新型コロナウイルス感染症の拡大で世界が静まり返っていた2020年には「いつまた旅行ができるのだろう」と、心配していた。しかしその3年後の今、オーバーツーリズムが話題に上がっている。本記事では、観光を消費で終わらせないための、日本でのユニークな取り組みをご紹介する。
嫌われる観光客?
IDEAS FOR GOODでも以前、欧州通信の中でオーバーツーリズムを取り上げた。
▶️コロナ明け、観光客で溢れる欧州。迫られるオーバーツーリズム対策【欧州通信#17】
夏のバカンスシーズンには、コロナ前のように多くの観光客が訪れており、地域住民との軋轢が生じている。筆者が暮らすスペイン・バルセロナも例外ではなく、「TOURIST GO HOME(観光客は、帰れ)」と書かれたグラフィティやステッカーが、街のあちこちで見受けられる。
そんな中、世界では観光税の導入や引き上げを決定する動きが加速している。例えば、ヨーロッパを代表する観光地でもあるイタリア・ヴェネツィアでは2024年から、日帰り客を対象に1日5ユーロ(約790円)の観光税を徴収する計画を発表。
また、悠大な自然が魅力のアイスランドでも、環境保全を名目に観光税を導入すると大統領が言及している。この動きはヨーロッパだけではなく、インドネシア・バリ島でも2024年より一人あたり10ドル(約1,380円)の観光税が導入予定だ。
「住んでよし、訪れてよし」の広島・宮島を目指して
観光客のマナーの悪さや、公共交通機関の混雑など、観光にまつわる課題は多い。一方で、まだ知らない地域を訪れ、歴史や文化を知ることはとても豊かな経験である。地域住民との摩擦をできるだけなくしつつ、観光することはできないのだろうか。
そのヒントになるかもしれないのが、広島県廿日市市の観光地・宮島の事例だ。宮島では、2023年10月1日より、訪問税が導入されることが発表された。宮島に住む人や、宮島で就学・就業する人を除いて、一人あたり100円を徴収する。
また、年間に何度も訪れる人は1年分として500円を納めることも可能だ。これで集まった財源を、環境整備や文化への理解、エコツーリズムの推進などに役立てる。
これは、「千年先も、いつくしむ。」プロジェクトの一部で、先人から受け継がれてきた宮島の普遍的価値や魅力を、広く国内外に向けて発信予定だ。廿日市市は宮島を「住んでよし、訪れてよし」の持続可能な観光地域にすることをめざしている。「宮島に住む人」、「宮島で働く人」、「宮島を訪れる人」、「宮島に思いをはせる人」のすべてに、プロジェクトに参加してもらい、持続可能な観光をつくっていくとしている。
具体的にどのような施策に使われるかは、市のホームページから確認することができる。公共交通機関の維持管理、無電柱化、観光案内やトイレの整備、弥山展望台や登山道の管理など、「訪れる人」のための環境整備。文化財や歴史的建造物の保存、歴史民俗資料館の管理など、「住む人」「訪れる人」両方のための文化継承。そして、すべての人のための自然環境に負荷の少ない観光促進などがあげられている。
「観光税を導入する」という同じ取り組みでも、自分のお金がどのように使われるのかがわかると、少し前向きになれる。ただ観光客を嫌い、避けるというのではなく、旅がもたらしてくれる喜びを感じられる仕組みだ。
観光を消費で終わらせないために
いざ現地に到着しても「消費」するだけで、訪問地について学んだり学ぶ気がなかったり、地域住民へのリスペクトが欠けていたりすると、地元住民から不満が募る。また、観光業界に携わるビジネス側が、「売れるもの」をつくることを意識しすぎると、街の個性が失われていくように思える。
本当の意味でのサステナブルな観光とはどういうものなのだろうか。まだ知らぬ世界を知り、違いを受け入れ、そこから学ぶことが旅の醍醐味ではないだろうか。旅がもともと持っていた“豊かさ”を見直す必要がありそうだ。
【参照サイト】「千年先も、いつくしむ。」プロジェクト
【参照サイト】Venice to start charging visitors entry fee next year
【参照サイト】Iceland will implement visitor tax, prime minister says
【参照サイト】Bali is trying to crack down on bad tourists. Will it help?