心地よい自然なつながりを。エシカルに取り組むファッションブランド【Design for Good 〜つながりのリ・デザイン展〜トークライブレポVol.2】

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IDEAS FOR GOODでは、自分が自然や人とどのような「つながり」をもっているのかを可視化し、これからどんな「つながり」を築いていきたいのか、読者の皆さんと一緒に考えていきたいという思いから、「Design for Good 〜つながりのリ・デザイン展〜」を企画しました。

今回は、8週連続トークライブ配信イベントより、2020年6月23日に行われた、第2回「自然を着る。自然とつながる」のイベントレポートをお届けします。

日本発草木染めのランジェリーブランド「Liv:ra(リブラ)」を手がけるデザイナーの小森優美さんをゲストに迎え、ファッション業界における「つながり」や、小森さんのファッションに対する見方を伺います。新しい生活様式が求められる今、私たちの暮らしにも役立つヒントが満載の1時間となりました。トークのファシリテーターは、IDEAS FOR GOOD編集部の伊藤恵が務めています。

話者プロフィール:小森 優美(こもりゆみ)さん

Livra
新卒でファストファッションのデザイナーとして就職後、2010年株式会社HighLogic設立。当初はファストファッション通販会社として始めたものの売上至上主義の仕事に疑問を感じ、自然や人、地球と調和したファッションのあり方を模索しながら 2013年草木染めランジェリーブランド”Liv:ra(リブラ)”開始。 2018年一般社団法人TSUNAGUを設立、ミレニアル世代のエシカルファッションプラットフォーム”TSUNAGU”始動。ブランドウェブサイト: Liv:ra(リブラ)

服を通して自然とつながる

始めに、ブランド「Liv:ra(リブラ)」と小森さん自身の活動ついて伺いました。

小森さん:私は、株式会社HighLogicで草木染めランジェリーブランド「Liv:ra(リブラ)」のデザインと、「一般社団法人TSUNAGU」の経営をしています。

「Liv:ra(リブラ)」は、草木染めランジェリーブランドです。ランジェリー以外にも、Tシャツやワンピース等、主にシルクを草木染めにした製品を扱っています。草木染めは、例えばお花を粉々にして染料にすることで色合いを出していて、私のブランドでは数あるエシカルファッションの中でも、天然繊維や天然染料など植物の力を使った製品づくりに取り組んでいます。

マリーゴールド

また、”TSUNAGU”では、エシカルファッションを受注生産できるプラットフォームづくりに取り組んでいます。2018年には活動の第一弾として、藍染の商品を製作しました。デザインは、ミレニアル世代の若いデザイナーたちが担当をしました。藍を育てるところから始めて、製作には8ヶ月、9ヶ月とかかります。その時に採用した最も伝統的な本藍染の製法では「すくも」と呼ばれる染料を発酵させる工程がありますが、その特殊な技術を持つ藍師さんが、日本には徳島に数名いらっしゃるのみです。その特別な技術で作られた藍染製品は本来であればとても高価なものですが、”TSUNAGU”ではそれを受注生産にすることで、安く販売することができました。藍は発酵させているので濃厚な色が出るのが特徴です。草木染めは、色々な植物を染めるので、ポップな色がたくさんあります。

伊藤:シルクを草木染めをして作られるお洋服を着用すると、他の原料のお洋服と違いを感じられるのでしょうか。

小森さん:例えば、ポリエステル100%と綿100%のお洋服だと、綿の方が心地が良いのではないでしょうか。ポリエステルの機能性はとても優れていますが、「心地よい」という感覚に関しては、やはり自然なものの方が特別な感じがすると思います。”Liv:ra”では、主にシルクを使用して製品を作っています。シルクはもともととても風合いが良いのですが、そこへさらに草木染めすることで、洗いがかかったような加工になります。草木染めの加工は、一般のTシャツのウォッシュ加工の天然版といった感じで、自然のものだけで作って、そして自然の染料で染めることで、五感のうち「触感」がとても良い仕上がりになります。

エシカル業界でビジネスを行うということ

原料そのものに着目するだけではなく、それが生み出された過程に目を向けてみると、エシカルファッションとファストファッションの違いが見えてきます。

小森さん:最近では、ファストファッションでもオーガニックコットン混の製品がみられるようになってきました。私個人としては、ファストファッションとそうでないものとでは、同じオーガニックコットンでもやはり着心地が違うと思っているのですが、そこには着心地だけでなく、ファッション業界のまた別の問題があります。ファッションを作る上では、「愛のこもった循環」を大切にする必要があります。つまり、生地の原料が何であるかということと、これはまた違う感覚で捉えることが求められるということです。例えば、私が使用しているシルクや草木染めは、ファストファッションで使用することは難しいと思います。高価すぎること、大量生産ができないところに理由があります。

