データと科学の力で上司と部下の掛け合いをサポートする「KAKEAI」

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近年、日本では労働人口の減少や働き方の多様化などの背景から、人事領域をテクノロジーで変革するHRTechが隆盛だ。HRTechのクラウド市場は国内で約180億円に達しており、今後も毎年40%の成長率が見込まれる規模だ。企業にとって、従業員の採用や離職率の低減とパフォーマンスの最大化に対する優先順位は高まっている。

そんな中、データと科学の力を用いて上司と部下の関係を最適化することに特化したクラウドサービス「KAKEAI」が、ラスベガスで開催された世界最大級のHRTechイベントである「HR Technology Conference & Expo」のピッチコンテストにも登場するなど、日本だけでなくグローバルで注目されている。

KAKEAI

KAKEAIは、上司と部下の関係によって起こる課題を、科学的なデータ収集とAIを用いた分析で解決する企業だ。同社は、全ての労働者が自分の能力を最大限に発揮し、幸せに働ける世界を目指している。今回は代表取締役 本田英貴さんに、データを用いた人事マネジメントの可能性や解決したい社会課題、そして上司と部下の最適な「掛け合い」を生む同社のサービスについて伺った。

本田英貴さん

筑波大学卒業後、2002年に株式会社リクルート入社。商品企画、グループ全体の新規事業開発部門の戦略スタッフなどを経て、㈱電通とのJVにおける経営企画室長。その後、㈱リクルートホールディングス人事部マネジャー。人事では「ミドルマネジメント層のメンバーマネジメント改善」施策や、「Will,Can,Must・人材開発委員会・考課・配置等」のデジタル化を実施。2015年リクルート退職後、スタートアップ数社での役員を経て2018年4月に株式会社KAKEAIを創業。

勘と経験に支えられる人事マネジメントの限界

エン・ジャパンが600名を対象にした調査によると、退職の理由として「給与が低かった」(39%)、「やりがい・達成感を感じない」(36%)、「企業の将来性に疑問を感じた」(35%)、「人間関係が悪かった」(27%)が上位にのぼった。また、マイナビ調べの管理職の悩みでは「特定の人に仕事が偏ってしまう」(41%)、次いで「新しい発想・チャレンジができていない」(22%)、「部下が育っておらず、仕事を任せられない」(20%)が続いた。

読者の中にも働く中で、上記のように「上司と合わなかった」「部下のマネジメントが分からない」などの悩みを抱えたことのある方もいるだろう。マネジャーが自分の経験上過去にうまくいった方法で部下と関わったり、人事が経験や雰囲気を元に現場への施策を決定したりするような、勘と経験に基づいたマネジメントは多くの企業で存在する。

そのようなマネジメントによって、上司と部下が共に疲弊して仕事に対して前向きに取り組めない、社員がその会社で働く意味を実感できないといった問題が生じていると本田さんは考えている。マネジメントのノウハウが属人的かつ感覚的なもので個人に依存してしまい、結果として人や組織の本来の力が発揮されず、働く人が不幸になっているというのがKAKEAIの問題意識だ。

働く人は困っているが、上司も企業も困っている

マネジャーが部下の特徴を理解して、特徴に合わせたコミュニケーションができないことは大きな課題だ。転職や副業が増加する中で、企業としても社員に自社で働く目的意識を持たせつつパフォーマンスを上げる重要性は増している。時短勤務やリモートワークなど労働環境の変化、業務量の増加、実務をこなしながら管理職も行う「プレイングマネジャー」の一般化などを受ける一方で、依然として社員のマネジメントの質は上司のスキルに委ねられている。営業職が日々の仕事を記録してフィードバックをもらいながらノウハウを共有しているように、人事マネジメントでも同じようにノウハウを蓄積・活用できないか。そのような想いから、KAKEAIはスタートしている。

KAKEAIは「かけ違いをなくして掛け合っていく」「ひとりひとりが置かれている職場の現状を変える」ことを目指すサービスだ。上司と部下がその会社で一緒に働いている理由や将来の目的を共有して日々正しく掛け合いが行われていくこと、さらには現場と人事が企業の目的と社員ひとりひとりのキャリア・将来のかけ違いをなくすことの実現を目指している。

