ベトナムの大人気ピザ屋「Pizza 4P’s」のSustainability Managerである永田悠馬氏による、レストランのサステナブルなプロジェクトに焦点をあて、Pizza 4P’sがさらにサステナビリティを突き詰めていく「過程」を追っていくオリジナル記事シリーズ「Peace for Earth」。
前回は「ゼロウェイスト」をテーマに、新しくオープンしたPizza 4P’sカンボジア店の店舗デザインやスタッフのユニフォーム、またレストランで使用する小物など、いかにゼロウェイストというコンセプトを取り入れていくかという視点で、サステナブルアクションに取り組む企業のリアルな現場をシェアしてきた。
ゼロウェイスト達成率9割。廃棄物ゼロレストラン7つのアクション | 店舗デザイン編【Pizza 4P’s「Peace for Earth」#13】
第14回目である今回の「Peace for Earth」は、サステナビリティの「見える化」に焦点を当てる。Pizza 4P’sはサステナビリティをビジネスの現場に実装していく上で、自分たちがどれだけサステナブルであるか、という現状を把握したいと常に考えてきた。
これまで、サステナビリティオーディット(※)を社内で開発し、2021年には念願のサステナビリティレポートを発行することができたが、そこに至るまでには多くの困難やジレンマがあった。ベトナム国内でサステナブルアクションに取り組む企業のリアルな現場を、前編と後編の2回に渡ってシェアする。
(※)社会的責任監査。製品を製造する自社工場や、サプライチェーン上にある取引先工場での労務・人権・環境などについて監査を行い、問題があればその改善を促すことをいう。
リーマン・ショックを機に、企業のESG情報公開が加速
近年、企業のサステナビリティに対する取り組みの「情報公開」が広がっている。企業の情報公開といえば、かつては投資家向けの財務情報のみに限られていたが、昨今はSDGsやサステナビリティへの取り組みを含む「非財務情報」の公開の必要性が高まっている。この背景には、環境や社会へ配慮することやガバナンスを強化することが、その企業の事業リスクを減らし、長期的な企業価値向上に繋がるという「ESG投資」という考え方が広まってきているためだ。
以前より、企業の社会貢献活動に関する情報公開は「CSR報告書」という名で細々と行われてきた。しかし、2008年のリーマン・ショックを機に、短期的な利益追求ではなく、長期的な時間軸で事業の機会やリスクを捉え直していくような考え方が欧米の上場企業を中心に一気に加速した。
その結果、CSRという事業とはあまり関係のない社会貢献活動だけではなく、事業に直接関係するESG、SDGs、サステナビリティを含めた報告書を作成する動きが活発化。その動きに貢献したのが、サステナビリティの情報公開に関する国際ガイドラインを策定しているGRI(Global Reporting Initiative)というNGOだ。彼らのガイドラインに準拠した企業レポートの数はリーマン・ショック以降、急速に増えてきた。
あらゆる業界において、サステナビリティの見える化が求められている
リーマン・ショックは世界中の企業にとって象徴的な出来事となったが、各業界ごとにも変化は起きていた。2013年、バングラデシュで1000人以上が亡くなった縫製工場「ラナ・プラザ」の崩壊事故を機に、アパレル産業では工場の安全性や労働環境を改善する動きが本格化。
また、2021年11月に開催されたCOP26も記憶に新しいが、気候変動はかつて石油を売っていた企業を再エネ企業にシフトさせ、自動車メーカーはほぼ例外なくEVへのシフトを迫られている。こうした中長期の大きなリスクを回避するためにも、あらゆる業界において、サステナビリティの見える化と情報公開が迫られている。
Pizza 4P’sのような外食産業も例外ではない。ピザハットやケンタッキーフライドチキンといったブランドを持つヤム・ブランズ社。スターバックスやマクドナルドといったお馴染みのグローバル企業たち。アメリカ国内で人気急上昇中のチポトレ・メキシカン・グリルや、ジャスト・サラダといったファストフードチェーン企業も、今やどこも例外なくサステナビリティに関する報告書を毎年発行している。
