古くから塗料や接着剤として使われてきた、漆。器類にはもちろん、伏見稲荷大社、厳島神社などの歴史的建造物にも使用されている。日本文化と密接に関わる大切な文化の一つとして知られてきた漆だが、近年はその利用が激減しているという。
プラスチックの台頭により天然漆の需要は大幅に減少、さらに高価な国産漆から比較的安価な中国産漆への移行が進み、国内の漆の自給率はわずか2%にまで減少した。また、現在市場に流通している漆器の多くは天然の漆以外の塗料を使った「合成漆器」であり、天然漆だけを利用した純粋な漆器の数は減ってきてしまっている。この状況に危機感を抱き「天然漆ならではの価値を見直し、日本の漆文化を守る」活動を行っているのがNPO法人ウルシネクストだ。
漆を利用して、近年問題視されているプラスチック問題にアプローチできないか?そう模索した彼らが宮城大学土岐謙次教授と共同で作り上げたのは、「漆と綿だけで作ったプラスチックフリーのカード」である。
漆はいったん乾燥すると固くなる性質を持っており、強度や耐久性に優れている。また、熱や湿気に強いのも特徴だ。漆はウルシノキの樹液なので、漆と綿だけで作られた乾漆カードはもちろん生分解可能だ。また、漆の採取、精製、塗り、乾燥という一連の利用工程において、大量の水や電気を使う必要がないのもエコなポイントである。
日本クレジット協会によると、平成30年度のクレジットカード発行枚数は2億7,827万枚。キャッシュカードやポイントカードなど他の種類を合わせると、世に出回っているカードの枚数はもっと多くなるだろう。これだけの数を天然漆製カードに転換できたら、地球と日本の伝統技術の保護に大きくつながるはずだ。今後の市場導入に期待がかかる。
【参照サイト】漆で未来は変えられる NPO法人ウルシネクスト
【参照サイト】一般社団法人日本クレジット協会