大気汚染を改善すると、温暖化が進む? 脱炭素に必要なのは、複雑さと向き合う力【ウェルビーイング特集 #5 脱炭素】

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新型コロナウイルス蔓延に伴い、経済活動が制限されたことにより、各地で大気汚染が改善された、との報告がなされている。「移動の自粛、工場の稼働停止などで二酸化炭素の排出量が減ったのだから、大気汚染と同時に地球温暖化も緩和できたはず」……そんなふうに考えた人も少なくないだろう。しかし、実のところ、温暖化の状況は改善されていない。そればかりか、温暖化の進行が早まった可能性すらあるという。

コロナ禍の経済活動制限により、大気汚染は改善されたのに、温暖化が緩和されなかったのはなぜ?大気汚染物質、二酸化炭素……空気中に浮かぶ目に見えない物質が、気候変動とどのように関係している?──こうした疑問を解決すべく、今回編集部がお話を伺ったのは、九州大学応用力学研究所の竹村俊彦教授だ。

竹村教授は、大気中に存在する微粒子であるエアロゾルによる気候への影響を研究。2020年12月には国際学術誌で「PM2.5削減とCO2濃度増加により地球温暖化は急拡大する」との研究結果を発表している。

記事前半では、気候変動のメカニズムとともに、「大気汚染対策と地球温暖化対策を同時に行うべき理由」を解説。記事後半では、脱炭素を進めるうえで重要な考え方や、一人ひとりができるアクションに焦点を当てる。「経済活動を抑える、冷暖房の使用頻度を下げるといった『我慢』は気候変動の解決策にはならない」──竹村教授の考える「無理のない」「自分たちのための」脱炭素論に注目だ。

話者プロフィール:竹村俊彦(応用力学研究所 附属大気海洋環境研究センター 気候変動科学分野 教授)

2001年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。2001年より九州大学応用力学研究所助手、2006年より同研究所准教授、2014年より同研究所教授。専門は、気象学・大気環境学。大気中の微粒子(エアロゾル)により引き起こされる気候変動と大気汚染を計算するソフトウェアSPRINTARSを自ら開発して研究している。SPRINTARSを利用したPM2.5・黄砂予測情報を毎日提供。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書主執筆者。引用された回数の多い論文の著者を世界で影響力のある科学者として選出するHighly Cited Researcher(高被引用論文著者)に7年連続選出中。2018年度日本学士院学術奨励賞など受賞。

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PM2.5の多くは人間活動起源

Q.大気汚染物質にはどのようなものがあるのでしょうか?

竹村教授:世界的に今問題となっている大気汚染物質は、大きく分けると2つあります。ひとつは光化学オキシダント、もうひとつはPM2.5です。

大気汚染物質

光化学オキシダントの濃度が上昇し、白くもやがかかった状態は「光化学スモッグ」と呼ばれます。具体的に言うと、そのほとんどがオゾンという物質です。オゾンは基本的に有害な物質で、それが直接肌に触れたり、呼吸で吸い込んだりすると疾患を引き起こします。

日本では、1960年代から1970年代にかけての高度経済成長期に、特にひどい大気汚染がありました。このころ頻繁にニュースで取り上げられ、人々が気にかけていたのは、こちらの光化学オキシダントです。当時、屋外で体育の授業をしていても、光化学オキシダントの濃度が高い場合には、すぐに中止して教室に入りなさい、というような指示が出されていたほど。年配の方は大気汚染というと光化学スモッグを思い浮かべる方が多いと思います。

続いて、PM2.5です。PM2.5は、エアロゾル粒子のうち直径がおおよそ2.5マイクロメートル以下の粒子のことを指します。「エアロゾル粒子」というのは、大気中に浮かぶ固体や液体の粒子状物質のこと。ひとくちにエアロゾル粒子といっても、粒子の大きさは様々で、自然由来のものもあれば人間活動が原因で発生するものもあります。

エアロゾル粒子

大きめのエアロゾル粒子は、自然由来であることが多いですね。例を挙げると、海の波で舞い上がる塩の粒子などです。沿岸部では、車が錆びやすかったり、電線がすぐ腐食したりしますが、これは海の波しぶきでできる塩のエアロゾル粒子が付着し、車や電線のパーツが劣化しやすくなってしまうため。自然由来のエアロゾル粒子の影響なんですね。また、黄砂も自然由来のエアロゾル粒子の一種です。