トークライブの様子

エシカルというと環境保全や社会貢献に向けた取り組みが注目されていますが、それを行う人々の心身の健康にも配慮が必要です。小森さんは、エシカル業界で起業する人々の心の健康も持続可能にする、「インナー・サステナビリティ」の向上が課題であるといいます。

小森さん:従来のファッションビジネスのやり方をエシカルファッションに応用すると、とてもしんどいです。エシカルファッションは大量生産ができないこともありますし、どうしても原価が高いので、そのまま売ると値段が想像以上に高くなります。ファストファッションが大量に出ている市場で、エシカルファッションを従来のビジネスと同じやり方をした値段で販売することは、ビジネスとしてはとても難しい状況です。

資本主義のもとでは、とにかく原価を抑えることがポイントですが、エシカルファッションではそれをせず、かなり原価の高いものをギリギリの値段で売っています。起業家にとってそういった状態でのビジネスは、やればやるほど疲弊するという仕組みになっている。それに対して、インナー・サステナビリティの確保がとても難しいのです。そのせいで、社会起業家は急にフェードアウトしてしまったり精神的に病んでしまうことが多く見られます。現状は、起業家への負担が大きすぎるというところがあるので、インナー・サステナビリティの部分を改善して、今のシステムから脱却することが必要だと思っています。

人々のファッションに対する意識の変化

これまで、ファッションは人に見せるものという認識がありましたが、新型コロナウイルスの影響下、自宅で過ごす時間が増えたことでファッションを人に見せる機会が減りました。外出自粛期間を経て、人々のファッションに対する感覚はどのように変化しているのでしょうか。日本のファッションや広告業界の抱える特徴と課題を通して、小森さんの考えを伺います。

小森さん:私自身は元々、ファッションは自己表現の一種として、自分にとって良いものを、という選択をしているのですが、多くの人は今、自分にとって何が良いかというところが見えなくなっている状態だと思います。広告がたくさんあったり、誰かから影響されたり、日本に生きていると判断基準が外から来ることが多くて、自分で考える隙がありません。そして、だんだんみんなが同じような服を着だして、どこのブランドに行っても売っているものが同じ、という状況ができてしまっています。

それが、コロナウイルスのことがあって、誰かに影響されるということが少なくなったと思います。そこから、「自分の好きな表現ってなんだろう」とか、ファッションを通して「自分の生き方ってなんだろう」とか、そこまで見ることができたら良いですよね。

伊藤:日々たくさんの広告に出会う中で、自分に似合うものと好きなもの、どちらを着るのかというバランスが難しいと感じています。

小森さん:自分に似合うものを知ることは、「自分が本当に好きなものってなんだろう」という疑問を持った時に、それを解決する手助けになるかもしれません。
一方で、私はファッションは人を自由にするものだと考えています。私自身もファッションに出会ったことで心が自由になっていった経験があります。ファッションにおいても人生においてもどのような表現をするかは自由であると思いますし、ファッションはそういった本来の自由を思い出させてくれるツールの一つだと思っています。今回の新型コロナウイルスのタイミングで、人々がもっともっとファッションを楽しめるようになったら、それは素晴らしいことです。

リブラ商品

一方、ファッション業界の大きな問題として、多くの人が重労働、低賃金で働いて成り立っているという点があります。業界の現状は、実は自由とは程遠いのです。でも、だからこそサステナビリティやエシカルを追求する意味があると思っています。やはり、ファッションは自由な自己表現を叶えるものですから、そこに携わる人々が自由でないことはおかしいことです。

ファッションはトレーサビリティがとても長い業界として知られていて、農家さんから、糸をつくる工場、生地商社、デザイナーさんやパタンナーさん、本当にいろんな人が関わっています。そのため、工程を不透明にしようとすれば、それが可能になってしまうという実情があります。しかし、人々の自由を実現する業界として、一つ一つをきちんとクリアにしていく責任があると思っています。

そして、他の業界よりもさらに人とのつながりを大切にしていかなくてはならないとも感じています。現在は新型コロナウイルスの影響で、世界中で洋服の受注キャンセルが相次いでいます。例えばバングラディシュの日雇いの労働者は、明日どうなるか分からないような状況で、本当に大変な思いをしています。しかしブランド側は、商品が届くまでの間にいくつもの会社を挟んでいるため、それらの問題を他人事として受け取ってしまう現状があります。
これからは、改めてつながりを取り戻していき、「ファッション業界に関わる人を自由にしていくことが洋服を着る人の自由にもつながっていく」ということを再認識する必要があると思います。

