仕事での問題が理由で自死を選ぶ人は、日本国内で年間およそ2,000人(※1)。法整備が行き届いた社会であるにも関わらず、サービス残業という暗黙の了解がまかり通り、ストレスを抱えている人も多い。
今では当たり前の「週休2日制」が日本で導入されたのは、1965年の松下電器産業(現パナソニック)が初だ。しかしコロナ禍の今、もはやその常識が、常識でなくなる時代が到来するかもしれない。
スペインが「週休3日制」つまり「週4日32時間勤務」を国全体で導入することを検討しているのだ。この試みについて報道した英インディペンデント紙によると、政治学者でマス・パイス党所属のイニゴ・エレホン氏は今回の提案について「今は、経済を再建しなければならないときであり、スペインが週4日勤務に移行する絶好の機会です。これは労働者の生産性を向上させ、心身の健康を改善し、環境への影響も減らすことができる、未来に向けた政策です」と述べたという。
なお、労働者の賃金は下げず、政府が一時的に賄うとされる。ドイツの短時間労働システム「Kurzarbeit」を参考にしているといい、スペイン財務省はパイロット実施の助成金等にあてる予算を5,000万ユーロ(約60億円)と見積もっている。
同じく週休3日制を推し進めているニュージーランドでは、DoveやBen & Jerry’sなどのブランドを所有するユニリーバが、週5日間分の賃金を下げることなく週4日労働を試験導入している。マイクロソフトが日本で実施した同様のパイロットでは、金曜日を休みとし従業員がオフィスで過ごす時間が減ったにも関わらず、生産性が40%向上したと報告された。今後、AI(人工知能)などのテクノロジーの進歩も、人の労働時間を減らすのに役に立つと言われている。
筆者が今いるスペインは、実はすでに週休2.5日制で、夏には1カ月程度の長期休暇を取ることが当たり前となっている。金曜日は、午後まで働いて終業という会社も多く、通勤時間帯の電車にいる人の数も少ない。夏季は時短勤務になる民間企業もある。パブリックセクターでは1年を通して、遅めに取る昼食以降は働かずに、8月はオフィス自体が閉鎖するというところもある。スペイン社会全体が、8月は「夏休み」という認識を持っているのだ。
スペインの伝統的な働き方といえば、お昼すぎまで働いて3時間程度、昼寝休憩(シエスタ)を取り、夕方の涼しい時間帯にまた働くというスタイルだ。しかしグローバル経済の波が押し寄せ、オフィスにはエアコンが効くようになり、昼休みが2時間や1時間になりつつもある。ストレスフルなコロナ禍もあいまって、その伝統やライフスタイルを取り戻そうとする動きが今、起こっているようだ。
【参照サイト】Spain’s left-wing government could help companies switch to four-day working week
Edited by Kimika Tonuma