いま、世界が直面する危機
気候変動、資源の枯渇、大気汚染、生物多様性の破壊、海洋プラスチック汚染。いま、私たちが直面している社会の課題は、数を挙げればきりがありません。一方で、多くの人がこれらのグローバルな課題を認識し、どうにかしたいと願い、行動を起こしています。
コロナが、それを顕在化してくれた
そんなさなかに起こった新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の世界的流行は、私たちの暮らし方や意識に大きな影響を与えました。
まずグローバルな視点から見てみると、経済活動が減速した結果、一時的に世界のCO2排出量は大きく減少し、一部の地域では大気汚染も大きく改善しました。束の間に見えた地球本来の美しい姿は、改めて私たちの経済活動が自然にもたらしていた影響を顕在化してくれました。
また、グローバルのサプライチェーンが絶たれたことで食糧不安が広がり、都心のスーパーからは食料が一気に消えるという現象も起こりました。普段から食やエネルギーを海外や地方といった他者に依存して生きている都市型の生活がいかに不安定なものなのか、改めて多くの人が実感したのではないでしょうか。
そもそも今回のコロナの原因も、人間による自然破壊の結果として、本来接することがなかった野生動物と人間の距離が近づき、人獣共通感染症のリスクが高まったことにあるとも言われています。生物多様性を保護することは、わたしたち人間にとっても大事であることを身をもって体験しました。
そして、私たちの日常生活の中でもコロナによって従来の暮らしが抱えるリスクが顕在化しています。実際に、爆発的にコロナの感染が拡大したのは、コンクリートにより自然と分断され、人間活動のために作られた3密(密閉空間、密集場所、密接場面)の都市空間でした。
また、都市化が進み、横と横のつながりがないために周りの人を頼れない都市の人々の不安が、先述したようなコロナ禍における買いだめなどの利己的な消費行動や、リモートワークによる孤独化の問題につながりました。
このような根源的な不安を抱えているからこそ、お金を稼ぐことが大事になり、必要以上に仕事を頑張ることが当たり前になる。結果として、日々の暮らしを大事にできなくなってしまう。こうして仕事と暮らしの分断が起きました。仕事がメインの人生となり、自分と対話する時間が持てないため、「やらないといけない(と思い込んでいる)こと」と「本当にやりたいこと」との分断も顕著になりました。
このようにコロナ禍において私たちが目にしたものを改めて俯瞰してみると、これまでの経済やシステムは、人間と自然、人間と人間、生産と消費、都市と地方、仕事と暮らしなど、あらゆるものを分断することで成り立ってきたのではないかと感じます。
いま、世界はコロナからの回復に向けて経済活動を再開し始めていますが、このタイミングで私たちが取り戻したいのは、本当に「分断」を生み出す社会でしょうか? 私たち一人一人が新しい経済や社会、暮らしのありかたを模索している今だからこそ、IDEAS FOR GOODが注目したのが、「つながり」です。
いまこそ、つながり直すとき
これからの世の中を考えるうえで、生産と消費、人間と自然、人間と人間、都市と地方など、あらゆるものが分断されるのではなく、つながり直されることが必要なのではないか。私たちはそう考えました。
生産者と消費者がつながることで、生産者は流通先を、消費者は食べ物を確保する不安が軽減されます。また、たとえば、規格外の野菜でもいいのに、消費者の顔が見えないことで、誰も文句の言わない形の綺麗な野菜しか出荷できない、というミスコミュニケーションもなくなります。消費者が欲しい量が分かるから、フードロスも減るでしょう。
人間と自然を分けて考えるのではなく、人間を自然の一部として捉え直すことで、「究極は人間がいないほうが自然のため」といった自己否定的な考え方ではなく、人間と自然が共生する関係性を考えるようになります。
人間と人間がつながることで、お金ではなく信頼やつながりによる安心が生まれます。
都市と地方がつながることで、都市に暮らす人が関係人口として地方に関わり、地方で一緒に生産するという共生のありかたを考えられます。
このように、様々なつながりが可視化され、お互いがお互いの顔を見えるようになれば、わざわざお金を使って安心を買う必要もなくなります。”Just enough”(必要な分だけ)で経済が回るようになるのではないでしょうか。
大事なのは、過去を否定しないこと
つながり直すうえでは、従来の経済や社会のありかたを否定しないことも大事です。なぜなら、わたしたちのいまも、これから作りたい未来も、過去とつながっているから。実際に、これまでの経済や社会が私たちにくれたものもたくさんあるのです。
たとえば、コロナ禍において、私たちはテクノロジーやSNSを通じて生産者と直接つながれることを知りました。ITのおかげでリモートワークもできるようになり、生産する場所と消費する場所を近づけられる可能性も高まりました。他にも、ブロックチェーンやIoT技術によってサプライチェーンを透明化することで、物理的に生産と消費を近づけることが難しい商品でも、お互いの信頼を確保することができるようになりました。シェアリングエコノミーなどのライフスタイルの変化によって、従来の地縁血縁によらない、新たなつながりも生まれています。
ただ過去を否定するのではなく、これらの恩恵を活かしながら、どのようにつながりをリデザインするか、それが大事だと私たちは考えます。
Design for Good 〜つながりのリ・デザイン展〜とは?