上司と部下同士の分析から対話のアドバイスまで行うKAKEAI

KAKEAIは、現場マネジャーの力を補い、メンバーひとりひとりへの関わりの質を高めるAIクラウドサービスだ。データの力で、現場マネジャーの経験や勘に委ねていたマネジメントを可視化して、仕事の現場の改善を手助けする。

KAKEAI

KAKEAIが提供する最大の価値は、職場内の膨大なデータを蓄積してAIの分析に基づいたアドバイスをマネジャーに提供できる仕組みだ。上司が、部下に、どのような職場の状況で、どのように関わり、それを部下がどのように感じたかをすべてKAKEAI上で蓄積できる。実際の機能について、利用する際の4つのステップを見てみよう。

1.上司と部下を分析するセルフアセスメント

KAKEAIの利用は、上司と部下が最初に自分の特性を把握するセルフアセスメントを受けることからスタートする。上司と部下それぞれがKAKEAIのシステム上で質問に答えることで、仕事におけるモチベーションの生まれ方、力を発揮するための理想的な状況などを客観的に把握して、分析された特性や考え方の違いを回答者に教える。

2.職場の状況を可視化する報告システム

KAKEAIのシステム上で、「○○さんが○○の業務で困っているようだ」など、日々の仕事の中での気づきを誰でも報告できる。日々の業務の中で見えづらいメンバーの状況やチームの状況の変化などの気づきを拾い上げる仕組みだ。部下の変化をチーム全体や同僚同士でキャッチして、上司のマネジメントの目を補う役割を果たす。

3.部下への関わりをアドバイスするAI

セルフアセスメントから導かれた分析結果やシステム上で報告された職場の状況が分析されて、上司が部下に行うべき関わり方をAIがアドバイスする。主に上司と部下の面談や1on1で活用されており、ひとりひとりに合わせたコミュニケーション方法を、蓄積されたデータを元に提案する仕組みだ。上司がひとりひとりの部下にかけるべき言葉や対話の方針が、AIによってサジェストされる。

4.部下がどう感じたか生の声をフィードバック

最後に、面談や1on1で上司と話した内容が自分の役に立ったか、自分がどう思ったかを部下はKAKEAIを通じてフィードバックできる。これによって、上司が効果的な関わり方ができているか、部下のためになったかをKAKEAI上で把握することが可能だ。

このように、上司は部下に接する際の方針やコミュニケーションの方法を、日々蓄積される職場環境のデータに基づいて検討できるようになる。

データが可能にしたこと

このような仕組みが可能になった背景には、精度の高いデータを取得できるKAKEAIの工夫がある。マネジメントが未だに属人的な理由は、誰が、誰に、どのような状況で、どのように関わり、それを部下がどのように感じたか、という項目があいまいで、蓄積しにくいことが大きい。KAKEAIは、日々の業務で使いやすいデザインやシステムを用いて、これらのデータを取得可能にしている点が大きな特徴だ。

KAKEAIが必要としているデータは、「上司部下それぞれの特性」「仕事環境や業務の状況」「上司が部下にどうかかわったか」「それに対して部下がどう感じたか」の4つだ。

それぞれを「セルフアセスメント診断」「同僚からの気づき」「上司の言動や関わり方の記録」「部下によるフィードバック」の送信の4つの機能をKAKEAI上から行えるようにして、定量的につかみにくい上司部下の関係やコミュニケーションの情報をデータ化している。このうち1つでも要素が欠けると根拠のあるアドバイスが提供できないため、「データをそろえることが一番重要」だと本田さんはいう。

また、すべてのデータはまとめられ、人事や経営部門の視点で分析ができる。今まで可視化が難しかった組織・チームの状況や上司と部下の関係が見られることで、人事や経営部門が現場に対してどのようなサポートを行うべきか検討する材料にもなる。

取得が難しかったマネジメントのデータをそろえて、AIの分析を元にパーソナライズされたアドバイスを行い、そのアドバイスに対してフィードバックを行うという一連のプロセスは過去にはなかったものだ。より多くの企業が利用することで、データが蓄積されてAIが学習できる量も増えて、より効果的なノウハウが生み出される。