PM2.5は、微粒子の中でも特に小さめのもの。化石燃料を使ったり、森林火災が起きたり、焼き畑農業を行ったりした際に発生する微粒子は、特に小さく、その大半がPM2.5に分類されます。PM2.5の中にも、自然由来のものはいくらかは混ざっていますので「PM2.5=人間由来のもの」と言いきることはできません。ただ、すべてではないけれども、PM2.5に分類される微粒子のうち、かなりの部分が人間活動起源のものだと言えます。

「エネルギーのやりとり」が気候を変える

Q.二酸化炭素と大気汚染物質は、それぞれ気候変動とどのようにつながっているのですか?

竹村教授:それを理解するためにはまず、気候がどのように成り立っているかを知る必要があります。地球は太陽からの光エネルギーを常に受け取っており、地球は太陽から受け取ったエネルギー量と同等の赤外線エネルギーを宇宙へ放出しています。このエネルギーのやりとりをすることで、気候のバランスをとっているのですね。

エネルギーのやりとり

太陽光も赤外線も、吸収されたり反射されたりしているが、最終的に、地球が受け取るエネルギー量と地球から出ていくエネルギー量は釣り合うようになっている。

▷「地球から出ていくエネルギー」に影響する、二酸化炭素

竹村教授:二酸化炭素などの温室効果ガスは、地球が宇宙へ向けて放射した赤外線を吸収し、それを宇宙へ向けてだけではなく、地表へも再放射します。温室効果ガスが増えると、それだけ地表に再放射される赤外線の量も増えてしまいますね。これにより、地球が暖まりすぎてしまうのです。

温室効果
地表への赤外線の再放射の増加によって気温が上がる仕組みには、実はさらに説明が必要です。先述のとおり、温室効果ガスが増えたことで、地球から宇宙へと放出される赤外線量が低下し、「エネルギーのやりとり」のバランスが崩れてしまいましたね。地球へ届く太陽光のエネルギーの量にはほとんど変化がありません。では、この状態で、地球がこれまでと同じ量だけの赤外線を宇宙に放射しバランスをとるためには、どうすれば良いのでしょうか?……正解は「気温を上げれば良い」のです。というのも、地球は、気温を上げることでエネルギーを放出する能力を高めることができるからです。

気温を上げる際には、海が蓄えているエネルギーが使われます。海は、人間が二酸化炭素を出すことによって発生した余分なエネルギーの90%以上を蓄えています。このエネルギーが海面から出て、対流によって大気へ広く運ばれます。海の密度は大気の1000倍ぐらいなのに、海と大気の温度の上昇度合いは同じぐらいです。ということは、海は膨大な熱を蓄える力を持っているということになります。このエネルギーをほんの少しもらえば、大気の温度を簡単に1℃〜2℃上げることができてしまいます。地球がエネルギー収支のバランスをとろうとすることによって、気温が上昇しているのですね。

▷「地球が受け取るエネルギー」に影響する、大気汚染物質

竹村教授:二酸化炭素は「地球から出ていくエネルギー」の量を変えてしまいますが、エアロゾル粒子の場合は主に「地球が受け取るエネルギー」の量に影響します。

まず、エアロゾルは、光を散乱させる作用を持っています。大気中のエアロゾルの量が多いと、太陽光があちこちで微粒子にぶつかって、光が様々な方向に散乱します。つまり、地面に届く太陽光の量が減少してしまうのです。大気汚染がひどいと空気が白く濁って見えるのは、まさにこの作用が原因です。

エアロゾルの光を散乱させる効果

また、黒っぽい粒子の場合は、白っぽいものよりも熱を吸収しやすいので、エアロゾル粒子自体が太陽の光を吸収し、その周辺の空気を暖めるという効果があります。

黒色粒子の効果

さらに、エアロゾル粒子の増減は、雲にも影響を与えています。これは、エアロゾル粒子が雲の核になっているためです。大気中の水蒸気は、水蒸気だけで水滴になることはできません。水蒸気は、空気中のエアロゾル粒子にくっつくことにより、初めて気体から液体になることができるのです。そうしてできた水滴(雲粒)が集まって、雲ができるんですね。

