テレビや雑誌、SNSなどで「エシカルファッション」という言葉に触れたことがある方もいるのではないでしょうか。特に決まった定義はありませんが、労働者の人権や環境、動物への配慮などさまざまな社会問題に対してアクションを起こすファッション業界を総称して、「エシカルファッション」と呼ばれています。
エシカルファッションが話題になったきっかけ
エシカルファッションが注目され始めたのは、2013年にバングラデシュで起きた、ラナ・プラザ商業ビルの崩壊事故がきっかけでした。事故により、ビル内の縫製工場で働いていた約1,100人以上の人が亡くなり、2,500人以上のけが人が出てしまいました。
その工場では私たちが普段よく目にするようなブランドの服がつくられていましたが、事故をきっかけに低賃金、悪環境の中で長時間働かされていたことが明らかとなり、ファッション業界のあり方に疑問を持つ人が増えました。
ラナ・プラザでの事故をきっかけに、世界中でファッションの在り方をもう一度考えようとする動きが次々と起こりました。日本でもファッション業界の現状やこれからのあり方を考えるイベントが開催されています。
ファッションが抱える課題は労働問題だけではありません。有名ブランドの売れ残り品が大量廃棄されている問題が報じられたように、世界で生産された服の6割は廃棄されているのが現状です。廃棄される服のうち、リユース・リサイクルされるものはわずか18%、それ以外の服は埋め立てや焼却処分されていることも問題視されています(*1)。
また、ファッション業界は環境にも負荷を与えています。たとえば、二酸化炭素の排出量は、世界全体の8%を占め、航空業界と運送業界の合計排出量を超え、さらには毎年500万人分が必要とするのと同じ量の水を使用しています(*2)。 こうした人権や環境、社会問題に配慮しているのが「エシカルファッション」です。
エシカルファッションにはどんな「いいこと」がある?
では、エシカルファッションを取り入れるとどのような「いいこと」があるのでしょうか。
(1)環境の保全につながる
エシカルファッションの目的の一つは、環境問題を解決し、地球の資源を守ることです。農薬や化学薬品を使用しないオーガニック素材を選ぶことで土壌汚染を防ぎ、資源を再利用したリサイクル素材を選ぶことで、廃棄物を処理する時に発生する二酸化炭素を削減するなど、地球環境の保全につなげることができます。
(2)労働者の人権を守る
主に発展途上国では子供も含め、不当な労働環境が問題視されています。エシカルファッションブランドは、服の生産にかかわる方の労働に見合った対価を支払っています。その結果、子供は働かずに学校で教育を受けられるようになるなど、貧困層を救うことにもつながっているのです。
最近では、自社の取引先リストを公開するブランドも増えつつあります。日本では、ユニクロが2018年に2次取引先である主要素材工場のリストまで公開しました(*5)。原材料を調達してから製品を消費者に届けるまでの製造過程を透明化することで、働く人たちの労働環境に問題がないかなどを示すことができます。
(3)動物への配慮や生物多様性を保護する
衣服を作る際に、動物由来の素材を用いないヴィーガンファッションが注目されています。
Gucci(グッチ)やCalvin Klein(カルバンクライン)、Stella McCarteny(ステラ マッカートニー)、Armani(アルマーニ)など有名ブランドが次々とリアルファーやレザー(皮)を使用しないと宣言するなど、動物の皮革を使わない動きが進んでいます。
まずは一着から。エシカルファッションを取り入れるヒント
ここで、エシカルファッションを選ぶ際のポイントをご紹介します。
(1)合成化学繊維を使用していない商品
(2)オーガニックコットンを使用した商品
(3)残余素材や廃棄物からアップサイクルされた商品
(4)製造工程での環境負荷を削減した商品
(5)売れ残りや中古製品を扱うブランド
(6)労働問題に配慮した商品
まずは素材選びを意識してみましょう。オーガニックコットンや、今まではゴミとして捨てられてしまっていたものに価値を加えてつくられたアイテムを選んでみるだけでも、エシカルファッションをはじめることができます。
