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ライフセンタード・デザイン(Life-Centered Design)とは・意味

ミツバチの家

ライフセンタード・デザイン(Life-Centered Design)とは?

モノやサービスをデザインする際に、あらゆる生態系や動植物などに与える影響を考慮し、「すべての生命」を中心に設計する概念のこと。

20世紀後半頃から、「デザイン」は物理的な人工物を対象にしたものだけではなく、新しいサービスやプロセス、コミュニケーションの方法にも取り入れられるべきものだという考え方が登場した。2000年代初めには、アメリカのデザインファームIDEOによって、人間の共感に基づく「ヒューマンセンタード・デザイン(人間中心設計)」という概念が提唱され、私たちの暮らしをより便利に変えてきた。

しかし、これまでのデザインは、しばしば人とその他のエコシステム(生態系)を切り離してきた。人間がすべての中心とする考え方は、人間が得られるコトやモノを最大化する一方で、地球全体という大きな存在を見落としがちになることもある。私たち人間が地球に与えてきた環境負荷が見逃せなくなっている今、デザインの力によって、環境や社会の問題の解決を試みるライフセンタード・デザインが注目され、欧州を中心に広がっている。

ライフセンタード・デザインの考え方

ライフセンタード・デザインの考え方は、イギリス出身の作家John Thackaraの「人間だけでなく、すべての生命のためにデザインする」という理論に着想を得たものと言われている。

また、オーストラリアのデザイナーで作家でもあるDamien Lutzによると、ライフセンタード・デザインは以下の3つのステークホルダーによって成り立っているという。

1. すべての人
ターゲットユーザー、ノンユーザー(製品ライフサイクルに関わる組織の個人、コミュニティ、従業員)、それ以外の見えざる人々(ライフサイクルに関わらないが影響を受ける個人とコミュニティ)

2. すべての人間以外の生物
大型動物(両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類)から昆虫、微生物まで、陸・海・空・地中、家畜、飼育下、野生を問わない

3. すべての惑星
植生(木、森、沼地など)、水系(海、湖、川、淡水)、大気、土壌、気候、地形(山、丘など)、太陽光、生態系

Damien Lutzは、この3者は相互依存し、単独では成立しないと考える。また、彼は著書「The Life-Centered Design Guide」の中で、ライフセンタード・デザイン的なアプローチとして、次の11の考え方を挙げている。

Circular design /サーキュラー(循環型)デザイン
Inclusive design / インクルーシブ(多様性尊重)デザイン
Pluriversal design / 多元性のあるデザイン
Systems thinking / システム思考
Distributed design / 分散型デザイン
Sustainable digitial design / サステナブルデジタルデザイン
Behavioural design / 行動的デザイン
Interspecies design / 異種間デザイン
Biomimicry / バイオミミクリー(生物模倣)
Foresight / 未来洞察
Human-centered design / ヒューマンセンタード・デザイン(人間中心設計)

人間中心設計もライフセンタード・デザインの一部として含まれているが、基本的にはこれまでデザイナーは、モノを起点にデザインしてきた。しかし、IDEOのエグゼクティブ・デザインディレクターのJane Fulton Suriは、「これからはモノがシステムの中でどのように共存しているかをもっと考えるべきであり、ライフセンタード・デザインはシステムの中の生命にインスパイアされるものだと思います」と語っている。

ライフセンタード・デザインの取り組み例

ライフセンタード・デザインの事例を4つ挙げる。

Fairphone

故障しても自分でパーツを取り替えられるサーキュラーデザインによるオランダのスマートフォン。紛争地帯で産出される原料を使用しないなどのエシカル・マイニング(倫理的採掘)や、製造工場の労働環境の改善など、「製品がどのように作られるか」ということを重要視している。

Unilever×LOOP

世界的な消費財メーカーであるUnileverはごみを出さない循環型ショッピングプラットフォーム「LOOP」と共同し、廃棄物削減に取り組んでいる。耐久性に優れた再利用できるパッケージをデザインし、中身を詰め替えることで、繰り返し使用できる商品を販売し、“投入・生産・廃棄”(take-make-dispose)の消費スタイルの廃止を目指している。

Cotopaxi

利益最大化を優先するのみでなく、地球環境・従業員・貧困層への配慮を第一優先的に考え、自社の成長と共により良い社会に貢献をするという理念に基づいて設立されたアメリカのアウトドアブランド。製品の94%を残布やリサイクル素材で製作することや、貧困問題解決のために収益の1%を寄付するなどB-corp認証も受けており、ブランド全体でサステナブルな仕組み作りに取り組んでいる。

Eastgate Centre

ジンバブエの首都ハラレにある複合商業施設。1996年にシロアリのアリ塚の構造を空調に応用し建設された。アリ塚の内部は自然の気流を利用して外気温の変動から環境を守るメカニズムができ上がっている。この仕組みを活かし、気流をコントロールすることで燃料ベースの空調システムを不要にし、冷却コストやエネルギー消費量を削減している。

まとめ

私たち人間自身も何百万という小さな微生物の宿主であり、先住民は、何千年にもわたり、自然の中での持続可能な暮らしと、システム思考を実践してきた。

しかし、近代的な革命の後、人間の行動は、「人」にフォーカスするあまり、その副作用として周りの環境、つまり地球に対して、壊滅的なインパクトを与えていることがわかっている。私たち人間は、地球という大きな生態系の一部で、私たちの行動は、その生態系に住む他の人々や動物、自然に影響を及ぼしていることを、改めて認識するマインドセットが必要だ。

【参照サイト】Medium | The Life-centred Design Guide | by Damien Lutz
【参照サイト】UX Collective | Life centred design | Damien Lutz
【参照サイト】Accenture | Fjord-Trends-2020-Report
【参照サイト】HCD-Net | HCD(Human Centered Design)の考え方と基礎知識体系報告書
【参照サイト】Mixed Methods | The Future is Life-Centered – Jane Fulton Suri, IDEO
【参照サイト】ナショナル ジオグラフィック日本版サイト | アリ塚と空調、自然に学ぶエネルギー
【関連記事】人間目線だけでデザインする時代は終わる?どの命も取りこぼさない「ライフ・センタード・デザイン」とは




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