エアロゾルと雲粒

日常での経験を考えてみてほしいのですが、雲がないよりもあったときの方が絶対に涼しいですよね。これは、雲が太陽の光を地面まで届きにくくしているためです。では、もし人間活動でエアロゾル粒子の数が増えてしまった場合はどうなるでしょうか。

雲には水雲と氷雲がありますが、ここでは、水雲を例にとって説明します。同じ質量の水雲があると仮定した場合、エアロゾル粒子が増えると、雲を構成する水滴のサイズが小さくなります。たくさんの雲粒が水を奪い合うわけですね。

太陽光は、雲粒(水滴)の間を通って地面に到達しています。エアロゾルが少ない場合は、水滴の間に適度な隙間がありました。しかし、たくさんのエアロゾル粒子を核にした雲、つまり、小さな水滴がたくさん集まっている雲の場合は、水滴どうしの隙間が狭くなってしまいます。そうすると、太陽の光が雲を通り抜けられず、跳ね返されやすくなるんですね。同じ雲であっても、たくさんのエアロゾル粒子が核になっている場合は、「地面に光を届きにくくする雲」になってしまう、ということです。

エアロゾルと雲

このようにエアロゾル粒子は、「粒子自体が光を直接散乱させる」「雲粒の大きさを変えて太陽光を地表に届きにくくする」という2つの効果によって、「エネルギーのやりとり」のバランスを変えてしまっているのです。

ここまでのお話で皆さんも気づかれたと思いますが、大気中の微粒子には空気を冷やす効果があると言えます。つまり、温暖化対策をせずに大気汚染対策だけを行うと、よりいっそう温暖化を進行させてしまうのです。「じゃあ、エアロゾル粒子がたくさんあった方がいいじゃん!」と思う方もいるかもしれませんが、エアロゾル自体は健康被害を引き起こすものなので、増やすわけにはいきません。大気汚染対策と気候変動対策とは、同時に行っていかなければならないのです。

脱炭素を進めるときは「トータルで」考える

Q.脱炭素を進めるうえで重要なことは何でしょうか?

竹村教授:脱炭素でまず取り組むべきは、化石燃料依存からの脱出ですね。化石燃料は、地球が何億年、何千万年と時間をかけて作ってきたもの。そのうちのものすごい量を、最近たかだか100年~200年といった短い時間で使ってしまっているわけです。長い時間をかけて地下に貯めていた炭素を、一気にどんどん大気中に放出しているのだから、問題が起きるのも理解できます。まずは化石燃料の依存を止めること、それをいかに早く達成するかが、本質的な解決への第一歩だと思います。

その中で生まれてきたのが、「石油を植物由来のもので代替しよう」という考え方ですね。植物は、光合成によって二酸化炭素を吸収してくれているので、燃焼時にはそれをもう一度放出するわけだから、賞味排出量はゼロではないかということです。原理的にはその通りなのですが、問題はもっと複雑だということを理解したうえで移行を進めなければなりません。

例えば、バイオ燃料用の植物を育てるために、森林をどんどん伐採して畑に変えているケースがあります。いくら効率よくバイオ燃料を生産できたとしても、コンスタントに大量の二酸化炭素を吸収してくれている森林を失ってしまっては意味がありません。また、食糧耕作地をバイオ燃料用の植物を育てる畑に転用したことで、そもそも人々が生きるために必要なだけの食糧が確保できなくなる、というような事態も考えられます。ある側面からだけではなく、多面的に物事を見て判断し、どのような解決策をとるべきかを判断していく必要がある、ということですね。

私としては、やはり「再生可能エネルギーの普及」を重点的に進めていく必要があると思っています。もちろん、再エネにも先述のようなジレンマはあります。太陽光パネルを設置するために森林が切り拓かれて、土砂災害の危険性が高まっている、といった事例は、今すでに起こっていますしね。しかし、そういった点をきちんとクリアしたうえで、本来自然の持つ強力なエネルギーの一部を借りられれば、世界中の人々が暮らす電力をまかなうことができるはずです。

自然からエネルギーを回収するための個別の技術自体は、現在もそれなりにあるわけですよね。ですから、今後は「その技術をいかに社会に実装していくのか」がポイントになるでしょう。また、こうした再エネの普及に伴い生まれた雇用は、化石燃料からの脱却で職を失った人たちの再雇用先になると考えられます。

