“つながり”の再考で、より良い社会をつくる【Design for Good 〜つながりのリ・デザイン展〜トークライブレポVol.8】

Browse By

IDEAS FOR GOODでは、自分が自然や人とどのような「つながり」をもっているのかを可視化し、これからどんな「つながり」を築いていきたいのか、読者の皆さんと一緒に考えていきたいという思いから、「Design for Good ~つながりのリ・デザイン展~」を企画しました。

今回は、8週連続トークライブ配信イベントより2020年8月17日に行われた、第8回「number 0に込めた意味と、そこで生まれるつながり」のイベントレポートをお届けします。

トークライブ最終回のゲストは、企業とアーティストのコラボレーション機会を創出する株式会社tremoloの創業者の一人であり、今回IDEAS FOR GOODが企画展を開催させていただくきっかけとなった、商品とストーリーが買えるマガジン型セレクトショップ『number 0』の発起人でもある、田中滉大さんです。今回の企画展を開催するきっかけを与えてくださった田中さんは、“つながり”に対して、どんな考え方を持っているのか。『number 0』立ち上げの想いや背景なども合わせ、お話を伺いました。トークのファシリテーターは、IDEAS FOR GOOD編集部の加藤佑が務めています。

話者プロフィール:田中 滉大(たなか こうだい)

田中さん1992年生まれ。早稲田大学卒/イタリア・ヴェニス国際大学修了。デジタルエージェンシーinfobahnにて、国内外の大手クライアントに対するデジタル/メディアソリューションの提案、地方自治体に対するソーシャルデザイン事業に従事。その後、人材系ベンチャー企業ビズリーチでの新規事業マーケティングへの従事を経て、建築クリエイター集団NoMaDoS CSO、アートプロデュースユニットtremolo co-founder、マップ型サステナブルポータルアプリslowz代表などで活躍。

生まれたばかりのブランドの想いを届けるプラットフォーム『number 0』

『ブランドプロデューサー』という肩書きで活躍する田中さんは、現在は複数の会社に所属し、ブランドや新規事業のプロデュースを行っています。そのお仕事は、経営そのものやビジネスモデルの構築に関わり、会社やブランドを大きく成長させることで、スタジオづくりやアプリの設計など、型にとらわれないさまざまなアウトプットを行っています。

田中さんが手がける事業の一例

田中さんが手がける事業の一例

そんな田中さんが発起人となって7月末に新たにリリースしたサービスが、立ち上げ期のブランドの認知と成長の支援を目的とした、“商品とストーリーが買えるマガジン型セレクトショップ『number 0』”です。JR阿佐ヶ谷駅高架下アーケード『alːku(アルーク)阿佐ヶ谷』にあるワンスペースを実店舗とするこの『number 0』は、ECでの商品販売と実店舗での体験の力を融合させ、新しいブランド価値の届け方に挑戦する画期的なアイデアです。

田中さん:“想いや願いを持っている人の熱量が「ピュア」に社会へ届く世界をつくりたい”というのが、このサービスの立ち上げの背景にある想いです。

立ち上げたばかりで成長段階にあるブランドが世の中の人に認知してもらうまでには、販売チャネルの確保や継続的な成長のためのサポートが必要となります。しかしそれには大きなコストがかかり、ほとんどの場合そういった時期のブランドには金銭的・人材的なリソースが足りません。ブランドを立ち上げたときの“ピュア”な想いを維持し続けることは、本当に大変なのです。だから、そういったブランドをサポートする仕組みが必要だと考えました。

マガジン型セレクトショップという発想は、僕の日常の体験から生まれたものです。実店舗って、売られているものは変わるけれど、そこで働いている人や中のブランド自体は変わらないですよね。毎日同じ道を通るタイプの僕は、そんな当たり前のことを、以前から少し物足りないなあと感じていました。そしてある時、雑誌のコンテンツのように時期によって全てがコロコロ変わるお店があったらすごく面白いだろうな、と思ったのです。『number 0』という名前も、そうやって毎回お店がリセットされるイメージに由来しています。