自分は今どんな「つながり」を持っていて、そのうちのどんな「つながり」に心地よさを感じているのか?どんな「つながり」が欲しくて、どんな「つながり」は手放したいか?──このように自分を取り巻く様々なつながりを見つめ直してみることが、自分らしく無理のない、楽しいサステナブルな暮らしにつながるとIDEAS FOR GOODは信じています。
そこで、今回、自分が自然や人とどのような「つながり」をもっているのかを可視化し、これからどんな「つながり」を築いていきたいのか、読者の皆さんと一緒に考えていきたいと思い、今回IDEAS FOR GOODでは、「Design for Good 〜つながりのリ・デザイン展〜」を企画しました。
考え直したい3つのつながり
今回の企画展では、主に以下3つの「つながり」について見ていきます。
自然とのつながり
外出自粛期間中に自宅に籠りきりだった際、気づいたら「太陽が恋しいな」「綺麗な景色を見て癒されたいな」と考えている自分がいて、思わず「普段は意識しないけれど自分にとっても自然って大事なモノだったのかな」などと感じた人もいるのではないでしょうか。
都市化が進み、建物の中にいる時間が長くなったことや、グローバル化が進み、経済のために自然が破壊されるようになったことから、見えにくくなった自然との「つながり」を可視化し、自然とわたしたちの関係性を見つめなおします。
人とのつながり
外出自粛期間中に、レストラン用の食材が大量に余っている生産者を支援しようと、SNS上で直接農家から野菜を購入することができる仕組みがはじまりました。また、新型コロナウイルス感染症の影響が拡大するなか、日々の生活を支えてくださる方への感謝の気持ちを伝えるため手紙を送ったり窓からライトアップをしたりする動きもあります。
一人ひとりの顔や想いが直接伝わることによって、人との「つながり」を実感した人も少なくありません。効率を追求する大量生産・大量消費のシステムは、グローバルにサプライチェーンを拡大させ、結果として生産者と消費者の分断や地域コミュニティの弱体化など、顔が見える関係性を持ちづらくしています。この課題を解決するユニークな取り組みを紹介しながら、未来における人と人との古くて新しいつながりかたを模索します。
自分とのつながり
外出自粛のため、自宅勤務に切り替え通勤時間分の時間が自由に使えるようになった。満員電車に乗る回数が減り、ストレスが大幅に減った。断り切れずに付き合いで参加していた飲み会に出なくて良くなった。
─これまでに積み重ねていた少しの無理をする必要がなくなり、自分の本当に好きなことをしたりリラックスしたりできる時間が持てた、という人も少なくないのではないでしょうか。
自分のうちからわき起こる感情や欲求ではなく、「しなければならない」「すべき」と論理的に考え続けてしまうことで、自分の内面との「つながり」が断絶されてしまっているのかもしれません。
自分自身の「気持ちが良い」「なんだか好き」「楽で楽しい」という感情に寄り添ったアイテムを展示します。
これから、どう暮らしたいか?