脱炭素社会への移行は、ビジネスチャンスと捉えることもできます。ただそのときに、むやみに新たなシステムを普及させようとするのではいけません。見聞きした断片的な知識だけを頼りにしていると、「良かれと思ったやったことが総合的には環境にマイナスの影響を与えてしまっていた」ということがよく起こります。ですから、まずはベースとなる「環境に対する正しい科学的知見」を持つことがとても大事です。

再エネ

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我慢は解決にならない

Q.私たちが今すぐできるアクションを教えてください。

竹村教授:昔は地球温暖化対策って言うと、「生活に制限をかけて辛抱しなくてはいけない」という風に考える人が多かったように思うんです。極端な例だと、どんなに寒くてもどんなに暑くても冷暖房をつけずに暮らしている、ということを自慢げに話す人もいます。しかし、それでは根本的な問題解決になりませんよね。

私はよく「我慢は解決にならない」とお伝えしています。ここでいう我慢とは「普段の生活の中で行う行動制限」のことです。1日だけ痩せ我慢したところで生み出せる効果はたかが知れていますし、いくら環境のためと言ってもしんどいものは長続きしません。小さな我慢が健康に影響を及ぼす可能性もあります。

そうではなく、「暮らしの中で長期的に使うものを、環境に良いものに切り替えていく」ことが重要だと思います。例えば、家電や自動車、あるいは住宅やそこで使う電力など……何年かに一度「長期的に使うもの」を購入する機会が訪れますよね。そのときには必ず、環境のことをしっかり考えて、エネルギー効率の良いものを選択してほしい、ということです。日々の我慢は絶対に長続きしない。だからこそ、「長期的な選択で環境に貢献する」という意識を持つことが大事だと思います。

エネルギー効率の良い製品は、従来品に比べて購入価格が高いことが多いため、手が出しづらいと感じている方もいるでしょう。ここで大切にしてほしいのが、「トータルで考える」ということです。例えば、エアコンを一度購入したら、その先10年ぐらいは使いつづけますよね。省エネ製品の場合、初期投資は通常の製品より高くなってしまうけれども、エネルギー効率が良いぶんその後のランニングコストは安くなります。つまり、購入時の価格に差があったとしても、長い目で見れば、従来品も省エネ製品もトータルの出費は変わらないはずなんです。コストが同じくらいなら、環境に良いものを選べたほうが良いなって思いませんか?大切なのは、目先の値段だけじゃないんです。購入価格だけでなくランニングコストも含めて「トータルで考える」視点をぜひ持ってほしいなと思います。

理解してもらうより、誰もが自然に行動できる仕組みを

Q.読者の中には、まだ気候変動問題への課題意識がない人たちへどう働きかけたら良いかと悩んでいる人もいると思います。周囲を効果的に巻き込むためのコミュニケーションのコツはありますか?

竹村教授:気候変動についてまだよく知らない方に説明する際、気を付けているのは「最初に数字を持ち出さない」ということです。例えば、「産業革命後から地球の平均気温が約1℃上昇している」というデータがありますが、「1℃」というと大したことがないように思えるのではないでしょうか?1日の中でも気温は変化していますし、日によっては昼夜の気温差が10℃ほど開くこともありますからね。1℃の変化は、地球にとってかなり大きな変化。でも、人間からするとあまりに大きなスケールの話なので、感覚的に理解するのが難しいのです。

数字データの代わりに、私が最初にお話しするのは、皆さんが体感されているであろう事実です。例えば、「豪雨が増える」「夏の最高気温が異常な温度になる」など。すでに馴染みのある変化を例にとって、地球温暖化が私たちの生活に甚大な影響を及ぼす可能性がある、ということを伝えるのです。最初にデータを示すよりも、こういう伝え方をしたほうが、気候変動問題の重要性をより実感してもらいやすいのではないかと思います。そして、さらに具体的な説明をするときにデータを使うと、上手く伝わるのではないでしょうか。

