2020年2月21日から23日(金・土・日)の3日間、東京都渋谷区で「学生気候危機サミット」が開催された。スウェーデンの高校生であり環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが国会前で座り込みを始めた時から半年後の2019年2月には、日本でもFridays For Futureのアクションが始まった。同年9月の「気候変動マーチ」では日本全国で5000人が参加し、11月には27ヶ所でマーチが企画されるなど、その規模は驚異的なスピードで拡大している。
「気候変動」が日本社会でも大きな話題となっている今、全国のZ世代(1996年~2012年生まれ)と呼ばれる若者が集い、地域を超えて「繋がり」、気候変動について「学び」、2020年に向けて「行動する」計画を立てる場として開催された、有志団体「Youth for One Earth」による学生気候危機サミット。今回は、3日間に及ぶサミットの模様と、それから1か月が経った参加者の変化をレポートしたい。
Youth for One Earth
日本で気候変動対策を求める若い世代の声を大きくするべく、青年環境NGO Climate Youth Japan、Fridays For Future Tokyo、NO YOUTH NO JAPANの有志メンバーが集い、学生気候危機サミットを企画した。地球一個分で足りるような暮らしや社会を実現するためのシステムチェンジを起こすために、活動している。
1日目 同世代の仲間と「繋がる」
1日目は全国から集まったメンバー同士が繋がる時間となった。「グローバル気候マーチ」の際に使用するコール(呼びかけ)を考えたり、各自が起こしているアクションについて全体の場でシェアした。
初日はアイスブレイクから始まった。全国各地から集まった学生たちは、「なぜ自分は気候危機のために行動を起こしているのか?」「なぜ自分はこのサミットに参加しているのか?」など自分自身と向き合う時間となり、お互いに気候危機に対する思いを共有した。「自分の遊び場である自然がなくなってしまうのがいやだ」「ボルネオに行って森林伐採を目の当たりにした」など様々な原体験が飛び交い、会場の熱気は一段と高まった。
サミットでは3日間「ファミリー」という大きなグループに分かれ、講義やディスカッションを行った。自己紹介の後は「グローバル気候マーチ」の時に使用する「コール」をファミリーごとに考えた。「地球を背負ってワッショイワッショイ」や、「新しいものを買わずにアップサイクルアップサイクル〜」など、祭りの様に賑やかなものから、プラスチックの利用に問題提起をするものまで沢山のアイデアが生まれた。
その後、参加者が各地で起こしているアクションを全体の前でピッチ。福島出身の吉田幸希さん(高校2年生)は「ふくえねラボ」という取り組みを紹介。3.11で被災した経験から、原発ではなく再生可能エネルギーに切り替えた社会を実現するために、気候変動や再生可能エネルギーに関してのワークショップを福島・仙台で開催しており、今後は日本全国での開催をしていきたいと語った。
続いて今回イベントのサポートをしている、会場のEDGEofとグローバルコミュニティBoma Japanについての紹介が。EDGEofはイノベーション創出を目指したクリエイティブスペースで、Boma Japanは社内の多様性やビジネスの持続可能性に向けた企業向けプログラム、若者手動組織のエンパワーメント、経済的、社会的、環境的な問題を解決するための共同アクションサークルの活動を行っている。
給水アプリ「MyMizu」と国際環境NGOのGreenpeace Japan、Fridays For Futureによるイベント「避けては通れないプラスチックと気候変動の話をしよう」も開催された。無料給水スポットを検索できるアプリを開発し、マイボトル給水の活動を展開するMyMizu代表のロビン・ルイス・敬さんと、環境問題に対して精力的に活動を続けている国際環境NGOのGreenpeace Japanの大舘さんからプラスチック問題の観点から見た気候変動の現状や、気候変動アクションを楽しく取り組みやすいものにする必要性についてお話があった。
2日目 気候変動を「学ぶ」
2日目は気候変動の科学や現状の政策についての知識を得て、具体的にエネルギー・行政・ビジネスに変革を起こすためのヒントを様々な登壇者から学んだ。夜には日本でのFridays For Futureの1周年記念パーティーを開催し、ムーブメントの発展を祝った。
まず、国立環境研究所の江守正多さん、気候ネットワークの桃井貴子さん、環境政策対話研究所の柳下正治さん、株式会社みんな電力の上山翔さん、株式会社リコーの則武祐二さんによる、気候変動に関する研究・政策、それに取り組むための行政や企業の取り組みについてプレゼンテーションがあった。
1つ目の講演で語ったのは国立環境研究所対話センターの江守正多さん。「気候変動の科学」をテーマに、気候変動の研究と懐疑論者に対して反論するための知識を学んだ。
