植物の成長にかかせない窒素。空気の約80パーセントを占めている窒素を使った窒素化合物は、よく畑の肥料として使われているのだが、それが実は多くの環境問題を引き起こしていることはご存じだろうか。
2021年に発表された研究によると、世界の温室効果ガス排出量のうち、窒素肥料のサプライチェーンからの排出量が2.4%を占めるという(※1)。
この他にも、農地から窒素肥料の一部が流出して地下水や河川水などが汚染されたり、大気中に一酸化二窒素(N2O)が排出されて気候変動の一因になったりするといった問題が起きている。
2018年に設立されたアメリカのスタートアップ企業Kula Bioは、従来の窒素肥料の代わりになる、微生物の窒素固定能力を向上させたバイオ肥料「Kula-N」を提供している。Kula-Nの特徴は、大気中の窒素を土壌に固定し、植物が窒素を取り込めるようにする微生物の能力を、強化することだ。
ハーバード大学の研究をもとに開発されたKula-Nは、通常であれば数日間しか生きられない微生物の生存期間を、数週間にまで延長できるという。微生物の生存期間が延長される分、植物により多くの窒素を供給できるようになるのだ。
Kula-Nは従来の窒素肥料と同じように、土の上に撒いて使う。いわば、窒素固定能力の高い微生物を撒いているようなものだ。
微生物は、土壌中の窒素が不足したときにオンデマンドで窒素を固定するため、従来の窒素肥料のように、過剰投与された分が河川水を汚染する心配がないという。
同社によると、Kula-Nは今のところ、従来の化学肥料を最大80%まで代替することができ、いずれは100%代替できるようになるはずだという。
同社は2022年1月、ファンドから5千万ドル(約58億円)の投資を受けたと発表。気候変動対策ファンドLowercarbon Capitalの創設パートナーであるクレイ・デュマス氏は、「ハーバー・ボッシュ法に代わる技術を確立するために、彼らの成長を後押しする」とコメントしている。
ハーバー・ボッシュ法は、20世紀最大の発明の一つとも言われる、窒素ガスと水素ガスを合成してアンモニアを作る技術だ。この技術により窒素肥料が誕生し、食料生産の増大に大きく貢献した。
一方で、エネルギーと化石燃料を大量に消費するという欠点を持つハーバー・ボッシュ法。よりクリーンな方法で窒素を固定するKula Bioの技術は、21世紀最大の発明の一つになり得るだろうか。
※1 Greenhouse gas emissions from global production and use of nitrogen synthetic fertilisers in agriculture | Research Square
【参照サイト】 Kula Bio | Kula-N Nitrogen Biofertilizer