今年に入って、世界中で生活のあり方が変わったと同時に、買い物の仕方にも変化が生まれた。Adobeが発表した分析では、今年5月のEコマース利用は昨年の同時期に比べて77%多く、例年通りの伸びであったら4~6年かかる成長率だった(※1)。
多くの人が自宅で過ごす時間が増えたことにより、買われたものの商品カテゴリーは、日用品・食品から電化製品や家具まで多岐にわたる。環境負荷を考え地域型実店舗での購買を心がけていた人たちも、オンラインショッピングに頼らなくてはいけない場面が増えただろう。
そんな中、Eコマースを従来のものより地球に優しくするアイデアが次々と誕生している。今回は、筆者が特に注目するサステナブルファッションから、2つの事例を取り上げる。
一つ目は商品を選ぶ際の「インターネット上のブラウジングでの環境負荷削減」、もう一つは、近頃耳にする機会が増えてきた、輸送における「カーボンオフセット」や「カーボンニュートラル」の考え方、そしてそのさらに先をいく「カーボンポジティブ」だ。
Organic Basics
環境負荷を抑えたウェブブラウジング「Low Impact Webpage」
環境への取り組みと情報の透明性で高い評価を受けているコペンハーゲン発のアクティブウェアブランド、Organic Basics。今年の6月に、まだ業界では珍しいLow Impact Webpageを立ち上げ、ウェブ上の環境負荷削減を始めた。
オンラインショッピングにおいて、多くの人がインターネットやソーシャルメディアを通して商品を閲覧する。「デジタル化はエコ」というイメージを持ちやすいが、実はインターネットを通して情報やデータをやり取りするのに利用される電力、ひいてはエネルギー負荷は、全体の3.7%を占め、それは航空業界の量と同等だそうだ(※2)。特にファッション業界は、色・サイズ展開に合わせて多数の、しかも高画質の画像が採用される。360度回転するものや、モデルが歩く動画もあり、その視聴のためにデータは重くなりがちだ。
Low Impact Webpageは、その問題と向き合う形で生まれ、従来のサイトと並行して運営されている。一言で表すと簡素化されたバージョンであり、すでに商品を知っていて注文だけしたいリピート客や、多くの情報が必要ない客層に適している。商品はイラストで表示され、リクエストすることで画像を得ることができる。動画や高画質の画像を避け、また「関連商品」などの付随情報の掲載もしない。
例えば以下のインスタグラム埋め込み3枚目にあるように、ブラレット一つにしても、画像の場合は318KBのデータが、イラストにすることで1KBまで縮小される。
これにより、従来サイトに比べ一回の一般的なブラウジングでおよそ15gの二酸化炭素排出を防ぐことができ、最大で70%削減できるそう。このサイトはデンマークの風力発電から供給されたエネルギーを用いている。
さらに特筆すべきは、同じタイミングで世界中で同サイトを利用している人たちによって使われている全体エルギー量に応じて、閲覧データの量をさらに制限する機能も備えている。つまり、エネルギー利用に上限をつける徹底ぶりである。
Organic Basicsの地球に優しいものづくり
Organic Basicsは、環境に配慮されたものづくりをし、利用する素材の90%以上がテンセル、オーガニック素材、リサイクル素材。また、PETA(※3)からヴィーガン認定を受けている(カシミアなどはリサイクルされたもの)。毎年発表するImpact Reportが明瞭で透明性が高く、顧客からの支持も高い。例えば2019年のレポート内容によると、82トンの二酸化炭素、3万リットル以上の水、1.5トンの廃棄生地を抑えることができたそうだ。運営のカーボンニュートラル化を達成し、企業としてBコーポレーション認定も受けている。
EcoCart
輸送の際のCO2をオフセットする「EcoCart」
続いて、輸送における二酸化炭素排出削減の取り組みはどうだろう。それを可能にするサービスの一つに、EcoCartがある。日本をはじめ現在175を超える国で利用され、特にスモールビジネスにも多く取り入れられているEコマース総合サービスのShopifyと、スムーズに連携できる。
方法はいたってシンプルだ。利用する会社はまず、EcoCartをオンラインストアにインストールする。顧客からの購入が発生した際、独自のアルゴリズムによって、この購買で排出される二酸化炭素排出量を算出、購入者には、二酸化炭素排出量をオフセットするためにかかる追加料金を払うかどうかを選択するチェックボックスが表示される。EcoCartの説明によると、通常これは合計金額の1~2%にあたる。購入者に課金せず、会社側でこの費用を負担することも可能だ。
一回の取引につき、購入者が払う場合は$0.15(約16円)、会社が負担する場合は$0.03(約3円)のEcoCart手数料が含まれる。
排出される二酸化炭素の処理には、主に自然力を用いた再生エネルギーや、環境再生型を含めた農業への投資に使われる。EcoCartは、投資先の選出において以下の3段階プロセスをとることを絶対条件としている。
- EcoCartが、候補プロジェクトの財政、管理チーム、施行場所、そして二酸化炭素削減の方法を吟味
- 世界有数の二酸化炭素削減基準により、該当プロジェクトを評価
- Global Offset Researchが、さらに別の基準と照らし合わせながら最終的に該当プロジェクトを承認
このサービスを導入することにより、会社側はどのくらいの顧客がカーボンオフセットシッピングを選択したか、それによりどれだけの二酸化炭素排出を抑えられたかの分析も見ることができるようになる。
Christy Dawnのリジェネラティブ・シッピング
実際にEcoCartを利用しているビジネスには、以前IDEAS FOR GOODでも取り上げたリジェネラティブ農業から生まれたドレスをつくるChristy Dawnがある。彼らが最近発表したシッピングガイドラインによると、全てのシッピングがカーボンニュートラルになった。加えて、購入者が小額を加算することができるオプションを提供しており、これによってカーボンポジティブが実現した。つまり、二酸化炭素排出量を実質的にプラスマイナスゼロにするだけでなく、さらに購入者に上乗せしてもらった金額を用いて気候危機への取り組みを行っているのだ。Christy Dawnはこれを “Regenerative Shipping”(環境再生型シッピング)と呼んでいる。
今回Christy DawnがEcoCartとあわせて協業している二酸化炭素削減ビジネスの3Degreesや、「カーボンリムーバル」(炭素を大気から取り出し土壌で隔離し、環境再生型のプロジェクトに活用する)のサービスを企業・個人向けに多岐に提供するNoriなど、こういった動きはほかにも増えている。各運送会社も、この流れに沿った運営を始めている。
まとめ
今、オンラインショッピングの増加とともに、インターネットでの商品選びや手元に届くまでの輸送といった、消費者には直接意識しづらい部分でのエネルギー利用が増えている。
そんな中、会社と個人の双方が、自分たちの選択や行動の一つ一つが気候危機に与える影響を考え、少しでもそれを遅らせるだけでなく、もっと良くしていくことに目を向ける必要がある。Low Impact WebpageやEcoCartの登場は、オンラインショッピングの今後に明るさをもたらしてくれるだろう。
※1 Forbes COVID-19 Accelerated E-Commerce Growth ‘4 To 6 Years’
※2 Why your internet habits are not as clean as you think
※3 アメリカを本拠地とする動物愛護団体
【参照サイト】EcoCart
【参照サイト】Organic Basics Low Impact Website
【参照サイト】 Christy Dawn
【参照サイト】Global offset research
Edited by Tomoko Ito