ホテルは消費者と地元企業が出会う舞台。京都にできたサステナブルなホテル「GOOD NATURE STATION」

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宿泊施設の役割が近年見直されてきている。ただ「観光のために」宿泊するだけではなく、環境にも体にも、そして心にも優しい体験をするために宿泊するようなホテルが生まれてきている。これまでIDEAS FOR GOODでは、インドネシア・バリでパーマカルチャーを取り入れてゼロウェイストに取り組むホテルや、長野県にある日本初のBIO HOTELといった宿泊施設へ実際に取材してきた。

今回ご紹介するのは、関西で著名な大手鉄道会社、京阪グループが運営する「GOOD NATURE STATION」。デパートが並ぶ京都河原町駅から徒歩2分と好アクセスだ。

Good Nature Stationエントランス

施設内に足を踏み入れると、にぎやかなマーケット「市場食堂」が出迎える。有機や地元京都で作られた野菜・果物や加工品、サラダバーが目に飛び込んでくる。普段使いはもちろん、ちょっとしたお土産を買うにも使い勝手がよさそうだ。2階は高級な雰囲気が漂うレストランが並ぶ「プレミアム・ガストロノミーフロア」、3階はコスメや雑貨、トータルビューティサロンのある「トータル・リジュビネーション・スポット」となっている。

4階は木目調で開放感のあるホテルのレセプションフロアだ。4階までは宿泊客以外でも利用できる。4階から9階までは141室もの客室があり、ローカルやサステナビリティを取り入れた中ではかなり大型のホテルだ。

Good Nature Station

開放感のあるレセプション

宿泊客はもちろんのこと、レストランで使われる食の生産者や近隣住民など、ホテルに関わるさまざまな人々が多様に交わり、館内は新しいライフスタイルを実験して気づきがあるような構造になっている。今回は館長の山下さんにGOOD NATURE STATIONについてお話を伺い、ホテル総支配人の櫻井さんから館内を案内していただく中で「GOOD NATURE」を体験できるホテル設計が見えてきた。今回はそのエッセンスを紹介しよう。

SDGsを明記しない等身大の心地よさ

SDGsやオーガニックというと、利便性やデザインを我慢したり、「環境・社会にいいもの」という観点で商品を買ったことのない人にとっては近寄りがたい存在であったりする。GOOD NATURE STATIONでは、これをいかに「自然に」取り入れるかということを考え、ヒトにも地球にもいいものを毎日楽しく、無理なく取り入れられるようなコンセプトづくりをしているという。

そのため、GOOD NATURE STATIONでは「SDGs」「オーガニック」という言葉を意識はしているもののあえて施設名など前面に出さずに「なんだか心地いい」感じを一般の生活の中に織り交ぜようとする狙いだ。宿泊施設を中心としておくのではなく、レストランや売場、カフェといったGOOD NATURE STATIONを構成するすべての要素からこの心地よさを感じられる設計になっている。

鉄道会社という大企業のグループ会社だからこそ、あまりオーガニックに関心のなかった幅広い層からも注目を集め、宿泊客でなくても利用できるマーケットやレストラン等から「GOOD NATURE STATION」を感じられる。大企業の強みが存分に活かされていることを実感する。

Good Nature Station

食堂には量り売りのコーナーも

「ステージ」としてのホテル

オーガニックに関する認証が数多く存在する中、GOOD NATURE STATIONでは必ずしも認証だけを重視するのではなく、無農薬・減農薬・伝統工芸品といったものの生産者の顔が見えるのか、信頼できるのかを消費者に伝えられるかといった基準を大切にしている。

GOOD NATURE STATIONが商品企画も手掛けるオリジナルコスメブランド「NEMOHAMO」では、石油由来の原料を使わず、名前の通り植物の根も葉も茎もまるごと使用してエキスを抽出している。もちろん容器や包材にも可能な限りの環境配慮を行い、サステナビリティを追求している。この商品は館内の売場でも購入できるほか、シャンプーやボディソープは客室でも使える。クリエイターが集う日本有数の祭典Roomsに出展したり、2019年度「サスティナブルコスメアワード」を受賞したりと、素材のユニークさだけでなく、質も評価されている。

Good Nature Station

NEMOHAMOを販売するスペース

ほかにも、地元・京都を中心に農作物や工芸品、加工食品に想いを持って作っている生産者と連携し、その商品を館内で販売したり、装飾に使ったり、ときには収穫体験ツアーとして宿泊客を生産者の場所に案内するイベントも行っている。観光地に人が集まりすぎることを「オーバーツーリズム」と揶揄されることもあるが、GOOD NATURE STATIONでは「アンダーツーリズム」として地元ならではの体験を提供している。

宿泊客にとって有機栽培の良さを実感する経験になると同時に、消費者とコミュニケーションをとることができる機会は生産者にとっても貴重な時間だという。想いを持って商品を作っている生産者は零細経営が多く、販路を探しているところがほとんど。そんな中でGOOD NATURE STATIONをステージとして世の中に広めていくような役割を今後も果たしていく。

