廃棄レジ袋がキャラになって登場。海洋ごみ問題が身近になる、本格カードゲームをやってみた

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海辺を歩くと、すっきりした気持ちになる。ざざぁと砂浜に打ち寄せる波の音。水面が話しかけてくるように陽の光を散らして、遠くで鳥が旋回している。小さいころに砂浜脇の岩場で、夢中になってカニを追いかけたのも良い思い出だ。

だからこそ、海辺にペットボトルやお菓子の袋などが落ちているのを見ると、寂しい気持ちになる。現代において、海洋ごみ問題は世界的に深刻だ。ごみが全く落ちていない海岸を見つけることの方が難しいように思われ、海岸がごみで埋め尽くされている地域も少なくない。特に海洋プラスチックについては、2050年にはその重量が魚の重量を上回るという試算もある(※1)

深刻な海洋ごみ問題だが、日常的に海に足を運んでいないと、どうしても遠くの問題と捉えられがちではないだろうか。

この状況を、遊びの力で解決しようとする試みが、一般社団法人日本プロサーフィン連盟が海洋環境保全プロジェクト「ReWave」の活動の一貫で開発したカードゲーム「Recycle Master(リサイクルマスター)」だ。今回は、その体験会に参加してきた筆者が当日の様子をレポートしたい。

リサイクルマスター

Image via 海洋環境保全プロジェクト「ReWave(リウェイブ)」

大人も子どもも楽しめる、海洋ごみカードゲーム

「リサイクルマスター」は、大人も子どもも一緒になって楽しみながら海洋ごみについて学ぶことができるカードゲームだ。海洋ごみを手札のリサイクルカードを使ってプロダクトに変えていき、プロダクトカードに書いてある点数の合計を競うゲームとなっている。

課題解決や行動変容にゲームデザインの技術を取り入れることはゲーミフィケーションと呼ばれるが、リサイクルマスターはまさにこの好事例だ。ルールも簡単で、小学校低学年から楽しめるように設定されており、非常に参加しやすいつくりとなっている。

また、レジ袋、ボトルキャップ、ガラスのビンなど、ひとつひとつの「ごみ」がキャラクターとして描かれており、環境課題をテーマにしたゲームでありながらも堅苦しい雰囲気はない。むしろそこには、お菓子を食べながら遊ぼうよ、と言いたくなるようなわくわく感がある。実際、筆者もイベント開始前に机に並べてあるカードを見ただけで「早くやってみたい!」とうずうずしていた。

リサイクルマスターのルール

リサイクルマスターのルールを簡単に説明しよう。まずカードは「ゴミカード」「リサイクルカード」「プロダクトカード」の3種類がある。ゴミカードにはペットボトルや釣り針など海岸に落ちているごみの種類が、リサイクルカードにはマテリアルリサイクルケミカルリサイクルなどリサイクルの方法が、プロダクトカードにはスチール缶、フリスビーなどリサイクルの結果生まれるプロダクトが描かれている。その他にアップサイクルやビーチクリーンといったスペシャルカードもある。

ゲーム開始時はフィールドに5枚のゴミカードを置く。ゴミカードには「PP ポリプロピレン」や「鉄」といった種族が記載されており、右上にはその種族とごみの特性に合ったリサイクル方法を示すマークが描かれている。

各プレーヤーは手札としてリサイクルカードを5枚持っている。自分のターンになるとゴミカードの山札を1枚引いてフィールドに置く。同じ種族のカードがあればそこに重ねる。次に、フィールドに2枚以上重なっているゴミカードの種族があり、それら対応するリサイクルカードが手札にあれば、そのカードを出すことができる。すると、ゴミカードの枚数に対応したプロダクトカードがもらえるのだ。

ゴミカード、リサイクルカード、プロダクトカードの組み合わせ

Photo by Ryuhei Oishi

例えば、フィールドに種族がPETであるゴミカード「古びたペットボトル」が3枚あり、手札にリサイクルカード「マテリアルリサイクル(プラ)」があれば、そのリサイクルカードを出してプロダクトカード「食器」がもらえる。プロダクトカードにはそれぞれ点数が書かれており、その点数の合計がゲーム終了時に一番高かったプレーヤーが勝者だ。

ちなみに、スペシャルカード「アップサイクル」はリサイクルカードと同じように使えるが、フィールドのゴミカードを組み合わせてプレーヤー自らがオリジナルのアップサイクルプロダクトを考案できる。例えば、「ルアー」と「漁網」で「おさかなコサージュ」ができるかもしれない。そのプロダクトアイデアを同じテーブルのプレーヤーの過半数が承認すれば、なんと5ポイントのプロダクトカードがもらえるのだ。

もう一つのスペシャルカード「ビーチクリーン」は、無条件でフィールドのカードを一掃できる。そして、3ポイントのプロダクトカード「みんなの笑顔」を受け取ることができるのは、なんとも心温まる設定だ。

現実の複雑さが、ゲームの楽しさに

実際に遊んでみると、まずそのゲーム性の高さから参加者全員が夢中になり、非常に盛り上がった。どのリサイクルカードを出すか。ゴミカードが2枚重なったら出すか、3枚たまるまで待つか。そうこうしているうちに「ビーチクリーンカード」が発動してフィールドが一層されてしまった(そのあとに手渡された「みんなの笑顔カード」にプレーヤーたちの悔しい視線が注がれたのも笑いの種だった)。

