「テクノロジーの力で食糧の問題を解決する」と聞くと、難しく感じて敬遠する人がいるかもしれない。だが、近年は、普通の市民が科学的な視点を持ちながら、食糧問題の解決に貢献する仕組みができつつある。
2016年から2019年にかけて、イギリス・ダンディー大学の研究者が、「GROW Observatory(成長観測所)」という市民参加型の土壌観測プロジェクトを実施した。研究者は、土壌に差し込むY字型の装置を、人々に無料で提供。装置が集める土壌のデータを利用して、世界の食料需要に対応する方法を探ろうとした。
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この取り組みのポイントは、普段からガーデニングを楽しむ人が、自宅の庭を使って食糧問題への関心を高められることだ。プロジェクトの参加者は「市民科学者」とも呼ばれており、日常生活のなかで科学的な問いを見つけ、土壌の調査方法などについて学ぶことができる。
Y字の装置が集めた情報は、市民科学者たちのスマートフォンアプリに送られ、その後データベースに送られる。プロジェクトの参加者は、こうして蓄積された情報にアクセスできるという。庭好きな人の緩やかなネットワークが、食料需要の課題の特定や解決につながっている。
GROW Observatoryの参加者は、ヨーロッパ中から募集された。プロジェクトを管理するデボラ・ロング氏は、GROW Observatoryの意義や掲げる問いについて、BBCのインタビューで次のように語っている。
私たちと協力してデータを集め、共有し、役立ててくれる人を、ヨーロッパ中から募集します。そうすることで、土壌の重要性や適切な土壌管理について、皆が理解を深められるでしょう。
より多くの、より健康に良い食べ物を作るには、どうすれば良いでしょうか。地元で生産された食料を地元で消費するには、どうすれば良いでしょうか。
2023年現在も、希望する人はGROW Observatoryの活動を続けているという。こうした取り組みが世界中に広がれば、市民一人一人が、国や地域ごとの土壌の違いを学びやすくなるのではないだろうか。
【参照サイト】The GROW Observatory – The GROW Observatory
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