衣類ロスを構造から変える。「Enter the E」オリジナルブランドローンチ

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近年さまざまな場面で「サステナビリティ」や「エシカル」という言葉が発信される背景には、生産活動に伴う環境破壊の問題が存在する。例えば環境省によると、アパレル産業では、衣類一枚あたり原料調達から製造段階までに500mlのペットボトル約255本分のCO2を排出し、浴槽約11杯分もの水を消費しているという。さらに、1日あたりに焼却・埋め立てされる衣服の総量の平均は、大型トラック130台にのぼる。

このように、多くの資源を使って衣服を生産するアパレル産業に対して疑問を投げかけているのが、エシカルファッションブランドのセレクトショップ「Enter the E」だ。これまで海外ブランドの製品を販売してきたEnter the Eは、今夏オリジナルブランドの受注生産を開始した。今回は、Enther the E 代表の植月友美さんに、オリジナルブランドのローンチに至るまでの過程や植月さんが考える「エシカルファッション」についてお話を伺った。

話者プロフィール

植月さん植月 友美(うえつき・ともみ)
GEORGE BROWN COLLEGE(ジョージブラウンカレッジ)FASHION MANAGEMENT卒。18歳からファッション業界に入り古着のバイヤーなど経験。グローバルビジネスを学ぶため渡加、渡米。COLLEGE卒業後 NYで就労を経験、帰国後日本の大手小売企業でバイイング、商品企画、商品開発、マーケティングなど担当。2009年、杜撰なファッション業界の環境破壊を目の当たりにし、人や地球に迷惑をかけずに洋服を楽しめる社会をつくること決意。人生をかけて、「地球と人が洋服を楽しめる社会の両立」の実現に挑む。10年の試行錯誤期間を経て2019年Enter the Eを創業。エシカルやサステイナブルファッションに関する監修、講演活動も積極的に行っている。

オリジナルブランド立ち上げに込めた想い

Enter the E

植月さんはかねてから消費者がアイテムを長く愛用する「スローファッション」を提唱し、「破棄率0%、消化率100%のセレクトショップ」として2019年にEnter the Eを立ち上げた。Enter the Eが本格的に受注販売を展開するようになった背景には、新型コロナウイルスの影響があった。2020年にはポップアップを開催できなくなり、売らずに捨てる「衣類ロス」に加担しかけたという。そこから、衣服が使われなくなった後のことを真剣に考えたい気持ちになり、完全受注に踏み切ったと植月さんは話す。

植月さん:コロナ禍のアパレル産業を見て、「これって持続可能なのか?」と思い、本気で在庫を持つのをやめようと思いました。調べてみると、230年もの間アパレル業界の構造が変わっていないことに気がつき、アパレル産業のシステム自体を変えていかない限り問題は終わらないな、と思ったんです。そこから、「エシカル」な服をただ売るだけはダメだと思い立ち、注文を受けてから仕入れ・生産するやり方にシフトしていきました。

新型コロナウイルスの影響を受け、オンライン配信で受注会を実施した。

また、海外のエシカルファッションブランドから商品を仕入れる中で、セレクトショップだからこそ抱える課題も感じてきたという。

植月さん:Enter the Eはセレクトショップなので、受注や仕入れをする際に私たちがほしい在庫数を海外ブランドが確保できないなど、ブランド側の状況を私たちが対処できない難しさを感じてきました。お客様から商品を求められても、在庫がなくて届けられないという機会ロスが生まれてしまう。そうした経験を通して、お客様が求められているものを私たちで作ったら良いのではないかと思うようになりました。

自分を取り戻せる「エシカルファッション」を目指して

近年、アパレル産業自体が抱える諸問題に対して違和感を持つ消費者も増えてきただろう。植月さんも実際に顧客とコミュニケーションを取る中で、ファッションの背景に疑問を持つがゆえに衣服の購入を躊躇する顧客の姿を見てきたという。

植月さん:お客様から、アパレル産業の課題を知って服を買えなくなったという話を聞いた時、悲しい気持ちになりました。生産背景がわからなかったり、後でロスが出たりすることに違和感を持つお客様たちが悩まないで済むような「良い」洋服を作りたいという気持ちになりました。

Enter the E
そうした想いを抱き、植月さんは今回オリジナルブランドの中で「セットアップドレス」をデザインし、さまざまなこだわりを詰め込んだ。素材に関しては、農場から紡績工場までのトレースが可能なGOTS認証を取得したオーガニックコットンの生地や、木材パルプから作られるテンセルを使用。オリジナルプリントのセージ柄も、日本に数台しかないデジタル捺染機を使用し、染料汚染がない製作を心がけたという。また、裏地やボタン、タグに至るまでプラスチックを使用しておらず、縫製はすべて国内で行うなどクラフトマンシップにもこだわっている。その中でも、植月さんが特に意識したのは、「どんな人が着ても綺麗に見えるデザイン」だ。

