「おじさん」「貧しい」「ボロボロの服を着ている」「高架下とか河川敷とかで寝ている」
ホームレスと聞いて、あなたならどんなワードを思い浮かべるだろう。大阪・大阪市北区を中心にホームレス支援を行う認定NPO法人Homedoorは、「ホームレス状態には誰でもなりえる」という。
2020年に活動10年目をむかえた当団体は、ホームレスの人々をはじめとする 生活困窮者への就労支援・生活支援や、ホームレス化の予防事業、ホームレス問題に関する啓蒙活動を行う。ただ寄付を促すだけではなく、ホームレスの人々の得意なこと=自転車修理 に着目したシェアサイクル事業「HUBchari」を立ち上げ、ホームレス問題と大阪の放置自転車という二つの社会課題を同時に解決するユニークな団体だ。
彼女たちが目指すのは、いまの日本からホームレスをゼロにすることではない。もしホームレス状態になってしまっても、「誰でも何度でもやり直せる社会」である。
新型コロナウイルス感染症の影響で、国内では6万人以上が雇い止めを含む解雇にあう中(※1)、ホームレス支援の現場はどう変化しているのだろう。そして、何度でもやり直せる社会のために、私たちは何ができるのだろう。Homedoor事務局長の松本浩美さんにお話を伺った。
ホームレスの人々の“得意”をいかした就労支援「HUBchari」
Homedoorは、夜回りなどでホームレスの方に支援を「届ける」ところから、就職などの自立を支え、そしてホームレス問題を世間に広く「伝える」までを一つのセットとして活動している。
数ある活動の中でも、大阪という地域の社会課題に注目したのがHUBchari(ハブチャリ)だ。HUBchariは、自転車を好きなところで借りて、好きなところで貸せるシェアサイクル事業で、ホームレスになってしまった人々の就労支援として、自転車の修理や接客をしてもらっている。この事業がきっかけで、Homedoorの代表の川口加奈氏は日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」や、Forbes誌が主催する「30 UNDER 30 JAPAN」に選出された。
Q. ホームレス問題と放置自転車の両方に働きかける「HUBchari」。始めたきっかけは何でしたか?
以前から、ホームレスの方々の特技をいかした就労支援ができたらいいな、と話し合っていました。2011年から2012年ごろにかけて当事者にヒアリングをする中で、実に7割の人が自転車修理を得意としていることがわかりました。ホームレスの方々が生計を立てるために廃品回収をするときは、基本的に自転車で長距離移動をしていること、そして自転車の修理にもお金がかかるので、少し壊れたくらいなら自分で修理するのです。
そこから着想を得て、自転車の修理や接客をホームレスのおっちゃんたちの就労支援に繋げる、シェアサイクルHUBchariをはじめることになりました。当時は大阪でシェアサイクルのサービスがなく、放置自転車も問題となっていたので、放置自転車問題とホームレス問題の2つを一気に解決できる仕組みでした。
Q. なるほど。HUBchariは、ホームレスの人が「支援される側」ではなく、「社会課題を解決する側」になれる事業とも言えますね。
そうなんです。シェアサイクルを広げることで街の美化に貢献するし、自転車ならCO2も出さない。修理をしていて利用者の方に直接お礼を言われることや、拠点のオーナーさんから「HUBchariのおかげで放置自転車を見かけることが少なくなった」と言われることもありました。
こうした経験が積み重なると、自分がやっている仕事はすごく社会的に価値があることなんだと思うことができて、自己有用感につながります。おっちゃんたちの得意をいかして、尊厳も大切にする事業にできてよかったです。
Q. HUBchariの利用者は、この事業がホームレスの方々の支援に繋がっていると知らない方も多いのですか?
知らずに乗っている方も多いですね。自転車を使ったあとに、おっちゃんたちが修理している場面をみて、実はホームレス支援に繋がっていることを知る…… みたいな。でもそれでいいんです。最初から支援ありきで、可哀想だから使う、という風にはなってほしくなくて。自分が本当に使いたいサービスが、たまたまホームレスの方の支援になっているようなモデルがいいと思うのです。
今年に入ってからは新型コロナで訪日外国人観光客が減って、利用者も減るかと思いきや、逆に増えてきているんです。密を避けるために「満員電車を避けたい」という需要があったみたいで。新型コロナの影響で拠点の一部が閉業してしまうことはありましたが、利用者自体は増えてきています。
コロナ禍のホームレス支援
Homedoorの職員は、代表の川口さんや事務局長の松本さんを含め現状8人。Homedoorはホームレス状態から脱却するサポートとして、安心できる生活の用意や就労支援、引っ越しの手伝いなどを行っている。新型コロナによって、支援にはどのような影響が出ているのだろうか。