それぞれのポイントを、商品の例と共にご紹介します。ぜひ、参考にしてみてください。
(1)合成化学繊維を使用していない商品
石油からつくられるポリエステルなどの合成化学繊維は繊維状のプラスチックといえます。これらは洗濯の度に細かな繊維として海に流れ、「海洋プラスチックごみ問題」につながっています。
「カポック」と呼ばれる東南アジアでつくられる木の実の綿から作られたコート。軽くて着ぶくれしないのに暖かく、それでいて森林伐採の必要がないなど、環境にも人にもやさしいものです。商品の売上の一部はカポックの植樹や品種改良に使われ、購買活動から未来のカポックを育むことにもつながっています。
400年以上の歴史を持つ福島県の伝統工芸品、会津木綿を使ったストール。数年使いこんだような柔らかさは、さらに使い込むことによって風合いが増していきます。保温性、吸湿性に優れるため、夏も冬も重宝するストールです。
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(2)オーガニックコットンを使用した商品
合成化学繊維を使わないもののなかでも、オーガニックコットンを使った商品では、農薬や化学肥料を使わないだけではなく、水の使用量を減らしたり、生産者の健康を守ったりすることができます。
(商品ページはこちら<外部サイト>)
「人生で最高の一枚を」というコンセプトを掲げるファクトリ「EIJI」とエールマーケットのコラボTシャツ。世界最高峰のオーガニックコットン、アルティメイトピマを100%使用し、ほつれなどの修理をしてくれる生涯保証つき。
(3)残余素材や廃棄物からアップサイクルされた商品
最近は、端切れを再度糸にした再生コットンや再生ペットボトル繊維を使用した製品も増えてきました。また、製造段階で出てしまう端材を使ったアップサイクル商品はごみ削減にもなります。
地球なくしてスポーツの未来なし。“宇宙ゴミ”から誕生したナイキのスニーカー
製造工場の床に落ちている廃棄物やくずを「宇宙ごみ」と表現し、それらを再生させて原料にして作られたシューズ。素材調達、製造、廃棄まで全ての工程ができるだけサステナブルになるように配慮された結果、ナイキの製品の中では最もカーボンフットプリントスコア(温室効果ガスの排出量)が低い製品となっています。
服をつくる過程で余った布を使って、自分でサコッシュ(ショルダータイプのバッグ)をつくるキット。裁断も布の端の処理もしてあるので、ぶきっちょさんでも簡単にお裁縫を楽しむことができます。スマホと長財布がおさまるサイズです。
(商品ページはこちら<外部サイト>)
(4)製造工程での環境負荷を削減した商品
製造工程で問題視されている水やエネルギーの大量消費をなるべく抑え、環境に配慮した製造方法へ改善し、その技術などの情報を公開するブランドも増えています。
サステナブルかつ履きやすさで知られるシューズブランド「Allbirds」
ペットボトルからリサイクルされた繊維や羊毛、ユーカリの木からつくられた繊維を使用し、抜群の履きやすさを誇るシューズをはじめとするアパレルグッズを販売する「allbirds」。独自開発した資源活用技術をすべて無償で情報公開することで、環境配慮製品の普及を促すなどサステナビリティに積極的に取り組んでいます。
驚くほど軽く、通気性も抜群のスニーカー。ユーカリのパルプからつくられた繊維はコットン・ポリエステル混紡と同じくらいの柔らかさと伸縮性があります。キッズサイズもあるので、親子ペアでコーディネートしてみては。
(商品ページはこちら<外部サイト>)
(5)売れ残りや中古製品を扱うブランド
まだ着られる状態の衣服にも関わらず、売れ残ってしまうものや、着なくなって捨てられてしまうものがあります。そんな衣服も一工夫するだけで新たな買い手に届くアイデアがあります。
売れ残りが価値になる。
ディスカウントによる在庫処分などでブランドの価値を棄損したくないアパレルメーカーから売れ残ってしまった在庫を買い取り、ブランドタグや洗濯表示タグを付け替えて「Rename」という新たなブランド名に表示を変更して再販するというユニークなビジネスモデルです。
