グリコが学校に17アイス自販機を設置。中高生が学ぶプラスチックとの付き合いかた

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脱プラスチックへの動きが加速している。プラスチック問題と言われたときに真っ先に思い浮かぶのは、海洋プラスチック問題ではないだろうか。町でポイ捨てされたごみが風で川に飛ばされ、海に流れ着く。そしてレジ袋やペットボトルといった使い捨てプラスチックや、風・波の影響で細かく砕かれたマイクロプラスチックを魚やウミガメなどが食べてしまい、喉に詰まらせたり、胃の中で消化されなかったりなどで、死に至ると考えられている。さらに、その魚介類を食べる人体にも何らかの悪影響があるのではないかと指摘されている。

プラスチック問題は、地球温暖化にも影響を及ぼす。温暖化ガスの発生原因の1つに、プラスチックの製造工程や焼却処理時での二酸化炭素の排出がある。いま、パリ協定の「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」長期目標の達成のために「プラスチックの流通プラットフォーム構築」実証事業や「Alliance to End Plastic Waste(プラスチックの廃棄をなくす国際アライアンス)」など、使い捨てプラスチックをなくすための工夫やアライアンスが国内・世界各地で起こっている。

そんな中、Glicoグループ環境ビジョン2050において、2024年度までに使い捨てプラスチック25%削減することを掲げる江崎グリコ株式会社(以下「グリコ」)では、数々の環境取り組み推進の中、セブンティーンアイス(以下「17アイス」)で出た使用済みプラスチックをアップサイクルする取り組みを東京都品川区にある青稜中学高等学校と協働して行った。グリコは昨年2020年、同学校に自動販売機を設置。そしてプラスチック製のスティックタイプのアイスを対象に、生徒たちに食べ終わった後に残るスティックを分別して集めてもらい、それを箸にアップサイクルした。完成した箸は、後述の講義を受けた生徒と卒業生に配布したという。

今回は、なぜこういった取り組みを始めることとなったのか、グリコの経営企画本部コーポレートコミュニケーション部(当時)の濱岡さん、セールス本部市場開発部自販機ユニットの鈴木さんに話を伺った。

17アイスのスティックでできた箸

17アイスとプラスチック問題を繋げる教育的価値

青稜中学高等学校に17アイスの自動販売機を設置する商談が始まったのは、2019年の秋。「学校にアイスの自動販売機があれば生徒は喜ぶが、先生や保護者の方から理解を得るのが難しい。」と同学校の校長先生から指摘を受けたことで、2つの教育的価値の提供を試みた。

1つ目は、アイスを食べ終わった後に残るスティックを分別し、集めて箸にアップサイクルする取り組みだ。集まったスティックをアップサイクルできたら意義があるのではないか。そんなアイデアが浮かんだ。

同学校の生徒たちにスティックを分別して集めてもらい、400膳のオリジナルデザインの箸を作成した。17アイスの自動販売機を設置したのは2020年8月半ばだったが、およそ4か月で400膳の箸を作るのに必要な240本のスティックが集まった。箸を選んだ理由は、生徒たちが身近に触れるものにアップサイクルすることで、日常的に使ってもらいたかったからだという。

17アイスのスティックでできた箸と生徒たち

17アイスのスティックでできた箸と生徒たち

2つ目は、同学校が近年力を入れている、SDGsに関する講義を行うことだ。同学校ではゼミナールの授業が設けられており、その中の1つに「SDGsゼミナール」がある。そのSDGsゼミナールに参加する中学2・3年生約50名に、17アイスと絡めたグリコの取り組みや、プラスチック問題などの身近な環境問題について説明したという。

「17アイスの自動販売機の近くに設置する回収ボックスは、本来スティックや包装紙を捨てるために設置しています。しかし、そういったスティックや包装紙ではなく、食べ終わった弁当のごみで回収ボックスが溢れていることもあり、スティックや包装紙はアイス数本分しか入っていないこともありました。正しく分別されないと、回収業者が分別する手間が増えたり、使用済みプラスチックの資源化が難しくなったりします。青稜中学高等学校に設置した17アイスの回収ボックスには関係のないごみが捨てられることはなく、今回のアップサイクルの過程を通して生徒たちに改めて分別の大切さを理解してもらうことができたのではないかと思います。」

実際に講義を受けた生徒からは、「アイスクリームという慣れ親しんだ身近なものでも、意識の変化で『社会貢献』『SDGs』に繋げられたのが新鮮だった」「わずか数ヶ月で溜まったスティックで、こんなに沢山の箸が作れることに驚いた」といった声があがったという。

青稜中学高校学校に設置された17アイス自販機

青稜中学高校学校に設置された17アイス自販機

箸へのアップサイクルの過程で、さまざまな苦労も

17アイスを食べ終わった後に残るスティックから箸をつくることはグリコにとって初の試みだったため、さまざまな困難に直面したという。たとえば、資源リサイクルを促進するデザイン・企画やものづくりを行う「アートファクトリー玄」に企画を持ち込んだが、スティックのみを原料として箸を作ろうとすると、スティックの材料(ポリエチレン)には箸としての強度が足りないことが分かった。そこで強度を上げるため、バージンのプラスチック(ポリプロピレン)を混合して製造することとなった。

このことについては鈴木さんはこう話す。「使用済みのプラスチックをリサイクルするために、リサイクル材ではないバージンのプラスチックを使わなければならないことに抵抗を感じました。今後、よりサステナブルにしていくために検討していきたいと思っています。」

セブンティーンアイスの回収ボックス

17アイスのスティックや包装紙専用の回収ボックス

青稜中学高等学校での取り組みも2年目に突入した。グリコは、2年目もこの取り組みを継続し、箸以外のアップサイクルの可能性も含めて検討して進めていく方針だ。

「今回、初めての取り組みということもあり、なんとか形にするところまでで精いっぱいでしたが、2年目以降も生徒がより身近に考えてもらえることも検討していきたいです。」

今回の取り組みを通して、嬉しい変化もあったという。

「青稜中学高等学校で、今年から新たに『SDGs部』という部活動が発足したそうです。今回の取り組みがきっかけとなったのかは分かりませんが、講義を受けた生徒の方もSDGs部に所属していると聞きました。私たちの活動が未来ある子供たちにポジティブな影響を与えられたように感じ、とても嬉しかったですね。」

卒業式で手渡される箸

卒業式で手渡される箸

インタビュー後記

近年プラスチックの悪い面ばかり取り上げられているが、「プラスチック=絶対悪」なのだろうか。生物の死骸が何億年も堆積したことで精製された石油を、「使い捨てプラスチック」としてたった数日で捨ててしまう、人間の使い方に問題があるのではないだろうか。さらに使い捨てプラスチックはなくさなければならないが、一方でアップサイクルによってさらに出てしまう炭素も考えなければならない。こういった、どのようにプラスチックと向き合うべきか、生徒たちが多角的に考える姿勢を身に着ける機会になればと思う。

より上手に地球の資源を利用するために「プラスチックをポイ捨てしない」「分別して捨てる」といったことを改めて若い世代に教えたり、ごみを回収してリサイクルの過程を実際に体験してもらったりすることは意義のあることだ。グリコがプラスチックに関わらざるを得ない企業だからこそ、こういった教育的価値の提供が重要になるのではないか。

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