セレクトショップと言っても、商品の販売は実店舗ではなく、完全にECだけで行います。『number 0』の実店舗は、お客さんがブランドのストーリーを体験できる場として存在するのです。また、ブランド立ち上げ初期の段階で実店舗を出すことによって、どんな人がブランドに興味を持ってくれているのかを確かめ、お客さんとのコミュニケーションの機会をつくることも目的です。

『NUMBER 0』では、ブランドの取り組みやデータレポートなどを掲載した雑誌を発行予定。

『NUMBER 0』では、ブランドの取り組みやデータレポートなどを掲載した雑誌を発行予定。

『number 0』では、7月のプレオープン期間に「タオルの統一で始まる、豊かな暮らし」を提案するタオルブランド「SWWOC」が出展し、8月後半はこのIDEAS FOR GOODの企画展を開催させていただきました。今後はECの販売サイトもいよいよリリースし、“消費されないデニムを届ける”という理念を持つ「EVERY DENIM」や、その人らしさを“そっと魅せる”ワークスタイルブランドのユウボク東京などが出店する予定です。

多様なつながり方を持ち、“軽やかに行き来する”

新しいサービスを通して、まさに人と人とのつながりをリ・デザインする田中さん。自身が持っている、“つながり”についての、独特な哲学も語ってくださいました。

田中さん:今年28歳になる僕は、いわゆるミレニアル世代の終わりの、“悩みの多い”世代です。そんな同世代と話していてよく感じるのは、それまでに一般的だった価値観と、自分たちがこれから持とうとしている価値観とのズレを感じている人が多いのではないか、ということです。それを特に感じるのが、“つながり”に対する価値観なのです。

これまでの価値観では、相手と自分のつながり方が一種類しかないイメージがありました。会社や家族、大学など、自分の通ってきた道に“つながり”が構築されていて、それはとても強いつながりと言えます。でも、そのなかに居続けてしまうと、自分自身も望んでいないまま、一つの価値観に染まってしまっていたり、ダイレクトに影響を受けすぎてしまうことで閉塞感に包まれてしまうといった弊害がありますよね。

一方で今の時代は、インターネットやSNSの発展によって、自分と全く属性やタイプが異なる人たちの存在とつながることができるようになりました。それによって、「自分のすぐそばにある強いつながりだけが全てではない」という感覚を持っている人が多いのではないかと思うのです。例えば、日本に住んでいる僕とブラジルに住んでいるある人が、共通のビジョンを持つコミュニティに所属しているとします。この場合、強くはないけれど何か共有しているものがある、という意味ではつながっていると言えますよね。

僕は、前者の明確で強いつながりを「糸のつながり」、新しい時代ならではのふわっとしたつながりを「霧のつながり」と呼んでいます。これはどちらが良い、悪いという話ではありません。

“つながり”がキーワードの話題になると、どうしてもそれを強めていこうという方向性になることが多いように感じますし、コロナ禍では人との強いつながりである「糸のつながり」の必要性を普段以上に感じた人も多いと思います。

でも僕は、この2つはどちらもあっていいと思うし、両者を“軽やかに行き来する”ことが理想だと思っています。

加藤:これからは昔のような息苦しさのない形で、安心感もあるつながりにアップデートしていけると良いですよね。

トークイベントの様子

トークイベントの様子

今試されているのは、良いつながりをつくる“スタンス”

多様なつながり方を許容したうえで、田中さんは、これからの時代に何より大切なのは、つながりに対する私たちの“スタンス”そのものだと話します。

田中:テクノロジーが発展し、地球の裏側の人ともつながれるようになったのは良いことですよね。今まで出会えなかったものに出会えるし、これまで作れなかったものを作れるという魅力があります。ただその中で本当に試されてるのは、つながるためのプラットフォームやツールの良し悪しではなく、自分たちがより良いつながりをつくる“スタンス”だ思います。