豪雨

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竹村教授:気候変動の問題に限らず、社会には色々な問題がありますが、それらすべての問題について全員が意識を向けられているかといったらそうではないと思います。確かに、どれも重要な問題ではありますが、興味を持てない人たちに「意識を持ってもらおう」「能動的にアクションを起こしてもらおう」とするのは、なかなか難しいでしょう。それはそれで、仕方ないことだと思います。

ですから、「分かってもらおう」とすることよりも、誰もが自然に行動を起こせるような仕組みをつくることのほうが重要なのではないでしょうか。

例えば、環境問題を意識している方達から、率先して省エネ製品を買うようにする。そうすれば、だんだん環境に配慮した製品だけが市場に残るようになっていきます。そうなれば、環境意識があろうとなかろうと、買い物をすれば自動的に環境に良いモノを買うことができるようになっているはずです。

「意識しなくても皆が良いアクションを起こせる」状況にするために、問題意識のある人達が率先して行動することが必要だと思います。

Q.最後に読者へのメッセージをお願いします。

竹村教授:今という時点を固定化されたものとして捉えてしまうと、「変化」は恐ろしいもののように感じられてしまうかもしれません。ですが、これまでも社会は常に変化してきたわけですよね。例えば、昔の日本では、一度入社したら、同じ会社で勤めあげていくのが当たり前だと思われていましたが、今は働き方にも様々な選択肢があります。より快適な暮らしをするために、社会のかたちは常に変化し続けているのです。

自分や自分の子、孫が快適に暮らせる世の中をつくろうと思ったら、化石燃料を使わない世の中であるほうが良いと思います。化石燃料を使うことがなければ、温暖化もストップできますし、大気汚染も起こりません。大気汚染のせいで亡くなる人は、未だに世界中で、年間700万人ぐらいいるんですよ。新型コロナによる死者ばかりが注目されますが、これってものすごい人数ですよね。脱炭素に取り組むことで、人々が安全に、健康に、より快適に暮らせるようになるのなら、そういう方向を目指したほうが良いと思いませんか?

「脱炭素」というと難しいものに聞こえるかもしれませんが、これは、間違いなく「自分たちにとって暮らしやすい社会をつくる作業」です。だって、夏の気温が毎年ものすごく高かったらしんどいし、異常気象で頻繁に大雨が降って、自宅が浸水してしまったら嫌でしょう?……そうならないように、「心地の良い環境を作っていきましょう」という考え方が、「脱炭素」のコアだと思うんです。難しく捉えすぎずに「自分たちにとってより良い社会をつくるんだ」という考え方でいるのが大事なのではないでしょうか。

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編集後記

人間が余分に排出した二酸化炭素のうち、およそ30%が海に、それと同等の量が植物に吸収され、残った分は大気中にとどまっている。一度大気中に放出された二酸化炭素の寿命は、少なくとも数十年~百年。かなり長い間大気中にとどまることになる。つまり、「今排出量を抑えればすぐに状況が改善される」というものではないのだ。竹村教授は取材中、日本が掲げる目標通り2050年にカーボンニュートラルを達成するのは「正直なところ、かなり頑張らなければ厳しい」のではないかと語っていた。

だが、同時に教授はこんなことも話してくれた。

「海と植物が安定的に二酸化炭素を吸収してくれている、ということは、逆に言うと、植物の量をしっかりと保ち、人間が排出する二酸化炭素の量を減らしていけば、いつかは必ず、大気中の濃度も下げることができるということです。長い目で見れば、私たちが行動すれば、気候変動問題は着実に解決に近づきます。その解決がいつになるかは、我々がどういう考え方のもとに環境と向き合い、暮らしていくかによって変わってくるでしょう。」

環境へのアプローチには、はっきりとした正解がない。良かれと思ってやったことが、別の場所で問題を生み出していたり、ある過程での環境負荷が減ったと思ったら、別の過程での負荷が倍増していたり……ということがよく起こる。また、自分たちの起こしたアクションの効果が見られるのは、ずっと先であることも多い。「これで良いのだろうか?」「本当に正しい選択ができているのだろうか?」と不安になることも多いだろう。

断片的な知識だけで満足せず、様々な要素のかかわり合いを見ること。長い目を持ち、総合的に判断すること。……正解がないからこそ、「根拠」を持って選択できるようにすることが、重要なのではないだろうか。

【参照サイト】IPCC Report communicater ガイドブック 基礎知識編

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