Q. いま、相談にくるホームレスの方々はどのような属性の人が多いのですか?
Homedoorに相談にくる人は、平均40.1歳。10代から70代まで幅広いです。
最近だと、そもそも「ホームレス」と呼ばれる方を見る機会が減っていませんか。実際に、厚生労働省が出している数字では、年々ホームレスの方の数は減っているのですが、これは定義している「ホームレス」の基準が狭いんです。係員の方が、野外で寝ている方を目視で確認している状況なので、「いかにも」な風貌の人しか数えられていなくて。たとえば20代の女性が、帰る家がなくてが道端で座っていたとして、「ホームレス」として数えられるでしょうか。行政の統計だと、女性の割合は3~4%のみ(※2)。でも実際にHomedoorに相談にやってくる人は20~25%が女性だったりします。
Homedoorでは、ネットカフェや友達の家を転々している人、会社の寮を出ないといけない人など、住居が不安定な状況な人も「ホームレス」だと定義しています。DV(家庭内暴力)や家庭不和など、さまざまな事情で家を出なきゃいけない人たちも含まれています。精神的な疾患を患っている人も多いので、場合によっては、別の福祉団体につなぐこともあります。
※2 2019年 厚生労働省 ホームレスの実態に関する全国調査結果について によると、ホームレス男性4235人に対して女性171人。いずれも前年度と比べて減少傾向だと発表されている。
Q. コロナ禍で活動にどのような影響が出ましたか?また、変わりゆく状況にどのように対応していますか?
2019年度までは、相談者の数が年間750名ほどでしたが、2020年4月以降はコロナの影響を受けて月間100名まで増えました。これまでにいなかったような、元々は正社員だった方や、個人事業主だった方からの相談も増えました。相談者の性質も少しずつ変わってきていますね。
Homedoorでは、消毒や検温など一般企業と同じように感染対策をしているほか、新しく相談に来られる方の対応が追い付かないこともあるので、事務局の相談員の数を増やしています。
また、ホームレス状態の人だと住民票を持っていない場合も多いので、10万円の給付金が受けられない問題もあります。大阪市や総務省に確認し、「アンドセンター(Homedoorが無料定額宿泊所として運営する施設)」に一時的に住民票を置いてもらい、ホームレスの方も給付金がもらえるようにしました。普段缶集めなどで数百円の収入を得て生計を立てている方々にとって、10万円って本当に大きいんです。
「ホームレスの多様化」が近年の課題に
コロナ禍のホームレス支援について聞いたところで、ふと「いまホームレスの人々は何に一番困っているのだろう?何かできることはないだろうか」という疑問が浮かんだ。松本さんに率直に投げかけると、話題はもっとディープな「ホームレス問題の多様化と当人とのコミュニケーション」そして「自己責任論」に移っていく。
Q. ホームレスの方々が、いま一番困っていることは何ですか?また、支援現場での課題を教えてください。
難しいですね…… 。まず「ホームレス」といっても色々な方がいるので、一概に言うことができません。私たちはホームレス状態の方々を「おっちゃん」と親しみを込めて呼んでいますが、最近だと「おっちゃん」だけではなくて、女性や若い方で複雑な家庭環境の方が相談に来たりすることも。彼ら/彼女らは必ず複合的な問題を抱えているから、この問題を解決すればOK、とは一概に言いきれないんです。相談者が抱える課題が多様化していることが、私たちにとっての一番の課題でしょうか。
若い人の場合、人と話すのがそんなに好きじゃないことや、部屋にこもりがちなこともあります。家庭内不和を抱えていると、当法人で何か支援が失敗したらすぐに頼る場所がなくなってしまう。その人たちが何度でもやり直せる社会にするにはどうすればいいのか、いま法人内でも議論しています。
ホームレスの方は西成区だけじゃなくて、梅田や難波、天王寺にも多少いらっしゃいます。しかし、明らかな風貌をしている方はかなり減ってきています。代わりに、一見住居がないとわからないような、「見えない困窮者」のほうが今は多いのではないかと私たちは考えています。
