普段どれくらいの服が着回されているだろうか。安価でデザインが豊富なファストファッションブランドで、ちょっとした自分のご褒美に洋服を買うこともあるだろう。
国際環境NGOグリーンピースのレポート『TIME OUT FOR FAST FASHION』によると、2000年の「ファストファッション」の出現以来、人々は2倍の服を購入するようになり、服を以前の半分の期間しか着なくなっているそうだ。確かに、毎回店舗に行くたびに商品が変わっているブランドが多いため、目移りしてしまう。
しかし、そのようにたくさんの商品を大量に生産するがゆえに発生する社会課題も多い。例えば、2013年にバングラデシュで27のファッションブランドの縫製工場が入っていた「ラナ・プラザ」が崩落し、死者1,100人以上の死者を出した事故によって縫製工場のずさんな安全管理が露呈したように、労働における問題もある。また、比較的安く、いまや60%の衣服に使われているポリエステルの使用によるCO2排出量は、綿のほぼ3倍になると言われ、さらに簡単に分解されないために、洗濯するたび合成マイクロファイバーが衣服から放出され、最終的に川や海に流れ込み、分解されるまでに数十年かかる可能性があるなど、環境負荷も高い。
このような環境問題を抱えるファッションの課題を通して近年ではモノ自体の価値や消費そのものの問い直しが重要視されている。例えば「エシカルファッション」という「人と地球にやさしいファッション」が注目を集め、素材の選定、生産、販売までのプロセスで人と地球環境に配慮して作られたファッションを目指す動きが高まっており、ファッション業界のキーワードとなっている。
そのような動きを受けながらも、実際に個人でどんな行動を起こせば良いか分からない、という声もあるはず。そんな中、グリーンピースでは一人ひとりのクリエイティビティを活かし、消費と気候変動への影響に対し、ポジティブで楽しい解決策を世界中で実践するムーブメント「MAKESMTHNG」を実施している。個人が古着を積極的に選んで購入したり、リメイクやスワップ(交換)したりなど、新たな服を買わないための様々なアクションをグリーンピースが発信・促進している。
今回は、ファストファッションの大量消費をめぐる課題の共有と、エシカルファッションブランド「TSU.NA.GU.」との草木染めワークショップで、着なくなった白い服を新しく生まれ変わらせる草木染めから、服との向き合い方を考えた。
大量消費に替わる「クラフティビズム」を
12月はクリスマスや年末など「消費」が増える時期。消費による環境負荷が強くなる時期だからこそ、グリーンピースではモノを買わないように修理したり交換したりするためのヒントについて、世界中でワークショップを展開している。
そういった日々の暮らしの中で出来るポジティブで楽しいアクションが積み重なることで、大量消費に替わる「クラフティビズム(問題解決のために、手作りの力を使ったアクションをすること)」の実践に繋がる、とグリーンピース・ジャパンの石川さんは語った。
ファッションとCO2の関係は強く、多くの二酸化炭素を排出しながら衣類を輸入したのにも関わらず、結局活用されないまま捨てられている現状がある。
衣類の製造や加工において世界のCO2排出量の約3%を占めている中、日本は97.65%の衣類を輸入に頼っているものの、リユースやリサイクル、リペアされるのは26%と低いそうだ。
こういった現状は、環境問題にも影響をもたらす。2015~2019年において世界の平均気温が観測史上最高となる見通しが発表されたり、日本でも観測史上最高気温を記録するような猛暑や大型台風などの自然災害が多く発生したりしている。最近でも、2018年に世界中で起きた異常気象による被害のなかで、最も被害が深刻だった国は日本であるとした調査結果も出ているそうだ。 安定的な気候が守られていない危機的な状況であることから「地球温暖化」ではなく「気候危機」とも言われる。
グリーンピースでは、個人ができることの一つとして、きちんと手入れをしたり、修理をしたり、スタイルを変えたり、友人と交換したりして楽しみながら、服をより長く着る工夫をすることが一番簡単で誰にでもできることだと考えている。衣服の寿命を倍(1年から2年)に伸ばすだけで、温室効果ガスの排出が年間24%削減され、また、古着を買うことによっても同様に、製造過程におけるエネルギー消費を節約することができる。