サステナビリティ達成度を可視化したい
なぜ、Pizza 4P’sがサステナビリティレポートを作るに至ったのか。実は、Pizza 4P’sが取り組んできたサステナビリティに関する取り組みを一つのレポートとしてまとめようという話は数年前からあった。
その発端は、筆者がPizza 4P’sに入社した2018年まで遡る。当初、Pizza 4P’sはチーズから出る食品ロス「ホエー」の再利用や、プラスチックストローの廃止などを皮切りに、会社として「これからサステナビリティを推し進めていこう」という意志はあったものの、では自分たちが今どれだけサステナブルで(もしくはサステナブルではなくて)、どこまでサステナブルな状態を目指したいのか、について答えられる人は誰もいなかった。つまり、まず今の自分たちの「現状」を、なんとかして可視化する必要があったのだ。
その後、この現状を把握するために筆者が作成したのが「サステナビリティオーディット」だ。これは、イギリスに本部を置くサステイナブル・レストラン協会のガイドラインを参照しつつ、その基準を筆者がベトナムやPizza 4P’sの現状にフィットするようにアレンジしながら作成したサステナビリティの評価システムであり、Pizza 4P’sがどれだけサステナブルであるかをパーセンテージで数値化できるものだった。
Pizza 4P’sのサステナビリティスコアはたったの34%だった
このオーディットを用いて、各店舗や部署の担当者にヒアリングを行い、質問リストに回答してもらうことで、会社全体としてのサステナビリティスコアを可視化していった。結果、2019年末に実施したオーディットでは、Pizza 4P’sのサステナビリティスコアは会社全体で「34%」という結果であった。
もちろん100%が最もサステナブルな状態だ。そのため、34%という結果は決して誇れる数値ではない。しかし良かったのは、自分たちがどの分野でサステナブルな取り組みができているのか、またはできていないのか、について理解できたことだ。
例えば、「従業員の公平な評価・処遇」というカテゴリーでは、79.8%という高いスコアを出した一方、「水産資源や生態系の保全に配慮した魚介類の使用」というカテゴリーでは15.4%という低い結果になってしまっていた。この結果をもとに、会社としてどの分野にどう注力すべきかについて検討できたことは、その後のアクションを検討する上で非常に参考となった。
コロナで中止になった、初回サステナビリティレポート
その後、このサステナビリティオーディットの結果を、せっかくなので社外向けにも公開しようという話になり、2020年初旬にサステナビリティレポートを作成することになった。
原稿は2020年3月には完成し、いよいよデザインに落とし込んでいく段階に。しかし2020年3月、ついにベトナム国内でも新型コロナウイルスによるパンデミックが拡大し、各地でロックダウンが実施された。
会社としての生き残りを賭け、限られたリソースの中、デリバリーサービスの立ち上げやリテール商品開発などに注力せざるを得ず、サステナビリティレポートの作成は中止に。ついに、この初回サステナビリティレポートは日の目を見ることはなかった。
サステナビリティの「見える化」にフォーカスする本記事の後編は、いよいよ2021年に公開することができたPizza 4P’s初のサステナビリティレポートの内容に焦点を当てる。
筆者プロフィール:Pizza 4P’s Sustainability Manager 永田悠馬(ながた ゆうま)
1991年、神奈川生まれ。東京農業大学を卒業後、カンボジアに渡航。2014年からカンボジアの有機農業や再エネ関連の仕事に携わったのち、2018年にベトナムへ移住。ケンブリッジ大学ビジネスサステナビリティ・マネジメントコース修了。現在はPizza 4P’sのサステナビリティ担当。著書に『カンボジア観光ガイドブック 知られざる魅力』。
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【参照サイト】 Letters to the Future特設サイト
【参照サイト】 Pizza 4P’s
Edited by Erika Tomiyama