「パリ協定の長期目標を達成するためには、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質0にしなければならない。また、温暖化が人間の手に負えなくなる『臨界点』を超えないためにも、早急な温室効果ガスの排出量削減が求められている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が定める、2050年までに温室効果ガスの排出量の正味ゼロを実現するためには、社会の大転換が起きなくてはならない。しかし、私たちは必ずしも無関心な人たちを変える必要はない。分煙革命の時のように、自分たちに近い考えを持っている人たちを動かすだけでも十分に変化を起こすことは可能だ。皆さんはそれを信じて突き進んで欲しい。」と江守さんは語った。
続いて、気候ネットワークの桃井貴子さんが日本と世界の気候変動政策について解説。グレタ・トゥーンベリさんの祖国スウェーデンは、世界で4番目に気候変動に対抗するための政策が進んでいるものの、気候変動対策で世界をリードするスウェーデンであっても、その温室効果ガス排出量削減目標はパリ協定の掲げる1.5度目標を実現するためには不十分であるという。一方で、日本の気候変動対策は世界で49位であり、国際社会から大きな遅れをとっている現状がある。
専門家からのお話を受けた後、Fridays For Future Tokyoが考案した「説得納得ゲーム」を実施。 ペアになって「ダイベストメント(石炭に投融資する銀行から口座を移し変えること)」「パワーシフト(電力を再エネに変えること)」「プラスチック削減」「牛肉を控えること」「CO2を排出しない交通手段」といった気候変動解決に向けて起こせるようなアクションを相手に取るよう説得しあった。説得された人は個人版「気候非常事態宣言」に署名し、今後のアクションを宣言した。
続いて、株式会社リコーとみんな電力株式会社による企業セッションにうつった。国内で初めてRE100(企業の再エネ100%宣言)に加盟をし、脱炭素社会実現に向けた企業グループ「日本気候リーダーズパートナーシップ」に初期から携わっているリコーの則武さんからは、ビジネスにおける気候変動への取り組みについてのお話があった。「顔の見える電力」をテーマに、世界でも類例のない電力小売サービスを展開するみんな電力の上山さんは、「家庭から出る二酸化炭素の約半分が電気に由来している。この排出量は、使っている電気がどのように発電されたかによって変わる。再生可能エネルギーから作られた電気を使うことで、二酸化炭素の排出量を減らすことができる。」と語った。
企業の取り組みについてお話を聞いた後、2019年に従業員が投票に行くために直営店を閉店させた「Vote Our Planet」というキャンペーンを立ち上げたパタゴニアJapanの中西悦子さんと、「学生気候危機サミット」主催者の一人である「No Youth No Japan」代表の能條桃子さんが「気候変動政策を選挙での争点にする」ための選挙ワークショップを開催。次の衆議院選挙に向けて、国会議員に対して気候変動政策に取り組んでもらうために、どんな質問をするか?というテーマで、それぞれ「気温上昇を何度までに抑えたいか?」「環境保全のために個人的に行っているアクションはあるか?」など、アイデアを考えた。
2日目の最後は、環境政策対話研究所の柳下正治さんから日本の政策決定においての現状や、市民参加のレベルが1990年以前の水準まで落ちており、国際的に見たら周回遅れの状況であるというお話があった。複雑な社会課題が多く混在する今日では、政治家や専門家だけに議論を任せることは危険であり、議論の内容を鮮明に出来る専門家と一般市民の声を反映させることが極めて重要になっている。しかし、必ずしも議論を経て出された結論が全員が納得できるものとは限らないのが現実だ。そういった中で、アクティビスト自身が満足いかない結論に対して果たして納得できるか?という問いも生まれていた。
夜にはFridays For Future Japanの1周年記念のパーティーを開催。歌手のローホーさんがFridays For Futureのために製作した楽曲を披露し、参加者と一緒に生演奏で1周年を祝った。
3日目 具体的に「行動する」
3日目となる最終日は、次のアクションを計画する日となった。長く日本で気候変動問題や運動に関わってきた活動家との対談からヒントを得て、サミットの後に起こすアクションを企業・学校・政治・自治体と言ったターゲットに分けて計画した。
まず、活動家から過去の運動について学び、自分たちのアクションへのヒントを得るため、350.org Japanの立ち上げから市民レベルの気候変動アクションを進めてきた清水イアンさん、市民の政治参加に携わってきた竹之下惟基さん、JCLP(RE100事務局)の松尾雄介さんにお話をうかがった。「戦略的にパッションを燃やして動いていくことが大切だ」、「無関心な人ではなく、響きそうな人たちをターゲットにすることが効果的」「今まで誰もやったことのない運動だからこそ、今みんなはどこまでも出来る可能性に満ち溢れている」といった、三者三様のアドバイスを得た。