そして、この冬「MAKESMTHNG」をスタートし、多様なバックグラウンドを持つ人々が知恵やスキルを共有し、セカンドハンドの楽しさを発信したり、一緒に作ったり、直したり、交換するような場をつくっていくそうだ。そして、「小さなアクション+大量消費に替わるクラフティビズム」こそ、「MAKESMTHNG」のようなワクワク感を大切にした環境アクションにつながる。
草木染めは「着る漢方」
次に、草木染めランジェリーブランドと、若者向けのエシカルファッションブランド「一般社団法人TSUNAGU」を展開する小森優美さんを講師に、草木染めワークショップを開催。
草木は、消臭効果、細菌増殖の抑制や虫除け効果のあるインド藍や、古くから「浄血の花」と言われ婦人病や神経痛の女性の下着の染色に使用されてきた茜など、様々な効能があると言われてきた。今回は、ロッグウッド、マリーゴールド、茜、コチニールなどの染料から選び、好きな色に染めることに。
「エシカルファッション」ができること
最後は、今回のワークショップの講師 小森優美さんから「エシカルファッション」についてのレクチャー。
もともとファストファッションブランドのデザイナーだった小森さん。約10年前の当時は小森さんが働いていたファストファッションのブランドでは、1つのデザインのTシャツにつき、多い時では約2万枚製造しており、当時は70%が売り上げ達成率だったため、6000枚が廃棄されていい前提の値段設定で初めから製造していた。半年で数百点もの商品が製造されており、たった一つのファストファッションブランドでも毎シーズン何万枚もの服が廃棄されていると予想できたそうだ。今ではその達成率が業界全体で50%にまで下がり、製造する服は売れなければ大部分がゴミになるかもしれない前提で生産されている、と話す。
小森さんは2010年に独立した後、ファストファッションのネットショップを立ち上げたものの、2011年の東日本大震災の原発事故をきっかけに、ものや食料がどのように作られるのか、を自分自身が気にするようになったそうだ。個人のレベルでオーガニックや品質の良いものを選択していたものの、当時働いていたファストファッションに目を向けると、明らかにどこかの部分で搾取をしていないと出来ない価格帯やその生産背景に対する不透明性への違和感が拭えなかったそう。その後、小森さんは環境や人に優しく透明なものを、自らの手で作りたいという想いで2013年に「Liv:ra」と言う草木染めランジェリーブランドを立ち上げた。
「Liv:ra」を通して人や環境にも優しいファッションを発信する中で、エシカルファッションに強い関心を持つ若者たちとの出会いから、2018年には「一般社団法人TSUNAGU」を立ち上げ、若者向けエシカルファッションブランドをスタート。昨年には徳島県の藍染とコラボレーションした商品を開発し、「伝統ものづくり」の視点を持って日本発のエシカルファッションを発信している。
ファッションを通してあまり堅苦しくなく、楽しくポジティブな形で活動をしていきたい、と話す小森さん。グリーンピース・ジャパンのインスタグラムからもお家でできる様々なアイディアを提案しているので、ぜひグリーンピース・ジャパンのインスタグラムやハッシュタグ「#makesmthng」で世界中のクリエイティブなアクションをみて欲しい。
レポート後記
「エシカルファッション」と聞くと、エシカルなブランドで新しくアイテムを買わないといけないように思いがちかもしれないが、環境にも人にも優しいファッションの選択肢はそれだけではない。古着を選択してモノの循環を大切にしたり、自分で服をリメイクしたりすることも今まで着てきた洋服との関係性を見直す一つの手段。何よりこのワークショップを通して、自分自身がどんなファッションを心地よいと思うかを考えるきっかけになった。
筆者も着なくなった服を染め直すことの楽しさを実感したので、「makesmthng」を家族や友人たちにもシェアしながら実践していきたいと思う。