音楽ストリーミングサービスSpotifyで、「無音」の音楽アルバムが配信されている。7つのトラックから構成されているこのアルバムは、再生しても音楽が流れないのだ。そんな異例のアルバムが作られた背景には、フランスで聴覚障がい者支援のための研究をするというミッションが隠されていた。
現在、フランスでは、10人の聴覚障がい児のうち9人が補聴器をつけている。これらの装置は人の声を聞くことはできるが、音楽を聴くことはできない。
このアルバムを制作した27歳のダミアン・キンタールは、Sound Xのサウンドエンジニアで、サウンドデザイン事務所The Mono Companyの創設者。23歳のとき、アゼルバイジャンで開催された2015年ヨーロッパ競技大会の開会式で、テレビに関連する業績に与えられる「エミー賞」も受賞した逸材だ。障がい者支援に高い意識を持つ彼は、フランスのNGOであるINJS Paris(国立青少年聴覚障害者パリ研究所)と共同で、聴覚障がい者が振動を通して音の周波数を感じることができるシステムを開発している。
しかし研究をしていくなかで、ダミアンたちは壁にぶち当たった。聴覚障がい者の人々が快適に生活する技術開発のための資金が不足しているのだ。そこでダミアンとINJS Parisの研究グループは、「The D.E.A.F Album(聴覚障がいアルバム)」なる音楽アルバムを制作し、Spotifyで配信することにした。
この「音楽アルバム」に音楽はない。そこには、音ではなく多くの意味が込められているという。曲名をつなげてみると、「何度も再生して。これで寄付ができました。聴覚障がいを持つ若者たちが、生まれて初めてライブミュージックを聞けるように」とある。これらのトラックを再生するだけで、ストリーミングの収益が研究支援のために募金される仕組みなのだ。
まずは、Spotifyにある「The D.E.A.F Album」を無料で再生してみよう。4分間無音のアルバムを聞くというのは非常にユニークな体験で、人のためになる。
【参照サイト】D.E.A.F Album