どこにでも存在するが、私たちの目にはほとんど見えない大気汚染。その特性から「invisible killer(見えない殺人者)」とも呼ばれる。目に見えにくいがゆえに、その汚染度や深刻度は認識しづらく、課題解決へのアクションに結び付きにくいのが現状だ。
実際、政府や研究機関によって大気汚染度の測定とマッピングが行われてはいるものの、それらのデータは図書館や研究所などにあることがほとんどであり、情報はあまり広まっていない。インターネット上で少しずつ広められてはいても、馴染みがない人にとっては理解が難しい情報も多く、大気汚染は未だに人々にとっては現実味のない問題となっている。
そのような現状を受けて立ち上がったのが、ベルギーのブリュッセルに拠点を置く研究グループ「URBAN SPECIES」に所属するデザイナー・Guillaume Slizewiczさんだ。Guillaumeさんが地域の研究者、デザイナーたちと協力してつくりあげたのは、地域の大気汚染レベルのデータに応じてLEDの色を変化させるランプ「Canari」だ。
「Canari」は、真鍮、ガラス、3Dプリントされた部品で構成されたランプ。汚染状況に関するオープンデータに接続されたマイクロコントローラーが内部に設置されており、ネットに接続されるとリアルタイムでの空気の質の情報をもとに光る仕組みになっている。空気の質が良いほど明るく光り、質が悪くなると明かりが暗くなるため、使用する人はランプの明るさによって大気汚染の状況を知ることができる。
Canariという名前は、かつて炭鉱夫が、周辺の鳥(Canari)が窒息していく様子から、空気の汚染度をチェックしていたことに由来する。ランプがかつての鳥の役割のような担えるようにと名付けられたのだ。そんな同プロジェクトは、大気汚染の状況を正確に開示することで人々の関心を高め、持続可能な未来に向けてアクションをとれるようにと願っている。
テクノロジーとアートを用いた「現代のCanari」はどのように大気汚染の問題を改善へと導くのか。これからの動向から目が離せない。
【参照サイト】Guillaume Slizewicz Studio
Edited by Tomoko Ito