人はいつだって、様々な「つながり」にいかされています。豊かさや便利さにもまれるうち忘れてしまった大切なつながりを見つめ直し、今だからこそできる素敵なつながり方を探る。つながりたいもの、反対につながりたくないものは何かを考える。そして、選択したり断ち切ることで、自分が求めている未来を実現する。
この企画展は、「つながり」をリデザインすることで、みなさんの日々の生活がもっと気持ちの良いものになることを願っています。
企画展の概要
今回の企画展は、展示会オープンまでのトークライブイベントと、本展示会の2部構成で行われます。展示が完成するまでのプロセスも皆さんに共有し、共につくりあげていくことで、今回の企画自体からも新たなつながりを生み出します。
- 8週連続トークライブ配信イベント(6月中旬~8月中旬)
- alːku阿佐ヶ谷(アルーク阿佐ヶ谷)「Number 0」スペースにおける展示会(8月下旬)
8週連続トークライブ配信イベント(6月中旬~8月中旬)
今回の企画展では、過去IDEAS FOR GOODで取材した方々の中から「つながりのリ・デザイン」を実践されている方にコラボレーターとしてご参加いただき、一緒に展示を作り上げていきます。6月中旬~8月上旬のプレオープン期間には、各週1名ずつコラボレーターを展示スペースにお招きしトークライブを配信。視聴者の皆様からの質問をもとに「つながり」について考えていきます。また、その際コラボレーターには各自展示したい「つながり」にまつわるアイテムを持ち寄っていただきます。全8回のトークライブを終えるまでに、こうして少しずつ展示を完成させていきます。
8月上旬からはいよいよ、企画展の一般公開を開始。コラボレーターの皆様の持ち寄ったアイテムに加え、IDEAS FOR GOOD編集部がキュレーションした「つながり」にまつわる展示を行います。コラボレーターが持ち寄った想い想いの品が置かれていき──8週の間にまっさらだった空間が少しずつ彩られていく様子も楽しんでいただけたらと思います。
トークライブゲストのご紹介
6/16(火) Vol.1「つながりをリ・デザインする、コミュニティアート」
ゲスト:水野渚(IDEAS FOR GOOD編集部)
今回の企画展のチーフキュレーターであり、個人でもフィンランドやポルトガルなど世界各地で「つながり」をテーマにしたアート活動も展開しているIDEAS FOR GOOD編集部のメンバー・水野渚。今回の企画展にかける想いや、「つながり」とサステナブルな暮らしとの関係、「つながり」を可視化するコミュニティ・アート、IDEAS FOR GOODとして今後どのように「つながり」をリデザインしていきたいのかについてお話しします。水野渚の記事を読む▷https://ideasforgood.jp/author/nagisa-mizuno/(個人ウェブサイト:https://mizunagi.com/)
6/23(火) Vol.2「自然を着る。自然とつながる」
ゲスト:小森優美さん(草木染めランジェリーブランド「Liv:ra(リブラ)」デザイナー)
草木染めランジェリーブランド”Liv:ra(リブラ)”オーナーで、藍染めを軸にエシカルを広める「TSU.NA.GU.」の代表理事を務める小森さん。「衣は大薬なり」といわれるように「食」と同じくらい私たちの健康に直結しており、それは薬を内服する、外服するという日本語にも現れています。「着る漢方」といわれる「草木染め」を身に纏うことで感じる、自然と私たちとの「つながり」についてお話を伺います。記事を読む▷「見える距離感」で本質的な「エシカル」を目指す。草木染めランジェリーブランドLiv:ra
6/29(月) Vol.3:「花が彩る、日常のなかのちいさなつながり」
ゲスト:河島春佳さん(フラワーサイクリスト)
廃棄予定の花をドライフラワーにし、アクセサリーなどに生まれ変わらせるフラワーサイクリスト・河島さん。彼女は、花は「国籍や言語を越えて人々をつなぐコミュニケーションツール」であり「自分の心の状態を把握するバロメーター」だと言います。「自分と他人」、そして「自分とインナーセルフ」をつなぐ花の力や、河島さんがつながりについて普段から考えていることを伺っていきます。記事を読む▷廃棄予定の花に新たな価値を与えるフラワーサイクリスト河島春佳
7/7(火) Vol.4:「デジタル時代に紙がくれる、自然と人とのアナログなつながり」
ゲスト:なみえゆいさん(紙と手仕事の思考場「kami/」代表)
手仕事の紙を残すため、303日かけて「世界の紙を巡る旅」を終えたなみえさん。文字を書き、自分の考えを時空を超えて伝えることができる紙は、現代の文明や技術の進化に大きく貢献してきました。その紙は木と水からできた自然の産物であることを考えると、私たちの暮らしは自然によって支えられていることを改めて実感させられます。また、手紙にすると、言葉以上のぬくもりを相手に伝えることもできます。デジタル化する世界の中で、紙を通じた自然と人、人と人とのアナログなつながりについて深く掘り下げていきます。ポッドキャストを聴く▷第10回「300日の世界の『紙』を巡る旅で見つけたもの」