植月さん:セットアップドレスのディテールやシルエットにこだわりながら、クラシックなデザインにすることで、ずっと使い続けてもらえるようなアイテムを目指しました。同時に、着用するお客様の「心」にも注目しました。忙しい日常生活では常に他者のことを考えることは難しいですが、この服を着ると自信が生まれ自分の心を取り戻せるのではないかな、と。心に余裕が生まれるからこそ、他者や地球に配慮できると思っています。また、今回はオリジナルのセージ柄を考案したのですが、セージの花言葉は「自然との調和」です。自ずと素敵な自分を取り戻すことこそ、真の「エシカル」なのではないかなと思っています。

Enter the E

近年さまざまな場面で「エシカル」という言葉を目にするが、植月さんが考える「エシカル」とは何なのだろうか。

植月さん:私は、作る人も、使う人も、地球環境、未来さえもハッピーになれるのが「エシカルファッション」だと思っています。「エシカル」は、私たちの心の変容を起こしてくれるような愛や想いの上で成り立っているから、そういった気持ちを取り戻せるようなことをしたいです。そのためには、自分の気持ちをすぐに行動に起こせるようなつながりが大切だと思っています。今回のオリジナルアイテムの製作を通して、「エシカル」という言葉以上に、着た人が魅力的に見えることにこだわり、その人の「美しさ」が花開くことを目指しました。

アパレル産業の構造を変え、真に「エシカル」なものづくりへ

植月さんはこれまでEnter the Eを通して「エシカル」と「受注生産」の共存を提唱してきた。環境や人権、生産背景といった細部だけを捉えるのではなく、それらが包括的につながり合う仕組みを構築することが重要だと植月さんは考えている。

植月さん:「商品を仕入れて売る」という構造を変えない限り、アパレル産業の問題を解決するのは難しいと思っています。でも、実際に自分がやらないと自分が理想とする仕組みについてわからないし、他の人がやるのを待つのではなく、自分で新しいアパレル産業の流れを作っていかなければと思いました。「ゆりかごから墓場まで」商品について考える中で、断片的な取り組みだと辻褄が合わなくなることがあります。だからこそ、「作って、買って、捨てる」という構造を根本的に変え、ファッションの問題を解決したいと考えています。

セレクトショップとして海外のエシカルファッションブランドを発信してきたEnter the Eだが、今回のオリジナルブランドを皮切りに今後もものづくりをしていきたいと植月さんは話す。

植月さん:雇用を生むためにものづくりをするケースもありますが、それだと「ものが売れないのに、雇用維持のために無理してものを作り続ける」という状況が発生します。そうでなく、私たちは予測不能な世の中で必要なものだけを作るようにしたい。そして、こうしたシステムをスタンダードにしていきたいです。生産背景やトレーサビリティを大切にしながら、「エシカル」と「受注生産」の共存を目指して、今後もものづくりをしていきたいと思います。

編集後記

インタビューを通して、これまでセレクトショップとして多種多様なエシカルファッションブランドの精神に触れてきたEnter the Eだからこそのファッションに対する意思の強さを感じた。着用する私たちが見逃してしまいそうなほど細部に至るまで、植月さんたちはこだわりを持って服を作っている。

今回のセットアップドレスについても植月さんは「柄の捺染が難しいと言われるテンセル生地に挑戦し、ほぼゼロから作った」と話していた。そのものづくりに対するぶれない熱意は日本における「エシカルファッション」を新たなステージへと導いていくはずだ。

特別試着会

Enter the E オリジナルブランドのアイテムについては、こちらのサイトから詳細を見ることができる。また、7/9(土)(13:00-16:00 / 17:00-19:00)と7/10(日)(10:00-13:00 / 14:00-16:30)に、渋谷スクランブルスクエアにて特別試着会が開催される。興味がある方は、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

また、Enter the E オリジナルブランドについて詳しくは下記の動画で紹介されているので、気になった方はぜひチェックしてもらいたい。

【関連記事】「サステナブルな服が当たり前になる社会を目指す。エシカルファッションブランド「Enter the E」」
【参照サイト】クラウドファンディングページ
【参照サイト】Enter the E ホームページ
【参照サイト】Enter the E Instagram
【参照サイト】Enter the E YouTubeチャンネル
【参照サイト】Enter the E Facebook
Edited by Megumi

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