EUで進む、在宅勤務中の「つながらない権利」とは?

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新型コロナウイルス感染症が猛威を振るうEU(欧州連合)諸国では現在、4億5千万人の人口のうち、およそ3分の1の人がリモートワークを行っている。どこからでも働けるのは良いことだが、近年その弊害も表面化しはじめた。四六時中仕事をしていて、オンとオフが曖昧になっているというのだ。在宅で働く人からは「仕事とプライベートの切り替えが難しい」「遅い時間での残業が増えた」「勤務時間外に来たメッセージも返さないといけないプレッシャーがある」という声も聞かれる。

そんな中、2020年12月に欧州議会の雇用委員会で行われた決議では「つながらない権利」が求められた。つながらない権利とは、勤務時間外や休日などに、仕事上のメッセージや電話への対応を拒否する権利である。もともと、2001年にフランス最高裁が勤務時間外に届いたメールに返信しないのは勤務怠慢にはあたらないとの判断を下したことが始まりだ。今回の議会でも、賛成31票、反対6票、棄権18票で可決された。これにより、さらなる労働環境の改善を目指す。

マルタ共和国のアレックス・アギウス・サリバ議員は「パンデミックは、私たちの働き方を変えました。しかし、多くの労働者は、数か月にわたるリモートワークで孤独感や、倦怠感、うつ、燃え尽き症候群、筋肉や目の疾患といった副作用にも苦しんでいます。常につながっていなければというプレッシャーが高まっているということです」と述べる

つながらない権利

フランス最高裁の決定に基づき、フランスでは規則が設けられ、2017年には法が施行された。イタリアにも同様の法律がある。ドイツでは法律はないものの、企業が社内規定として設けている場合がある。つながらない権利は欧州議会が主導することで、今後はヨーロッパ全土に広がる流れができつつあるようだ。

従来、正社員の仕事量は、時間で計測されてきた。それを効率化するために、日本でもオフィスへ出勤することが一般的だったが、コロナ禍で状況が一変。オンライン会議が増えた。大都市に企業が集中する日本では、多くの人が郊外に住んでおり、リモートワークは長い通勤時間を省くメリットもある。効率が上がったという声がある一方、働き手によっては「常に対応しなければ」「成果を出さなければ」というプレッシャーを感じているとも言われている。

「勤務時間外に届く仕事上のメールなんて、自分で決めて無視すればいいじゃないか」という声もありそうだが、働く人のなかには企業に対して対等に物を言いにくい状況にある人もいる。今回のEUの動きを受けて、日本でも「つながらない権利」の法制化の議論が深まることを願う。

【参照サイト】EU pushes for ‘right to disconnect’ from work at home

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