真っ暗なレストランで食事したら、多様性がみえてきた。パリの「Dans le Noir?」訪問記

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何も見えない、真っ暗闇を経験したことがあるだろうか。自分がいまどこにいるのか、この空間はどのくらい広くて、どのくらいの高さがあるのか、どんなテーブルや椅子があるのか、空間の色は何色なのか。それらがまったく見えないほどの、完全なる暗闇だ。

そんな暗闇の中で食事ができる、不思議なレストラン「Dans le Noir?(フランス語:暗闇の中)」が、フランス・パリ中心部ノートルダム大聖堂からほど近いところにある。2004年に創業した同レストランの特徴は、その名前のとおり、「何も見えない真っ暗な空間で食事をすること」だ。

なぜ、そんな暗い場所で食事をするのか。暗闇での経験から、一体何が「見えて」くるのか。今回は、同レストランを実際に訪れた体験談をお届けする。

暗闇の中で起こった、これまで経験したことのない感覚

受付でレストランのコンセプトの説明を受けたあと、携帯電話やスマートウォッチなど、光を発するすべてのものをロッカーに預ける。希望する食事のコースを選ぶと、いよいよ店内に入る。受付と化粧室以外は何も見えない暗闇のため、受付スペースでゲストは前の人の肩に手を当てて一列に並ぶ。準備が整うと、目の不自由な従業員のサラさんが、私たちを席まで案内してくれた。

暗闇

Image via Dans le Noir ?

部屋を隔てるカーテンをくぐると、暗闇の世界が広がる。自分がいまどこにいるのか、まったくわからなかった。足元ももちろん見えないため、ゆっくりゆっくり進んでいく。

何も見えないことについて筆者を含めたゲスト同士が会話をするなか、サラさんは、一人ひとりをテーブルに案内してくれ、着席させる。「あなたの名前は?」「りょうこ」。「OK」「りょうこはここに座って。なにかあったら、わたしの名前を呼んでね」と、サラさんは言い、テーブルを離れ食事の準備に行った。

その間、一緒に訪れた他の3人と共に、お互いがどこにどのくらいの距離で座っているのかわからないながら、こんな会話をした。

「目をつぶった方が楽に感じる」
「すぐ横に壁があって、空間の感覚がわからず落ち着かない」
「飛行機に乗ったときのように、耳の圧力調整が必要だ」

実際にテーブルに着いてから、筆者はあくびをするなどして何度も「耳抜き」をした。人間の五感の一つ「見る」が失われることによって体が受ける影響を実感したのだ。

飲み物を運んできたサラさんは、各ゲストの名前を呼び、「手をのばして」と言って、ゲストの手を握り、「こぼさないようにね。グッドラック!」と言って、飲み物を手渡してくれた。ワインを頼んだ筆者は、白ワインか赤ワインかも見えないため、飲んでいるワインに味覚と嗅覚を集中させた。

暗闇

Image via Dans le Noir ?

ワインだけではない。水のボトルのキャップを開けて、こぼさないようにグラスにつぎ、飲むのも一苦労だ。こうした普段当たり前に行っている作業を経て、水やワインをこぼさずに飲めたときの喜びは格別だった。

パンと料理が運ばれてくると、ナイフとフォークを手探りで見つけ、お食事を頂いた。何も「見えない」状況で、いただく料理は新鮮だった。

「私はいま、これを食べていると思う」「多分、もうすぐ食べ終わる」といったことを、他の3人と会話した。何も見えないため、何から食べているのか、これから何を食べられるのかなど、常にワクワクする気持ちとともに、自分が食べているもの、それが何か、どんな味がするかなどを共有した。すべてが手探りで、自らが食しているものを想像しつつ、美味しくいただいた。

食事後、ゲスト同士が手をつないで退席すると、今回頂いた食事の画像を受付の方が見せてくれた。今日、味覚・触覚・嗅覚・聴覚を集中させて、感覚を共有しながら頂いた食事について、「あー、これは○○だったんだ」と、共感し納得するのも、これまでにない経験だった。

料理

Image via Dans le Noir ?

Dans le Noir?が提供するのは、「感覚的」「社会的」「人間的」な体験

Dans le Noir?は2004年にフランスで生まれ、現在では7か国11都市で展開されている。ゲストは完全な暗闇の中で、視覚障害のある人たちによるガイドチームによって、食事をするレストランだ。多くの美食ガイドや観光ガイドから称賛されており、「世界で最も独創的なレストラン10」にたびたびランク付けされている。

同レストランが掲げるのは、3つのユニークな「感覚的」「社会的」「人間的」な経験だ。まず、暗闇の中では、味覚、食感、香りの感じ方がまったく異なり、視覚がすべての感覚に影響を与える。実際に今回の体験では、日常の快適な環境から引き離されたことで、食を違った角度から見るきっかけとなった。

次に、なぜ社会的なのか。暗闇の中では視覚的な判断が消えるため、他者との関係を構築する先入観が消える。コミュニケーションは自然に、より濃密で本質的なものになるのだ。これにより、ゲスト同士のつながりを促進する。

最後に、なぜ人間的なのか。目の見えないガイドたちは食事中、私たちの目となり、何もわからないところから導いてくれる存在となる。この瞬間、私たちは多様性について考えることができるのだ。

同レストラン創設者の一人であるDidier Roche氏は、生まれつき盲目で、「私たちは、障害を持って生きる人が他の人と同じように率先して一生懸命働き、普通の生活を送れることを示したかったのです」とフランスでサステナブルレストランを推進する団体「ecotable」に語っている。

同団体によると、Dans le Noir?は「障害」と「持続可能性」の両方についての意識を高めることを目指している。2017年からは季節メニューには有機野菜と果物を80%使用し、食品廃棄物はリサイクルしているなど、サーキュラーエコノミーを意識したレストラン運営をしている。

持続可能な食材と調理工程とともに、人間の五感のうちの一つである視覚を失う状況を身近な人と共有できる同レストランでの体験は、貴重だった。Roche氏が語るとおり、同レストランの暗闇の中で私たちの少しばかりの不安を取り除くように、目の不自由な従業員のサラさんは大変朗らかに、そして丁寧に私たちを座席に案内し、食事の手助けをしてくださった。これまで訪問したレストランの中で、一番印象に残るレストランだった。

Dans le Noir?の国際パートナーシップ・プログラムでは、この”暗闇”をコンセプトとするレストランを世界各国のホテルに設置することを目指しており、現在、日本のマーケットにも注目している。興味がある方は、問い合わせてみてはいかがだろうか。

【関連記事】ダイアログ・イン・ザ・ダークが作る、分断のない世界。暗闇の中で“見た”ものとは
【参照サイト】Restaurant Dans le Noir ? Paris
【参照サイト】ecotable

Edited by Erika Tomiyama

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