Q. そのような「見えない困窮者」の方には、どうやって出会うのですか?
毎月第2火曜の夜にしている夜回りで出会うこともあるのですが、ネットで検索して見つけてきてくださる方も多いです。最近だと、スマートフォンの端末は持っているけれど電話代は払えていないからWi-Fiがある場所でしかスマートフォンを使えない方もいて。そういう方が集まりそうなコンビニや、コインランドリー、また、一部のネットカフェにもHomedoorのポスターを貼らせてもらっています。
ただ、「ネットカフェ難民」といってしまうと、「ネットカフェ=生活困窮者がいる」と想起させてしまうことがあり、困る事業者もいるので、私たちも文字にするときにはこの言葉を使わないことを意識しています。
Q. 他に Homedoorスタッフが活動の際に気を付けていること、ルール等は何かありますか?
常に当事者の人に選択肢と、決定する権利がある、という意識を持っておくことですね。「あなたはこの職場・この施設に行くべきです」と押し付けることはなく、本人のやりたいことや目標をよく聞くようにしています。
住む場所を失い無力状態にある人には、普段から選択肢がほとんどありません。たとえばご飯を食べるのにも買うお金が全然ないから、炊き出しに並ぶか、人から何かをもらうまで待つという選択肢しかありません。そうなったときに、自分が食べたい物はまず選べないでしょう。
食べ物ひとつとっても自分で選べない環境の人から、職業など将来の選択肢まで奪ってしまうと、その人には何の希望もなくなってしまうと思うんです。Homedoorでは、有料職業紹介の資格を取得し、一般企業との求人マッチングの仕組みを用意しています。一緒に考えて、さまざまな選択肢から自立への道筋をたてるサポートをするんです。再び貧困状態にならないように、金銭管理の講座なども過去に行いました。
Q. ホームレスの方々の中には、自分の子供くらい若い方に支援されることに複雑な心境を抱く人もいるかもしれない。ホームレスの方々とは、まずどのようにコミュニケーションを取ったらいいでしょうか?
まずは一人のはじめて会う人、として接してほしいです。たとえば誰かが寒い時期に外で寝ていて気になるのであれば、こんにちはと挨拶しながらお茶一本渡すだけでもいい。「よくこの道を通るので、これからも挨拶させてもらいますね」というとか。
相手を可哀想と思ってしまう人もいるかもしれないけど、私たちの活動では、あまり支援する側、される側の垣根を作りたくないんです。変にお客様扱いしてしまうと、相手が萎縮してしまったり、「自分はサービスを受ける側なんだ」と傲慢になってしまったりすることも懸念されるので。
それで少しずつ関係性ができたら、友達みたいに冗談を言い合えると良いなあと思います。私たちは、よく事務所に来てくれるおっちゃんたちに対してはそうしています。最初はお茶も注ぎますが、何度も来ている方だと「今日も来てくれたんやね。冷蔵庫にお茶あるから飲んでいって~」みたいな(笑)安心できるホームのような環境づくりを大切にしています。
ホームレスになるのは「自己責任」か
Q. ホームレスになる人のほとんどは、働きたくても働けない人だと聞いたことがあります。一方で、“働きたくなくて”ホームレスになったり、貧困状態になったりする人もいるのですか?
相談にくる方は基本的には働きたいと話す人が多いです。場合によっては、働ける健康状態(身体・精神ともに)じゃなくても働きたい、とおっしゃることもあるので、治療を先に勧めることもあるくらいです。
「働きたくない人」については、 短期的にそう見える場合もありますね。以前、仕事を頑張りすぎて精神的に疲弊してしまったという方がいました。その方は、うつ病・無気力状態になって仕事を辞め、奥様とも離婚せざるを得なくなり、貯金がなくなってホームレスになってしまったと聞きました。その無気力状態のときに傍から見たら、たしかにその人は「働きたくない人」に映るでしょう。
生活保護制度などの支援=働きたくない人が利用するもの、と誤解されていることも多いなと感じます。そうおっしゃる方はご自分の力で頑張って生計を成り立ててこられたからこそ、そう思われるのかもしれません。