7/14(火) Vol.5:「想いが分かれば心が動く。作り手とつながるファッション」
ゲスト: 植月友美さん(エシカルファッションブランド「Enter the E」創業者)
人や環境に配慮し、デザイン、品質、経済性を兼ね揃えた服を世界中からキュレートして販売するエシカルファッションブランド 、「Enter the E」を創業した植月さん。作り手とつながり、想いを知り、ストーリーと一緒に買う。だからこそ、その商品を大切にできる。エシカル消費は、コミュニケーションで実現できると考える植月さんと、つながりを起点とするこれからの消費のあり方について考えていきます。記事を読む▷サステナブルな服が当たり前になる社会を目指す。エシカルファッションブランド「Enter the E」
7/21(火) Vol.6:「Giveが循環する、つながりの経済」
ゲスト:尾倉侑也さん(資産共有アプリ「nukumo」開発者)
自分が使っていないモノやスキル、情報などを信頼できる人たちだけと無料でシェアすることができるアプリ「nukumo」の創業者・尾倉さんは、「無駄な生産と消費をやめて、シェアすることで、やりたいことができる」と語ります。お金ではなく信頼をベースに何かをシェアすることで、今ある「つながり」を強固にし、新しい「つながり」を生み出します。尾倉さんが今後目指したい「つながり」のある社会について伺います。記事を読む▷誰もがやりたいことを実現できる社会に。Giveが循環するシェアアプリ「nukumo」
7/28(火) Vol.7:「さとうきびストローが実現する関係のリ・デザイン」
ゲスト:平間亮太さん(株式会社4Nature代表)
さとうきびストローの販売を始めた株式会社4Natureの平間さん。ストローの販売、回収、コンポスト(堆肥化)という循環を生み出し、環境負荷を減らすだけでなく、まちづくりも同時に行っています。ストローの利用や回収作業を通じて「顧客」と「店員」という関係を同じ想いを持つ「同志」という関係にリデザインしている平間さんに、事業を通じて自然と人、人と人とのつながりを再構築する方法について伺います。記事を読む▷さとうきびストローでまちづくり。循環型社会の実現を目指す「4Nature」
8/4(火)→8/17(月) Vol.8: 「number 0 に込められた意味と、そこで生まれるつながり」
ゲスト:田中滉大さん(アートプロデュース会社tremolo・COファウンダー/本企画展パートナー)
企業とアーティストのコラボレーション機会を創出する株式会社tremoloの創業者の一人である田中さんは、今回IDEAS FOR GOODが企画展を開催するきっかけを与えてくれた人。同時に、本企画展と同じ場所で運営する、商品とストーリーが買えるマガジン型 セレクトショップ「number 0」の創案者でもあります。トークライブ最終回は、number 0が生まれた背景や、今回の企画展をきっかけにこの場所で生まれる新たな「つながり」への想いについてお話を伺います。記事を読む▷アートとビジネスの垣根はなくなっていく。企業とアーティストのコラボレーション機会を創出するtremolo
企画概要
開催場所 | alːku阿佐ヶ谷(アルーク阿佐ヶ谷) |
スケジュール | <トークライブ配信日程(各日 19:00〜20:00)> 6/16(火)Vol.1:「つながりをリ・デザインする、コミュニティアート」-IDEAS FOR GOOD編集部・水野渚 6/23(火)Vol.2:「自然を着る。自然とつながる」-小森優美さん 6/29(月)Vol.3:「花が彩る、日常のなかのちいさなつながり」-河島春佳さん 7/7 (火)Vol.4:「デジタル時代に紙がくれる、自然と人とのアナログなつながり」-なみえゆいさん 7/14(火)Vol.5:「想いが分かれば心が動く。作り手とつながるファッション」-植月友美さん 7/21(火)Vol.6:「Giveが循環する、つながりによる経済」-尾倉侑也さん 7/28(火)Vol.7:「さとうきびストローが実現する関係のリ・デザイン」-平間亮太さん (追加日程は追ってご連絡させていただきます) Vol.8:「number 0 に込められた意味と、そこで生まれるつながり」-田中滉大さん <本展示> 開催期間:8月下旬 ※ 時間:11時〜18時 定休日:火、木、金 |
参加方法 | ▷トークライブ配信:IDEAS FOR GOODのYouTubeアカウントにてライブ配信。どなたでもご覧になれます。
※Peatixにて無料チケットをご購入いただいた方には、イベント直前にリマインドメールをお送りします。ぜひご活用ください。お申し込みはこちらから ▷8月の本展示:当日直接会場にお越しください。ご自身および周りの方を大切にするため、以下の配慮をよろしくお願いいたします。 ※マスク着用でお願いいたします。着用されていない場合は、来店をお断りさせていただく場合がありますので、ご了承ください。 |
参加費 | 無料 |
主催団体 | ハーチ株式会社(IDEAS FOR GOOD編集部)/株式会社tremolo |
イベントURL | Peatixページ |