世界の問題解決型グッドデザイン7選【2022年の最注目アイデア】

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新型コロナウイルスや気候変動、サッカーワールドカップを通して浮き彫りとなった人権問題など、2022年も様々な問題に直面した。さらに11月、世界の総人口が80億人を突破したことが国連の「World Population Prospects 2022(世界人口推計2022年版)」で明らかとなった。

多くの問題を抱えながらも人口が増え続けている中で、枯渇していく地球の資源。そんな中でサステナブルな社会の実現を考えるときに注目したいのが、誰しもに関わる「デザイン」だ。私たちの身近には、靴下や洋服、マグカップなどのプロダクトデザインから、UXデザイン、まちづくりまで、誰かが何かしらの目的を達成するためにデザインされたもので溢れている。そして、サステナブルなプロダクトやサービスを生み出そうとするとき、そのものの生み出す環境負荷の80%を決めるのはデザインだと言われている。

世界では、サステナビリティを超えた「リジェネレーション(再生)」といった概念や「サーキュラーエコノミー(循環経済)」を応用したデザインに注目が集まっている。本年度、世界各地で開催されたデザインフェスティバルでも、「再生」や「循環」、「自然」、「ジェンダー」などがテーマとなり、サステナビリティをデザインのストーリーに組み込むことが必須となっていた。

今回は、これまでIDEAS FOR GOODが紹介してきた、デザインの力を使って、環境や社会の問題解決のために働きかける事例やアイデアをご紹介する。

世界のソーシャルグッドなデザインアイデア7選

01. どの命も取りこぼさない「ライフ・センタード・デザイン

人間目線だけでデザインする時代は終わる?どの命も取りこぼさない「ライフ・センタード・デザイン」とは


人々の日常の体験をなるべく良いものにする「人間中心設計」に対し、今世界的に注目され始めているのが「ライフ・センタード・デザイン(すべてのいのち中心設計)」だ。「ライフ・センタード・デザイン」とは、簡単に言うと、デザインの視点を「人間中心」から「すべての生命中心」に広げようとするもの。つまり、特定の商品やサービスのユーザーでない人達、その他の地域住民、生態系、さらには地球環境全体を考慮に入れた設計をする。

ライフ・センタード・デザインは、①終わりなき資源循環を目指す「サーキュラーデザイン」、②豊かさの定義を問う「多元的デザイン」、③人間以外のいのちに学ぶ「バイオミミクリー・デザイン」などの3つの要素を持つ。私たちの生活を彩る数多くの商品やサービスの裏側には、数えきれないデザインと数えきれない「いのち」との関わりがある。日々の中で見過ごしてしまいがちなことに目を凝らし、さまざまな理由で書かれていないことを探してみたり、聞こえてこないことに耳を澄ましたりしてみる。そんな習慣が私たちの生活を本当に豊かにしてくれるのかもしれない。

02. 近年注目を浴びている、台湾のサーキュラーデザイン

台湾のサーキュラーデザインの今。台湾デザイン研究院・院長に聞く


世界の中でサーキュラーエコノミーの先進地域はどこかと聞かれれば、多くの人がオランダやフランス、英国や北欧などの欧州諸国を思い浮かべるかもしれない。しかし、近年ではインド、ベトナム、インドネシアなど多くのアジア諸国で循環経済への移行に向けた動きが進んでおり、ユニークなサーキュラーデザインの事例も増えてきている。その中でも特に近年注目を浴びているのが、台湾の取り組みだ。もともと資源が限られている台湾では、1988年に廃棄物清理法が改正され、90年代にかけて徐々にリサイクルの取り組みが前進。2002年には天然資源の保全や廃棄物削減、リユース・リサイクルの促進などを目的とする「資源回収再利用法」が制定され、資源循環に向けた基盤が整備されていった。

これまで台湾の経済を支えてきた製造業やハイテク分野の強みを活かしつつ、「デザイン」というソフトパワーを次なる台湾の競争力に据えることで、小さくともレジリエントで持続可能な経済・社会を作り上げている。

03. 「欧米的」じゃない豊かさを教えてくれる、伝統×アパレルブランド「AFRICL」

西アフリカには「欧米的」じゃない豊かさがあった。伝統×アパレルブランド「AFRICL」が語る


「ベナンでも、欧米で流行っている服を着る若者が増えています。しかし、伝統衣裳などの文化は今も廃れず残っていて、私自身もそうした昔ながらの技術の中にある精神的な豊かさを感じてきました。そこから、経済だけでなく、古くから受け継がれてきた豊かな文化を繋ぐ発展の在り方を模索していきたい気持ちになりました」

西アフリカ・ベナンの伝統的な衣服作りの技術であるバティックに注目したアパレルブランド「AFRICL」。AFRICLは、欧米化の流れを受けながらも残る、地域の伝統の「豊かさ」に注目する。国際協力を学び、大学卒業後はNGOなどの組織に関わろうと考えていた代表の沖田さん。経済指標という数値だけでその国を判断せず、現地の暮らしや文化を五感で体感することでベナンという国を多面的に理解する──そんな沖田さんが生み出したデザインが、これからの「豊かさ」とは何かを考えさせてくれる。