ヴィンテージ着物をアップサイクルし、新たな価値を生み出しているブランド。アイテムの中で多く使用されているのは、大正から昭和にかけて女性の普段着やおしゃれ着とされていた絹の着物。古さを感じさせないほど、奇抜で斬新な柄デザインも特徴で、当時社会進出を図ろうとした女性のおしゃれ心や柄への興味、共感をひきつけています。
(6)労働問題に配慮した商品
ファッション業界の抱える問題は環境面だけではありません。服づくりに関わる人をはじめ、誰かの助けになる取り組みをしているブランドの服を選ぶことも大切です。
アジアで最も貧しい国とも言われるバングラデシュに自社工場をつくり、スタッフの子どもたちが高校を卒業するまでサポートするベビー服ブランド。成長に合わせてサイズを2段階調整できたり、名前を書くタグに3人分の欄をもうけてお下がりとして使いやすくしたりなど長期間使えるよう配慮しています。贈る人も、使う人も、つくる人も幸せになれるベビー服です。
もっと簡単にエシカルファッションに取り組みたい時のヒント
最後に、エシカルファッションブランドの商品を購入する以外にも、身近なことから始められるヒントをお伝えします。
催し物で必要になった特別な洋服を購入し、一度着た切りでしまいっぱなし…という服もあるかもしれません。必要な時に必要なシーンに合わせて短期間だけレンタルすることで、気軽にファッションを楽しむことができます。
カナダには、高級ドレスやバッグ、ジャケットを30カナダドル〜という手頃な価格で最大10日間借りることができるサービスを提供するBOROというサービスがあります。クローゼットにしまいこんでいる洋服を貸し出すことにより、レンタル価格の50%を得ることができるというお得な仕組みも提供しています。(2)着なくなった服をシェアする、あげる、売る、寄付する
レンタルサービスのハードルが高い場合は、まずは家族や友人と洋服や靴をシェアすることもできます。他には、ヤフオク!やジモティーなどのサービスやセカンドハンドストアに着なくなった服を必要とする人に渡らせることで、廃棄物の削減に貢献できます。他にも、服を回収し、新たな服を製造する材料へとリサイクルする取り組みもあるので寄付をしてみてもよいかもしれません。(3)今持っている服を長く着続ける
最も「エシカル」な行動は、必要のないものを増やさないことです。長持ちする洗濯方法や保管方法を知ること、穴が開いてしまったら縫ったりリメイクしたりするなど、少しの工夫で長く着続けることができます。また、新しく服を購入する際には、流行に左右されず、本当に必要なのか? 長く着続けることができる品質か? 自分に似合っているか? など長く大切に、愛着を持って着続けられる服選びを心がけることが大切です。
明日から、少しずつでも意識してみませんか?
すでにお気づきかもしれませんが、全ての課題を解決するような、完璧なエシカルファッション商品はなかなかありません。海洋プラスチックごみ問題を回避するために天然繊維を選んでも、農薬や水の使用量の問題があったり、動物への配慮を意識して化学繊維を選べば、マイクロプラスチック問題が発生したりします。
そこで、まずは買おうとしている服が本当に必要なのか、すでにある服で応用できないか、取り換えやレンタル、あるいはリメイクできないかと購入前に今あるものでできることを考えてみましょう。そして難しく考えすぎず、自分が「良い」と思えるものや、貢献したいと思えることを基準にファッションを選んでみる、その一歩にとても意味があります。
今日から、自分なりに少しずつはじめてみましょう。
*1 Pulse of Fashion Industry Report 2017
*2 国連、ファッションの流行を追うことの環境コストを「見える化」する活動を開始
*3「ファッション業界気候行動憲章」
*4 国連のファッション業界気候行動憲章、二酸化炭素排出量削減ガイドブック発行
*5 ユニクロが主要素材工場リストを公開。「誰がどこで作っている」を知るのが大切な理由とは?