昨今「インスタ映え」が問題を引き起こしていることをご存知だろうか?JTB総合研究所が全国の女性を対象に行った調査によると、回答した約2割の女性がSNSを旅行先探しの参考にしているという。また、若い世代ではSNSに投稿する写真を撮影するために、旅行に出かけている人も増えている。
SNS上で切り取られた風景を求めてやってくる観光客の中には、その地域に関心を持たず写真だけ撮って立ち去ってしまう人も多い。観光地としての収入は上がらないのに、観光客の出すゴミで環境が汚れたり、地元民が利用する交通機関で渋滞が起こったりと問題だけが増加し、地域と観光客の距離が広がってしまった場所も少なくはない。
そんな観光地での問題を解決するプロジェクト「コミュニケーションコーヒースタンド」が2019年10月、香川県・父母ヶ浜にて始まった。
その美しさから「日本のウユニ」と評される香川県三豊市仁尾町の父母ヶ浜(ちちぶがはま)は、2018年頃からSNS上で一躍話題となり、昨年は30万人の観光客が訪れた。突然訪れたブームによって京都や鎌倉のようにオーバーツーリズム(観光公害)が起こってしまうことを恐れた父母ヶ浜の指定管理者である今川宗一郎氏は、コーヒーを介して観光客と地域をつなぐプロジェクトを思いついた。
今川氏が運営するコーヒースタンドでは、購入者がコーヒーカップの色を指定することで地域と関わるきっかけを作る。コーヒーカップのそれぞれの色には意味があり、「どのような父母ヶ浜になってほしいか」を投票することができる。これにより、訪れた観光客が一過性の観光客ではなく地域に関わる者として、何度も訪れる仲間になってくれることを目指しているという。
投票結果の色が多かった要望から改善を進めていき、観光客と地域住民とがコミュニケーションを取りながら、より良い父母ヶ浜に発展させていく予定だ。
コーヒースタンドでは、紙カップやプラスチックカップ、ストローは使用せず、オリジナルのマグカップでコーヒーを提供している。父母ヶ浜では20年ほど前に企業誘致のために海岸を埋め立てる計画があったのだが、美しい景色を後世に残したいという地元住民の想いから当時ゴミだらけだった浜の掃除が始まった。新しい消費によって浜を汚すゴミを生み出さないという思いが、色鮮やかなマグカップには宿っている。
今川氏はこのプロジェクトを通して「新しい日常」を築きたいと語る。「地元に全く人が来なくなるのも、人が来すぎて地元が困るのも残念ですよね。お互いが繋がり、理解しあうことによって共存し、みなさんが楽しめる環境を作ることで外と内が混ざり合う、僕らのこれからの新しい日常になれればと考えています。」
インスタ映えする写真だけがひとり歩きして、人と人の関係が疎かにならないよう、「宗一郎珈琲」は観光客にコーヒーと供にコミュニケーションのきっかけを提供している。今後、父母ヶ浜がどのような「新しさ」を築いていくのか楽しみだ。
【参照サイト】陸の孤島から始まる地域の外と内を繋ぐコミュニケーションコーヒー
画像提供:宗一郎珈琲