Q. 松本さん自身は、そういった自己責任論についてどう考えていますか?
私自身は、昔からホームレス状態になるのは自己責任だとは考えていなかったです。はじめてホームレスの人と直接的に関わったのは、12歳(中学一年生)のとき、代表の川口と同じ中学校のボランティア部での炊き出しに参加したときでした。それまで特にホームレスの方々に接する経験はなくて、「近所の公園でテントを張っているおっちゃんがいるなあ」という感想が出てくるくらいでした。
その炊き出しでは、おにぎりを600個握ったのですが、公園で2時間以上待っているおっちゃんたちを見て衝撃を受けましたね。コンビニで百円ちょっとで売られているおにぎりを買うことが難しい状況の人が、数百人もいるんだと驚いたのをよく覚えています。
私の場合は、何か特定のイメージを持つ前にホームレスの人に出会っていました。ただ、人によっては、最初に自己責任論を強く感じさせる人に出会っているかもしれません。はじめにどんな人に出会うかで、イメージは作られますよね。
「何度でもやり直せる社会」のために、私たちができること
Homedoorは、近年増え続けている若年層のホームレスへの支援もさらに広げていく。アンドセンターの隣にカフェをつくり、一緒にご飯を食べながらコミュニティづくりをすることを考えており、同時に自立の糸口になるような方法も模索している。
また、仕事が長続きしない人に必要な支援や、相手先企業との継続的なコミュニケーション、柔軟な対応のお願いなどが必要になる。多様化するホームレス問題の支援にあたっては、まだまだ課題も多いようだ。そんな中で、私たちができることは何かないだろうか。
Q. ホームレス問題をあまり知らない人たちに、知っておいて欲しいことは?
「ホームレス問題は、私たち全員にかかわっている」ということ。これに尽きます。
人は、いろいろな社会課題が重なってホームレス状態になります。自己責任で、怠けていたからなったのでは決してなく、仕事を頑張りすぎて疲れてしまった、派遣切りによって失業してしまった、災害で家を失ってしまった、介護で退職してお金が尽きてしまった……という人もいます 。特にいま、新型コロナの影響を受けて会社員でも解雇や一時帰休されている人が多くいるように、誰にとっても貧困状態・ホームレス状態になる可能性はあるんです。
新型コロナは、世界中の人に同じ経験をもたらしました。自粛中のどこかで、自分の生活が脅かされるかもしれない、と思った人は多いはずです。少しだけホームレス問題を身近に感じる人が増えたからなのか、わかりませんが、5月に緊急事態宣言が出されたときは寄付も一時的に増えました。そんないまだからこそ、もっともっとホームレス問題について知ってほしいです。
Q. 「何度でもやり直しができる社会」のために、私たちができることは何でしょうか?
もちろん、寄付やボランティア等などの直接的な支援をしてもらえたらとても助かります。といっても、時間や金銭的に制約のあって難しいという方もいるはずなので、まずはホームレス問題が身近にあることを知ったら、ぜひ自分の大切な人・身近な人に伝えてほしいです。
また、万が一自分がホームレスになったらどうするかを事前に調べておくことも一歩です。自分がDV被害を受けたら、事故で働けなくなったら、など調べておくことで、自分自身だけでなく、身近な誰かを助けられるかもしれません。自然災害に備えて防災グッズを揃えるように、ホームレス問題も、“難しい社会問題”じゃなくて、日常会話の中で「あなたはどうする?」と考えてみてもらえたらと思います。
編集後記:誰もが「ホームドア」になれるということ
Homedoorという団体名には、駅のプラットフォームにあるホームドアのような存在(=人生というホームから転落しないようにするもの)でありたい、そして誰でもいつでも帰ってこれるような温かいホームの扉のような存在になりたいという想いが込められている。
実際、社会全体で「やり直しがきくようにする」のは容易ではない。自立(職がもてて、一人で生活できる状態)には一人当たり13万円ほどかかるし、就職活動をはじめても、厳しい状況に「やっぱり無理じゃないか」と諦めてしまう人もいるかもしれない。しかし私たち自身がホームレス問題や日本の貧困問題について知り、シミュレーションをして、身近な人に知識を共有することで、誰かのホームドアになることはできると、松本さんの話を聞いていて思う。
これからHomedoorは、ますます活動の幅を広げていくだろう。代表の川口氏の著書『14歳で“おっちゃん”と出会ってから、15年考えつづけてやっと見つけた「働く意味」』も2020年9月1日に発売され、大人だけでなく子供世代にも幅広く読まれている。(単行本/Kindle)
すべての社会問題解決の第一歩は、知ることだ。「ホームレスには誰でもなりえる」そんな世の中で、あなたならどう行動するだろうか。
(写真提供:Homedoor)
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