筆者がGOOD NATURE STATIONを訪れたときは、1階のピロティでキノコの収穫体験を行っていた。このピロティでは日替わりで生産者がさまざまな店を出店し、館内ではワークショップも定期的に行っているという。ホテルを媒体にして宿泊客だけでなく、地域住民も含め消費者と生産者が交流できる空間づくりをしている点はとてもユニークだ。

Good Nature Station

ピロティで行っていたキノコの栽培

全館で取り組むフードロス

GOOD NATURE STATION館内に並ぶ食品を扱う店舗やレストラン、カフェ。その中ででる野菜の切れ端をスープにしたり、サラダにしたり、おからにしたりとフードロス削減のためのアイデアが尽きない。どうしても出てしまう生ごみは生ごみ処理機で堆肥化して滋賀県の農家に還元。その農家で採れた食材を、また館内で販売したりメニューに使う構想だ。ビーガン・ベジタリアンに対応したメニューも豊富だ。

食事の質は言うまでもない。レストラン「ERUTAN」ではイタリアで初めて日本人で1つ星を取ったシェフがメニュー監修を行い、有機野菜をふんだんに取り入れた彩り鮮やかなメニューを展開している。

Good Nature Station

「RAU」のチョコレートたち

また、施設内にあるパティスリー&チョコレート「RAU」では幸福度数が高い国であるコスタリカの無農薬カカオを使用。カカオから商品になるまでの工程や関わる人々の情報が透明化されている。通常であれば廃棄されてしまうカカオの「ハスク(外皮)」は高ポリフェノールで風味が豊かなため、国産の有機煎茶や和紅茶とブレンドして「カカオティー」として販売している。他にもカカオカレーやカカオの琥珀糖など、廃棄物に新しい価値を見出して再生させるまでの取り組みを行う。

ゼロウェイストやオーガニックを考えたときに小規模でスタートしていくべき、という議論もあるが、大規模な施設だからこそ多くのステークホルダーを巻き込み、総合力で成果を出すことができる。

心地よい滞在を徹底的に追求

GOOD NATURE STATIONでは環境に配慮した建物や敷地利用を評価する認証「LEED認証」と健康・快適な室内環境を評価する認証「WELL認証」を取得。ホテル版の評価基準でのWELL認証の取得は世界初だ。これらを取得するためにも「環境に負荷をかけない心地よい滞在」を追求した。

たとえば、太陽が少しずつ昇っていくように、セットした時間の15分前から照明が明るくなって、自然な目覚めを演出する「サーカディアンリズム」を搭載した快眠照明を採用している。逆もまた然りで、寝たい時間の2時間前から照明が暗くなるような機能もついている。宿泊客の快適な眠りをサポートするために、全室にこの照明が入っているという。

Good Nature Station

照明点灯前

Good Nature Station

照明点灯後。ホテルの寝坊しがちなスタッフで実験したところ10人中9人がこの照明で起きることができたとのこと。

他にも、建物の緑化に力をいれ、中庭は吹き抜けにして壁面を日本固有種のテイカカズラという蔦が張っている。また、WELL認証では重視している噴水は日本風にアレンジして枯山水を導入した。

朝ヨガなどのアクティビティや、アーティストを招いたワークショップなど、GOOD NATURE STATIONが用意するコンテンツは多岐に渡る。

Good Nature Station

時間をかけて成長していくテイカカズラを見るのも楽しみの一つ

Good Nature Station

京都らしさを演出する工夫は客室にも。和紙を使用した壁紙には手書きで京都の名所の花や木々が描かれている

生活に持ち帰ってもらうために

GOOD NATURE STATIONには「コンダクター」という名の案内人がいる。京都の観光案内だけでなく、館内のさまざまなコンテンツを案内することを重視しており、館内ツアーを毎日16時に開催しているという。「NEMOHAMO」の化粧品を実際に試したり、マーケットで試食ができたりする機会を設け、今回記事内で挙げたようなさまざまな工夫を伝え、生活の中に持って帰るための大切な役割だ。

GOOD NATURE STATIONのこれから

「ゼロウェイストに100%取り組めている海外の小規模施設に比べるとまだ完璧、という訳ではない。まだまだ進化させたいし、さまざまな方々とコラボレーションして、わくわくする取り組みを沢山仕掛けていきたい」と山下さんは語る。

Good Nature Station

館長の山下さんとホテル総支配人の櫻井さん(左から)

編集後記

本文には書かなかったが、もちろんアメニティも最低限で、使い捨てプラスチック削減にも取り組んでいる。「いまだに『お金を取っているのに不便な思いをさせるなんて』と批判されることもあり、これまでの常識からすると困難も多い。それでも、ちょっと考えてもらうきっかけになれば」と櫻井さんが語っていた。

名のある企業が行うからこそさまざまな価値観から批判もある。しかし、GOOD NATURE STATIONが作ろうとしているのは地域の希望だ。想いを持った地元生産者が活躍するためのステージを用意し、大型ホテルならではの幅広い利用客との接点を生み出している。

消費活動をすることは「投票」だと思う。こういったホテルの稼働率が上がることはホテル周辺の住民や同業者の意識のボトムアップに繋がる。大切なお金を意義ある1票に使いたい。

【参照サイト】GOOD NATURE STATION

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