社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン、IDEAS FOR GOODの編集部が選ぶ、今月の「ちょっと心が明るくなる世界のグッドニュース」。前回の記事では、「褒めますおじさん」やアシックスがアンバサダーに任命したサモエド犬などを紹介した。
日々飛び交う悲しいニュースや、不安になる情報、ネガティブな感情ばかりを生む議論に疲れたあなたに。世界では同じくらい良いこともたくさん起こっているという事実に少しのあいだ心を癒し、また明日から動き出そうと思える活力になれば幸いだ。
愛に溢れた世界のグッドニュース5選
01. ピカチュウとカビゴンが「睡眠応援大使」に就任
忙しい日々に追われ、つい後回しにしがちな睡眠。特に日本は睡眠が短い国として知られているという。そんな日本社会に対し、あのポケモンたちが睡眠の大切さを教えてくれることになった。ピカチュウと、いつも気持ちよさそうに眠っているカビゴンが、厚生労働省のプロジェクトにおいて「睡眠応援大使」に就任したのだ。これは同省の「スマート・ライフ・プロジェクト (Smart Life Project)」との連携の一環である。
連携の主軸は、ゲーム感覚で楽しみながら睡眠リズムを見直すきっかけを提供してくれる、睡眠をテーマにしたアプリ「Pokémon Sleep」。これは、子どもたちの健やかな成長に欠かせない睡眠習慣への意識を高めるための取り組みである。子どもたちの睡眠不足は、心と体の健康に影響を及ぼす社会課題の一つでもあるのだ。それを世界の人気者が伝えてくれるのは、なんとも心強いニュースだ。今夜はカビゴンをお手本に、少し早めにベッドに入ってみてはどうだろうか。

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【参照サイト】厚生労働省プロジェクトの「睡眠応援大使」に『Pokémon Sleep』の ナイトキャップをかぶったピカチュウ・カビゴンが就任! 宇都宮崇人 COO と共に福岡資磨厚生労働大臣を表敬訪問
02. 楽器の練習を「続けた」高齢者、認知機能がほとんど低下しないと判明
「新しいことを始めるには、もう歳だから……」そんな風に、心のどこかでブレーキをかけてしまうことはないだろうか。しかし、このニュースを読めば、そのブレーキをそっと外したくなるかもしれない。ある研究で70代の参加者が4年間、週に1回グループでの練習を続けたところ、脳の老化を示す指標の一つ「言語的ワーキングメモリ」に関わる部位の機能低下が食い止められていたことがわかった。驚くべきことに、楽器の練習を続けなかったグループでは、年齢相応の老化が進んでいたとのことだ。
この研究は、音楽という創造的で楽しい活動が、私たちの脳を健やかに保つ力を持っていることを示唆している。憧れていたギター、昔少しだけ触ったピアノ。指先から生まれるメロディーが、私たちの脳を、そして心を若々しく保ってくれるのだ。人生100年時代、何かを始めるのに「遅すぎる」ということは、きっとないのだろう。
【参照サイト】楽器練習を4年つづけた高齢者は「脳の老化」が止まっていた
【参照サイト】Never too late to start musical instrument training: Effects on working memory and subcortical preservation in healthy older adults across 4 years
03. 科学者たちが求める、もっと多様な動植物の絵文字
スマホでメッセージを送るとき、文章を彩ってくれるかわいい絵文字。しかし、その顔ぶれをよく見ると、犬や猫、パンダといった脊椎動物が多く、私たちの足元にいる虫たちや、森を支えるキノコたち・菌類の姿はあまり見かけない。そんな現状に、科学者たちが「もっと多様な生き物の絵文字を追加すべきだ」と声をあげた。
彼らの主張は、絵文字が哺乳類に偏ることで、人々の生物多様性に対する認識が歪められてしまう危険性があるというものだ。絵文字は、「Emoji」として世界共通のコミュニケーションツールにもなっている。そこに、これまで十分に光が当たらなかった植物や昆虫、菌類、クモなどの節足動物が加われば、地球に生きる仲間たちの豊かさを、もっと身近に感じられるはずだ。小さなアイコンが、地球環境への大きな気づきをくれる。そんな未来を想像すると、次のアップデートが待ち遠しい。

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【参照サイト】Scientists call for more inclusive nature emojis to boost biodiversity awareness
【参照サイト】Biodiversity communication in the digital era through the Emoji tree of life
04. 赤ちゃんの車内置き去りを防ぐ「スマートカーシート」
夏の暑い日、車内の温度はほんのわずかな時間で危険なレベルに達する。そんな車内に赤ちゃんが置き去りにされるという悲しい事故をなくしたい。その一心で、アメリカ・ルイジアナ州立大学の学生が画期的な発明をした。その名は「スマートカーシート」。このチャイルドシートにはセンサーが内蔵されており、赤ちゃんが座っている状態で、保護者のスマートフォンが車から離れたことを検知すると、自動で保護者が持つ小型機器にBluetoothアラートを送信するのだ。
今後、さらにセンサーの信頼性や消費電力を改善し、市販の自動車シートへの組み込みやすいようデザインを小型化していく予定とのこと。誰かの「うっかり」を責めるのではなく、テクノロジーの力で優しく支え、命を守る。若い世代の柔軟な発想と行動力が、社会の悲しい事故を一つでも減らそうとしている。優しさから生まれたイノベーションが、また一つ、世界を温かくした。
【参照サイト】College students invent ‘smart car seat’ to prevent hot car deaths in infants: ‘Protects vulnerable lives’
【参照サイト】‘An Emotional Journey’: LSU Students Build Device to Protect Children from Hot Car Deaths
05. ヴェルサイユ宮殿の彫像が、AIの力で歴史を語る
美術館や歴史的な庭園にたたずむ、美しい彫像。もしこの像が「ここでどんな景色を見続けてきたのか」を語り始めたら──そんな時間を超えた体験が、現実になるかもしれない。フランスのヴェルサイユ宮殿では、AIの力を借りて、庭園の彫像たちが来場者と「おしゃべり」できる体験が始まった。QRコードをスキャンして、スマートフォンをかざすと、アポロンやネプチューン、さらには大理石のミューズたちが、まるで生きているかのように、自らの物語や宮殿の秘密を語りかけてくれる。
これは、歴史や芸術を、ただ「鑑賞する」ものから「対話する」ものへと変える画期的な試みである。最新テクノロジーが、何百年も前の文化遺産に新しい命を吹き込み、過去との距離をぐっと縮めてくれるのだ。日本で応用するならば、大仏や埴輪が話しかけてくれたらどうだろうか……?時を超えたコミュニケーションの可能性に、胸が躍る。
【参照サイト】Le château de Versailles utilise l’IA pour faire parler ses statues