸を恨むことではなく「凹を補うためにできる工夫ができないか?」を探すこと。どうしてもできない部分を上手に人に頼ること、そして自分の凸を誰かのために活用することなのです。凹凸があること自体は、悪いことでもなんでもないんですよ。だから、何があっても自分を否定することだけはしないであげてください。

そう言っている私自身も、発達障害とどう向き合っていくか模索している真っ最中なんですけどね。これからも、自分との向き合い方を磨きつづけていきます。自分が葛藤してきたことを事業に活かせれば、もっと誰かの力になれるかもしれませんしね!

運営責任者の林田さん

林田絵美さん

編集後記

「自分はダメだ」という想いは、人をがんじがらめにし、動けなくしてしまう。迷惑だと思われそうで、人を頼ることもできないし、「どうせ何をしたって状況は変わらないから」と別の方法を模索することもできない。本当はもっと楽になりたいのに、一歩も動き出せないことが悲しくて「自分を責めている自分」すら責めてしまう。──だが、そんなループを繰り返すなんて、あまりにしんどすぎる。もうこれ以上、自分を否定するのはやめにしよう。立ち止まりたくなるのは、これまで一生懸命走ってきた証拠。今動けない自分を責める必要なんてないのだ。それより、「傷つきながらも、今日まで生き抜いてきた」ことに目を向けよう。自分を認めることから全てがスタートするはずだ。

自分らしい生き方は、一日やそこらで作り上げられるものではない。つまづいたり間違ったり悩んだりして当たり前なのだ。私たちは皆、ときに立ち止まったり休んだりしながら、長い長い時間をかけて自分の心地よいスタイルを探していく。凹凸を持ちながら「上手に」生きられるように──どんなときでも自分を責めず、ゆっくり進んでいこう。

【参照サイト】キズキビジネスカレッジ
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