1863年に世界に先駆けて開通したロンドン地下鉄。第二次世界大戦では防空壕の役割も果たし、長きにわたって市民のライフラインとなっている。そんなロンドン地下鉄が、再び「世界初」という快挙を成し遂げた。
ロンドン北部イズリントン地区で、地下鉄から発生する排熱を家庭や企業に送り込み、暖房として活用するプロジェクトが進められている。イギリス政府は2013年にこのプロジェクトを発表しており、これまで同地区では電気を生成するバンヒル・エネルギーセンターから約700軒の住宅や企業ビルに熱が届けられていたが、今回の発表では、2019年末までにその規模を最大1,000軒に拡大することがわかった。
世界各地でも排熱利用の研究は進められ、ストックホルムやオスロではデータセンターの熱が街の暖房に使われているが、地下鉄から出る排熱の暖房利用は、世界で初めて。
ロンドンなどの都市や、地域の産業施設では、冷却システム、火力発電所、重工業装置がある場所で必ずといっていいほど排熱が出る。大ロンドン庁(GLA)は、現在ロンドンの暖房需要の38%を満たすほどの熱が、地下鉄では浪費されていると推定している。
分散型エネルギー協会のディレクター、ティム・ロザレイ氏は「イギリスで使われるエネルギーのほぼ半分は熱によるもので、国内のエミッションの3分の1は暖房からです。政府が30年以内にカーボンニュートラル必達を宣言したため、暖房システムからカーボンを取り除かなくてはならない。そこで注目したのが、排熱を地域で使用するというアイデアでした」と述べる。
イギリス政府は2025年以降、新築の家へのガスボイラー設置を禁止しているので、今回のプロジェクトが拡大すれば、地下鉄の排熱は冬場の優秀な代替熱源となるだろう。トンネルや車両が筒状の形をしているため、「Tube」と呼ばれ親しまれているロンドン地下鉄。そのTubeは、これまで多くの人々を運んできたが、今後は家庭にぬくもりも届けるようになる。
【参照サイト】Underground line to heat up north London homes
【参照サイト】Underground line to heat up London homes during winter
【参照サイト】Waste heat from the Tube will help to warm hundreds of homes