大人も夢中になるゲーム

Photo by Ryuhei Oishi

このゲームの特徴は、この楽しさの中に、現実の要素が細かく反映されていることだ。例えば、ゴミカードが2枚以上重なっていないとリサイクルカードを出せないルールは、実社会でのリサイクルの際に、同じ材質の資源をある程度の量集めないとリサイクルできないことを反映している。また、「プラスチック」の中でも「PP(ポリプロピレン)」「PE(ポリエチレン)」など種類分けがなされている。

さらに、ペットボトルも「古びたペットボトル」と「まだ新しいペットボトル」に分かれている。前者はマテリアルリサイクル*だが、後者はケミカルリサイクルができる。そしてケミカルリサイクルの結果もらえるプロダクトカードは点数が高く、これもケミカルリサイクルの技術的難易度の高さと良質な資源の安定的な回収困難さを考慮しての設定だ。
*マテリアルリサイクルは廃棄物を処理して新しい製品の原料を作り、再利用するリサイクル手法。一方ケミカルリサイクルは、化学的な処理を通して廃棄物を他の化学物質にまで転換し、再利用するリサイクル手法だ。

こうしてゲームの中に現実のエッセンスが盛り込まれていることにより、ゲームを楽しむ過程で自然と知識がついてくる。例えば、ゲーム内でペットボトルの本体は「PET」、ボトルキャップは「PP」であり、これを念頭にフィールドのゴミカードを重ね、手札のリサイクルカードを選択する。この過程の中で、「ペットボトルはどうしてキャップを外して回収しなければならないのか」という疑問に対して「そうか、素材が違うんだ」と納得することができるのだ。

ペットボトルに関する複数のカード

Photo by Ryuhei Oishi

ゲームの経験が知識を招き入れる

ゲームを体験した後、リサイクルマスターの監修を行う「ごみの学校」運営代表の寺井正幸氏からの講義があった。「ごみの学校」は「ごみを通してわくわくする社会をつくろう。」というミッションを掲げてオンラインコミュニティやイベントを運営する団体だ。

寺井氏は主に日本におけるプラスチック廃棄・リサイクルの現状を解説した。一人当たりのプラスチック廃棄量において日本が世界第2位であり、他の廃棄物と比べてプラスチックは家庭からの廃棄率が高く、現状のリサイクル方法としてはサーマルリサイクルが約7割を占めるのだそうだ。

ここで印象的だったのが、リサイクルマスターで遊んだからこそ、プラスチックリサイクルの複雑性へのハードルが下がり、さらに「もっと知りたい」と純粋に感じられたことだ。例えば、プラスチックのリサイクルが一筋縄ではいかない理由の一つに、その素材の多様性とそれらを混合できないことがある。聞き慣れた「プラスチック」という広義な言葉から一歩踏み込み、より詳細な素材への理解に努めようと思う一方で、いざポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)と聞くと途端にしり込みしてしまう人も多いのではないだろうか。

しかし、リサイクルマスターではこういった素材がゲーム要素のひとつとして出てくる。可愛いキャラクターと共に素材が書いてあり、ゲームを楽しむ過程でそれらが身近なものになっていく。

フィールドに置かれたゴミカード

Photo by Ryuhei Oishi

筆者自身もプラスチックの細かい分類について整理するのは難しいと感じていたが、ゲーム後の寺井氏の講義でPPやPEの話になると、「ゲームで出てきたな」という感覚を持ち、抵抗感がなくなっていた。そして、もっとその素材の特性を知りたい、カードにあったプロダクトのほかにどんな製品に使用されているのか知りたいと、好奇心がかき立てられていた。他の参加者も高い集中力と熱量を持って講義に聞き入っていた。

未来を作る遊び心

海洋ごみ問題が身近に感じられるばかりか、知識の土壌や好奇心までも生み出すリサイクルマスター。環境・社会課題に関するコミュニケーションは啓蒙的になりがちだが、遊びや楽しさを大切にすることで、課題に対してより主体的になることができると感じた。

さらに、課題をテーマにしながらも、初対面の参加者同士が和気あいあいと時間を共にしていたこともポイントだ。海洋ごみ問題が深刻な課題であることは間違いない。しかし、ゲームという切り口でそのネガティブな事象から新たな楽しさを生み出し、それによって課題への認知や知識、行動意欲、クリエイティビティまでもが促されることで解決への糸口となるのなら、とてもポジティブではないだろうか。

そして、もし子ども時代にリサイクルマスターで遊んでいたら、プラスチックの細かな素材を生活で意識することが当然になっていたかもしれない。そんなことも考えた。全世代で楽しめる遊びだからこそ、子どもたちも主体として参加でき、それゆえに未来にも大きな変化が期待できる。明るい未来を作るのは、実は私たちを笑顔にさせる、遊び心なのかもしれない。

※1 World Economic Forum: The New Plastics Economy Rethinking the future of plastics

【参照サイト】ReWave: Recycle Master Project
【参照サイト】ごみの学校
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