それによって提供できるアドバイスの精度が向上するため、データが提供できる価値は今後もさらに高まると本田さんは考えている。

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Image via Shutterstock

提供できた価値とこれからの展望

実際に導入されている企業では、現場から高い評価を受け始めている。例えば導入されたチームのメンバーからは、「上司が自分の考えを押し付けなくなった」「上司の自分に対する対応が自分に合うようになって仕事がしやすい」といった声が上がっている。また、マネージャーも「あるメンバーと感覚が合わない理由に気づけた」「マネジメントが楽になった」といった実感があるようだ。

現場と人事の間でも変化が見られている。「これまでつかめなかった現場の実態がつかめる」「人事として現場にどう役立てるかがつかめる」「人事の行う施策の意味や、誰が何に困っているかを把握できるようになった」など、現場をサポートする上で大きな価値を発揮しているそうだ。

現在は幅広い規模と業種の企業から問い合わせがあり、上司部下の関係への問題意識は広く存在する大きな社会問題だと本田さんは改めて実感しているという。科学的な知見からマネジメントをサポートすることで働く人の現状を変える、上司と部下の掛け合いを生むという点では、KAKEAIによって定性的な変化の兆しが見られ、「導入した際の手ごたえがある」と本田さんは言う。

しかし、より多くの働く人の負を解消するためには、まずは企業に導入される必要があり、その導入を決めるのは人事などの経営陣が中心だ。企業がKAKEAIに価値を感じて導入されて、初めて現場の働く人達ひとりひとりの助けになる。今後は企業へのメリットを示せるよう、離職率やエンゲージメント、生産性など定量的なメリットを測定できる仕組み作りを進めていく予定だ。

同じ課題に取り組む人たちといかに仲間になるか

企業を退職する人の約25%が人間関係を理由に退職しているという調査結果も存在し、職場でのかけ違いは大きな課題だ。海外のHR Technology Conferenceでもそのような課題の解決に興味を持たれるほか、「人種や宗教の違いに対応できる機能が欲しい」と相談されるなど、国外でも期待は大きい。

サービスの特長上、より多くのデータを蓄積することでより適切なマネジメントのノウハウが提供され、結果的にKAKEAIが提供できる価値は大きくなることもあり、中長期的には海外への展開も視野に入れているという。

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その反面、KAKEAIが取り組む課題の難しさも見えてきたという。KAKEAIに問い合わせがある企業は増えているが、どの企業も職場における上司と部下の課題への問題意識が強い企業である反面、この課題の解決に関心の強い企業はまだ多くない。

上司と部下の関係という大きな課題は、「KAKEAIの導入を考えている企業と『一緒に世の中を変えていく』ぐらいの意識がないと解決が難しい」と本田さんは考えている。より多くの企業がKAKEAIを使って働く人を支えられるために、企業が導入しやすくなるよう機能の充実や成果測定の仕組みを今後進めていくそうだ。

近年、「事業と社会課題への取り組みの垣根がなくなってきている」と本田さんは感じているという。ビジネスで社会課題を解決する取り組みは増えおり、社会課題の解決を目的としながら収益化できるビジネスモデルも生まれている。

「個人のバックグラウンドや想いによって取り組みの形は多種多様だが、背景にある問題意識は一緒だと思う。世の中を変えていく仲間として一緒に取り組みたい」。自身の経験や問題意識からKAKEAIをスタートさせた本田さんは、自身が取り組む社会課題についてそう話す。

「上司と部下の関係の負」に対してテクノロジーで解決する取り組みは、一見複雑そうに見えるかもしれないし、ビジネスライクに見えるかもしれない。しかし、その根底にあるのは本田さん自身の経験や、「ひとりひとりが置かれている職場の現状を変えたい」という人に寄り添った問題意識だ。テクノロジーを活用したビジネスが、困っている人を支えて社会課題を解決するという最先端の事例を、KAKEAIは私たちに示してくれる。

【参照サイト】HRTechクラウド市場の実態と展望2018年度版
【参照サイト】8,600名に聞いた「退職のきっかけ」調査。転職理由は「給与」「やりがいのなさ」「企業の将来性」。―『エン転職』ユーザーアンケート調査 結果発表―

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