  • 国名:日本
  • 団体(企業)名:AFRICL
04. 「女性目線」でデザインされた、ジェンダー平等都市・ウィーン

もし、街が「女性目線」で作られたら?ジェンダー平等都市・ウィーンを歩く


ジェンダー平等都市といわれる、ウィーン。都市におけるジェンダー格差とは具体的に何を意味しているのだろうか。たとえば、移動のパターンだ。男性の移動は、女性に比べ「会社と自宅の往復」という単純なパターンが多いことに対し、女性は、短距離を頻繁に移動し帰宅までに立ち寄る場所も多いことが調査の結果でわかっている。これは、多くの女性が子どもの送迎や買い物などを男性より多く担っていることを意味している。都市機能は単純な移動パターンの多い男性の視点で開発されているため、女性のニーズは住居や公共交通機関などの都市計画へ反映されておらず、そのため女性は移動自体により大きな負担を強いられていると、ジェンダーの研究者であるレスリー・カーンは述べる。

そうした中でウィーンは、文化や伝統によって定義付けられたジェンダーの役割を書き換え、個人の選択によるジェンダーとそれを受け入れる社会都市の形成を目指している。

  • 国名:ウィーン
  • 団体(企業)名:なし
05. “見えない環境負荷”であるデジタルのごみを捨てられるボックス

デジタルのごみ、溜まってない?「見えない環境負荷」を捨てられるボックス


リモートワーク、電子化、DX……紙を使わないことは、環境に良いように見えるが、こうしたデジタル化が実は環境に悪影響を与えていることをご存じだろうか。様々な企業のDXを手掛けるフランスの会社Soixante Circuitsは、デジタルサステナビリティを啓発するごみ箱「IRL Trashcan」を生み出した。スマートフォンでこのごみ箱アイコンの形をしたデバイスにタッチすると、自動的にメールを削除してくれるというものだ。「デジタル空間にある『ごみ』を、私達がいつも『ごみ』を捨てるように捨てよう」というメッセージを込めたプロジェクトだという。

Soixante Circuitsによれば、このデバイスは1分間で600通のメールを削除できる。CO2排出量に換算するとおよそ3gの削減になり、1日に換算すると4,320グラムの削減だ。これは、プラスチックバック432袋を作るときに発生するCO2と同じ量だという。デジタルに関わるCO2排出量を少なくしたり、環境に配慮したデジタルデバイスの使い方をしたりするなど、タップ一つで減らすことができる環境負荷について考えてみてはいかがだろうか。

06. 快楽的なのにサステナブル?鳥と泊まれるツリーハウス「Biosphere」

快楽的なのにサステナブル?鳥と泊まれるツリーハウス「Biosphere」に学ぶ


スウェーデンの北部ノールボッテン県の森の中には「Tree Hotel」と呼ばれる、“木の上”に泊まれるさまざまなデザインのホテルが並んでいる。2022年5月、そんなTree Hotelの8つめとしてオープンしたのが、鳥の巣箱で覆われたホテル「Biosphere(生物圏)」だ。2019年、米国コーネル大学の鳥類学者であるケネス・ローゼンバーグ氏は、1970年と比較して北米の鳥たちが30億羽も減少しているという研究結果を発表した。Biosphereは、そんな鳥たちの個体数減少に歯止めをかけることを目的に設計された、人と鳥が共生する未来を想わせる建築だ。

鳥たちが自由に出入りし、子どもたちと触れ合う。朝、鳥たちの声で目を覚ます──そんな風景を少しでも多くの人が思い描ければ、人と鳥が共生する社会はそう遠くないはずだ。

  • 国名:スウェーデン
  • 団体(企業)名:Biosphere
07. 中国最大のECサイトで「片足だけ」の靴を購入できるように。病気や障害に配慮

中国最大のECサイトで「片足だけ」の靴を購入できるように。病気や障害に配慮


片足を切断するなどで身体的な障がいを持っている人は常に靴を買うのに苦労しており、多くの人が片足だけの靴を欲しているのにもかかわらず、2足分の値段を余計に支払っている。中国では、その数はなんと2,400万人にのぼるという。そんな中、中国最大のECプラットフォームであるTmallでは、毎年11月に開催されるセール期間中に、スケッチャーズ、リーボック、ナイキ・エアジョーダン、CAMEL、eccoなどの国際的なブランドや回力などの中国国内ブランドの靴を一足ずつ購入できるようにしたのだ。

この#TheOneShoeProjectと題されたチャリティープロジェクトは、中国障がい者連合会とHeaven&Hell Chinaと提携して開催された。このプロジェクトのためだけにデザインされた一足のみの販売用ボックスが用意され、プラットフォーム上で左右一足だけ買えるようなシステムが実装された。もちろん、靴の値段は通常の2足セットの半額となっている。「靴は2足売りが当たり前」だと思っている人が多い中で、こうしたマイノリティに大きく負担をかけるマジョリティ重視のサプライチェーンの設計から、まず見直していくべきではないだろうか。

  • 国名:中国
  • 団体(企業)名:Tmall

まとめ

人間だけではない、すべての生命を中心に据えたデザインや、欧米発信ではないアフリカやアジア、そしてこれまでマイノリティとされてきた人々に対するデザイン。今やデザインの対象はどんどん拡張し、さまざまなトレンドが生まれている。

私たちが本当の意味で誰一人取り残さない世界をつくるために、多元的なデザインを考えることが、これからの社会全体を大きく変化させていくうえで必要不可欠だ。人々にインスピレーションを与えることができる世界のアイデアを、これからも発信していく。

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