つながりというのは、本来ならばニュートラルで善悪のないものです。しかし実際の人間社会には、企業の下請け構造のような搾取的なつながり方や、立場の上下のあるつながり方も少なくありません。

また、つながりを強固にしていくことが重視されすぎることにも、疑問を感じることがあります。例えば、企業が顧客とのつながりを強めるため、自分たちを好きになってもらうための情報ばかり出してしまうことはよくあります。ときには企業サイドからの引力が強すぎて、他とのつながりを奪うようなスタンスも感じられます。これは、これまでの経済活動の中では当たり前とされていた部分も大きかったとは思いますが、ニューノーマルと呼ばれる時代や世代に切り替わり始めている現在において、果たして受け入れられるスタンスなのか、僕は疑問を持っています。

そういった、誰かに対してマイナスの影響があるつながり方が多いと、社会は良くなっていかないと僕は思います。

企画展の様子

企画展の様子

これからの社会課題を解決するのは、つながりを生み出す「間」の人材

最後に、これまでとはまた別の視点から見た“つながり”に関しての話題が飛び出しました。

加藤:そもそも“つながり”とは、生産者と消費者、自然と人間、都会と地方、というように、2つの「間」に存在するものですよね。

最近地方では、都会から移住した人が都会的なセンスでお店を出して、地方と交わることで盛り上がっている場所があります。また、5回目のトークイベントにお越しいただいたEnter the Eの植月さんは、生産者と消費者の「間」に立つことで、アパレル業界の課題解決を図っていますよね。

そんなふうに、都会と地方、企業と顧客、といったような、コミュニケーションの取りにくい2つの「間」に、どちらの立場や気持ちもわかる人材がいると、その距離が埋まって、より良いものが生まれる。だから、これからはそういった「間」の人材が、あらゆる課題の解決に欠かせないのではないかと思っています。

田中さん:僕の同年代で活躍している人たちも、そういった「間」の立場にいる人材は多いですね。大企業に所属しつつ、自発的に動いている人たちのコミュニティに属して、その橋渡しになっている人もいれば、人をつなぐことを仕事の中心としている人もいます。

これからは、まだ誰も気付いていない2つのものの「間」を発見し、可視化することでその存在を“生み出していくこと”ができる力がとても大事だと思っています。つながりは自然に発生するものでもありますが、一方で、意識しないと認知できないものでもあると、自分の仕事を通して感じるからです。

例えば今までは、「企業」と「顧客」というと、無機質で、どちらも人格があるものとしてお互いにコミュニケーションをとることはあまりありませんでした。しかし最近、顧客に対してどう話しかければ良いのか、どういう関係性を構築すれば良いのかを真剣に考える企業が一気に増えました。立場の異なる2者の「間」を意識する余白がやっと生まれてきたと言えます。

今の時代は変化の速度が早いため、「間」も生まれたり消えたりし続けるのだと思います。それをキャッチして新しい“つながり”を作っていくことは、どんな人にも必要な能力なのかもしれません。

企画展の様子

企画展の様子

編集後記

人との多様なつながり方を持つこと、より良い社会をつくるつながり方を模索すること、何かの「間」に立って、新たなつながりをつくること。本企画展のテーマである“つながり”について本質的に考えさせられる、最終回にふさわしいトークライブとなりました。

「Design for Good 〜つながりのリ・デザイン展〜」は、たくさんの方のご協力のもと、8月末に無事に展示を終えることができました。企画展には計100名以上の方にご来場いただき、トークライブ配信は400名を超える方にご参加いただきました。本当にありがとうございました。来場者の方に会場の壁に残していただいたつながりに関するメッセージを発表する記事や、企画展全体の動画を準備中ですので、楽しみにしていてください!


【参照サイト】『number 0』プレリリース

FacebookTwitter