次は、具体的なアクションを考える「Let’s Plan Next Action」の時間。3日間の学びを踏まえて、1.5度に気温上昇を止めるために「社会の大きな仕組み」を変えるアクションを計画し、高校/大学・企業・地方自治体・政府をテーマに具体的なターゲットと、アクションを通して変わって欲しい姿を考えた。
実際にCOPに参加をし、政府や企業に対するアドボカシーを進める青年環境NGO Climate Youth JapanのメンバーからCOP25への参加の報告会を受けた。日本では遠い存在に感じるCOPにおいての会議の裏側や各国の若者との交流などから得た学びを共有し、参加者がCOPをより身近に感じるきっかけとなった。
午後には、午前中に考えたターゲット(企業・政府・地方自治体・高校/大学)へのアクションのアイデアを実際に行動に移すために、サミットが終わった後に各自が取り組むキャンペーンと4月までの具体的なスケジュールを考えた。参加者の中からは、各学校でFridays For Future発足を増やす”FFF Schools”のスタートや、ディズニーランドの運営主体であるオリエンタルランドにRE100宣言をするように働きかけるといったアイデアが生まれた。
続いて、アジアインスティチュートのエマニュエル・パストリッチさんと、Extinction Rebellion Japanのメンバーで東洋大学教授のチャールズ・カベル教授から、海外の他の運動からの学びを得た。「環境保全や気候変動対策を求める活動をする上で、自分と同じ思想を持っている人たちとのみ情報交換をすることは、理想的な活動の仕方ではない。様々な立場の人、自分とは別の視野を持っている人たちとも関わる必要がある。」とエマニュエルさんは語った。
全てのプログラムが終わり、参加者は初日に出来たファミリーに分かれてそれぞれ3日間のサミットで学んだことを振り返ったのち、全体で思いを共有した。高校1年の坂本亮さんは「自分たちなら、令和維新を起こせると思う!この時代に大転換をみんなで起こそう」と語り、会場は大きな熱気に包まれて解散した。
若者主導の環境活動は、まだまだ続く
サミット後、参加した高校・大学生は地域を超えてアクションを起こし始めており、いくつかその例を紹介する。
Fridays For Futureではサミットで初めて各地のメンバーが集結したことをきっかけに、4月24日の「グローバル気候マーチ」に向けて日本全体での連携が急速に進んでいる。前で紹介したFFF Schoolsを立ち上げる案については、スタートに向けて各地の高校生を中心に動いており、コロナ対策で学校がないタイミングにオンラインで勉強会を主催するなど企画を進めている。Fridays For Future Tokyoのメンバーたちを中心にみずほ銀行に対して石炭火力発電事業への融資を止めるように訴えるアクションが3/6に各地で開催され、オンラインでのアクションは今でも続いている。
司会を務めた勝見仁泰さん(パタゴニア渋谷スタッフ)と井上寛人さん(FFF東京)を中心に環境に配慮をした企業に就職しようという「エシカル就活」を進めるために、環境に優しいビジネスを行う企業だけを集めた就活説明会の企画も進んでいる。
今後も「Youth for One Earth」では、今回のような気候変動について1から学びたい人向けのトレーニングイベントを全国各地で開催することを計画しているそうだ。今回のサミットをきっかけとして、全国各地の若者の協力体制が一気に促された。これからの数年で大幅に社会システムを変えて1.5度目標を達成しなければならないという、今までの世代が直面したこともないチャレンジに彼らは挑んでいる。しかし、先例がないということをネガティブには捉えていない。どこまで運動を突き進められるか、若者たちが持つ可能性は無限大だ。
編集後記
筆者自身、昨年開催された「グローバル気候マーチ」に参加したことがきっかけで、同世代の環境問題への意識がますます高まっているのを感じている。一方で、「環境問題」自体が「意識高い系」と思われやすいトピックでもある。加えて、グレタさんの「How dare you?(よくもそんなことを。)」という強い怒りの言葉が、世代間の二項対立を生んでいるようにも感じた。
しかし、環境問題はそういった一部の「意識高い系」や世代間の問題ではなく、私たち一人一人に関わることであり、世代や所属を超えて取り組むことに大きな意義がある。今回のサミットのように、さまざまなセクターが一堂に会し、目指していきたい未来に向けて取り組むことの重要性をあらためて感じた。そういった対話の積み重ねこそが、やがて大きな原動力になると筆者自身も信じている。
執筆協力者:酒井功雄さん、テヘラ二 ダニエルさん