消費者と長くつながっていくために

今回のイベントのテーマでもある「つながり」ですが、小森さんが日常の中で感じるつながりについて伺います。

小森さん:私自身、実はそんなにつながりたいという思いは持っていないんです。というのも、つながることは、相手に強制することでも、相手から強制されるものでもないと思っているからです。つながろうと思ってつながるのではなく、自然とつながっていく、という感覚を大事にしています。

伊藤:では、お仕事としての活動を通してつながりを感じる瞬間はありますか。

小森さん:私は、”Liv:ra”と”TSUNAGU”の両方を運営していますが、2013年に”Liv:ra”のブランドを始めて、そのご縁がつながって2018年に”TSUNAGU”の活動も始めることになりました。そこからはどんどんそのご縁が広がっていて、いまはどちらも協力体制になっています。”Liv:ra”の活動が”TSUNAGU”につながったり、その逆もあったりと、様々なジャンルの方々と枠を超えてをつながることができています。

伊藤:デザイナーとして消費者の方々とのつながりで意識されていることはありますか。

小森さん:実は私は、最近流行の「コミュニティブランド」の方々のように、お客様と近い距離で仲良くなることは得意ではありません。”Liv:ra”のお客様は、オーガニックランジェリーをインターネット検索したり、SNSをフォローしたりしてブランドを見つけてくださる場合が大半です。ほとんどの方はブランドオーナーが私であることは知らないと思います。”Liv:ra”というブランドでは、商品を通してゆるくつながることを、私もお客様も楽しんでいるという感じがします。

また、Liv:raの商品について、草木染めランジェリーだということは伝えていますが、「エシカル」というような商品の背景を全面に伝えることはしていません。実際に商品を選んでいただくポイントとして、環境に良いから、とか社会貢献だから、というロジカルな思考ではなく、ただ心地よいから、可愛いから、という感覚を大切にしていただきたいと思っています。それは、ロジカルに思考することは疲れることで、なかなか長続きしないからです。エシカルブランドを長続きさせるために、商品の背景が素晴らしいからということだけではなく、本当に心地よいものを作るということに重点を置いています。そしてそれをそのまま発信し、理解してくださる方にご購入いただいています。

伊藤:商品の背景について自ら発信していないのはなぜですか。

小森さん:商品の背景については、自分に心地よいものが地球にも良いという感覚に自ら気づく、という体験をお客様にしていただきたいです。正しさでは人を変えられませんので、自分の考えを強制しないようにしています。

服作りを通して、リジェネラティブな未来へ

コロナウイルスの影響で数ヶ月経済がストップしたため、かなりの量のCO2排出が減りましたが、地球環境改善に求められている削減量には達しませんでした。それを受け、これからは経済を止めるのではなく経済活動を環境再生につなげていきたい、と話す小森さん。

小森さん:今後は、生地から作っていきたいと思っています。シルクづくりで使われる蚕は桑の葉を食べるのですが、その桑の木はCO2を大量に吸収することで知られていて、さらに桑の木を植えると土壌汚染が改善することがわかっています。生育環境についても、日本全国どこでも栽培可能で、土手のようなでも育つという優秀な木です。

育てるにあたっては、必ずしも広大な土地がなくとも、分散して植えることもできます。例えば、オーガニックコットンを作ためには広い土地が必要になります。しかし、シルクの場合は蚕の餌となる桑の木が何本か、それと蚕を育てるための部屋があればできます。さらに、蚕は一つのカップルから700匹程度の子どもが生まれるという、大きな可能性を持った昆虫です。

これから、まずは桑の木を育てられる場所探しから始めて、みんなで桑の木を育てたいと思っています。そして、環境再生の部分を可視化することで、ファッションを作れば作るほど地球環境が改善していくリジェネラティブな仕組みを作りたいです。

編集後記

イベント視聴者のコメントには、「まさに今、エシカルブランド立ち上げ初期で精神的にきていましたが、小森さんのお言葉に助けられています。」と、インナーサスティナビリティの考え方に賛同する声が。社会貢献というテーマに対し、貢献する人もされる人もハッピーになる仕組みが必要、という小森さんの考えに、新しい視点を得た方もいるのではないでしょうか。

地球環境や人々の自由に配慮した「愛のこもった循環」を大切にすると共に、感覚で心地よいと感じられるものや、愛を持って長く付き合っていくことのできる製品選びを意識していきたいですね。

次回のイベントレポートもぜひお楽しみに!


【Youtube動画】【ゲスト:小森優美さん(Liv:raデザイナー)】Design for Good 〜つながりのリ・デザイン展〜 Vol.2「自然を着る。自然とつながる」
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