ブラジルで開催のCOP30。気候変動に関する国際交渉の争点は?

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2025年11月10日から21日まで、第30回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP30)が、「アマゾンの玄関口」とも呼ばれるブラジル・ベレンで開かれる。

COPは、気候変動対策の国際的な方向性を決める最重要会議の一つであり、各国政府や自治体、企業、市民社会、専門家が集い、合意形成と行動の加速を図る場だ。

「地球の肺」と呼ばれるアマゾンの熱帯林は、膨大な二酸化炭素を吸収して気候を安定させる重要な役割を担う。しかし同時に、森林伐採や火災などによって急速な破壊が進んでいるのも事実だ。議長国ブラジルは、アマゾンの保全を目的とした新たな資金スキーム「Tropical Forests Forever Facility(TFFF)」を提案(※1)。ベレンでCOPが開かれることは、気候変動対策における自然生態系保全の重要性を改めて世界に示す象徴的な出来事と言える。

さらに今回のCOP30は、米国が2025年にパリ協定からの再離脱方針を表明して以降、初めての開催となる。京都議定書発効から20年、パリ協定採択から10年という節目の年にあたることからも注目を集めている。国際協調のあり方や、各国の目標達成状況を見直し、実際の行動をどこまで加速できるか。今回のCOPは、「実施フェーズのCOP(Implementation COP)」として、言葉から行動へと移る転換点となるかもしれない。

本記事では、このCOP30において注目されるポイントを見ていきたい。

アマゾン川の干ばつ

アマゾン川の干ばつ /Image via Shutterstock

COP30の主要な5つの争点

NDC3.0の野心の向上と1.5℃目標の維持

2025年は、各国による2035年までの新たな温室効果ガス削減目標、いわゆる「NDC (国が決定した貢献)3.0」を国連に提出する年だ。科学的には、2030年までに世界全体の排出量を2019年比で43%減らす必要があるとされる(※2)。この水準に各国の目標がどこまで近づけるかが最大の焦点だ。

また、2025年7月に国際司法裁判所(ICJ)が示した勧告的意見は、各国に1.5℃目標と整合する行動を取る法的義務があることを明確化した(※3)。COP30では、この意見を踏まえた「最高レベルの野心」をどう具体化できるかが問われる。

気候資金に関する、新規合同数値目標(NCQG)の実行加速

前回のCOP29では、途上国の気候対策を支える新しい資金目標(NCQG:New Collective Quantified Goal)が合意された。そこでは、「少なくとも年3,000億ドル」という下限と、「2035年までに年1.3兆ドル」という中長期の目標が設定された(※4)

COP30では、これをどう実行に移すかが焦点となる。とくに、「どの国が、どの程度の負担を担うのか」「公的資金と民間資金をどう組み合わせるのか」といった具体的な仕組み(デリバリープラン)の設計が課題だ。借金を増やすことへの懸念が強い途上国は、返済不要の資金(グラント)や、条件の緩やかな融資の拡大を求めている。国際金融機関の改革や、債務問題と気候資金を結びつけた支援策の検討も進む見込みだ。

損失と損害(L&D)基金の資本化と制度の整合性

洪水や干ばつ、熱波などの被害が世界各地で拡大している。気候災害による「損失と損害(Loss and Damage)」は、もはや将来の話ではない。

2023年のCOP28で設立が決まったL&D基金は、2025年半ば時点での拠出表明額が約8億ドルにとどまり、年間数千億ドル規模のニーズには大きく届いていない(※5,6)。COP30では、予測可能で十分な資金をどう確保するか、そして技術支援機構や政策支援の仕組みとどう連携させるかが重要な論点となる。

水害で水につかりながら移動する人々

出典元: Mohammed Zonaid8 / Shutterstock.com

適応に関する世界全体の目標(GGA)の指標づくり

気候変動への対応は「排出削減(緩和)」だけではない。すでに起きている影響に備え、被害を軽減する「適応(Adaptation)」も不可欠だ。

COP28では、世界全体の適応目標(GGA:Global Goal on Adaptation)の枠組みが合意された(※7)。COP30では、その進捗をどう測るか──つまり指標や評価方法を世界でどう共有するかが議論の焦点となる。特に、支援する先進国と支援を受ける途上国の間で意見の隔たりがあり、合意形成の行方が注目されている。

公正な移行の具体化と、エネルギー転換における人権・社会公正

脱炭素社会への移行は、単なる技術転換ではなく、人と社会のあり方を変えるプロセスでもある。化石燃料産業に携わる人々の雇用や、エネルギー価格の上昇が地域経済に与える影響など、「移行に伴う痛み」をどう支えるかが問われている。

とくに、電気自動車や再エネ設備に欠かせない移行鉱物(トランジション・ミネラル)の採掘では、先住民族の権利侵害や環境破壊といった課題が指摘されており、気候対策が新たな不公正を生まないためのルールづくりと資金支援の仕組みが求められている(※8)

COP30は、公正で持続可能な未来への分岐点

COP30は、環境問題だけでなく、経済構造・南北格差・人権といった根本的な課題が交差する、国際社会の「未来を決める交渉の場」だ。COP30での合意は、1.5℃目標という地球の未来だけでなく、すべての人にとって公正で持続可能な社会を築けるかどうかを左右する、重要な分岐点となるだろう。

※1 Brazil’s Lula Unveils Tropical Forests Forever Facility Ahead of COP30(Reuters)
※2 The Evidence Is Clear: The Time for Action Is Now. We Can Halve Emissions by 2030. | UNFCCC
※3 Obligations of States in respect of Climate Change
※4 COP29 UN Climate Conference Agrees to Triple Finance to Developing Countries, Protecting Lives and Livelihoods(UNFCCC, 2024)
※5 Loss and Damage – COP29 Updates(CGIAR, 2025)
※6 Supporting country-owned efforts in responding to climate-induced loss and damage.
※7 COP28 Agreement Signals “Beginning of the End” of the Fossil Fuel Era | UNFCCC
※8 Guidelines for a Just Transition towards Environmentally Sustainable Economies and Societies for All(ILO, 2015)

【参照サイト】COP30: The UN Climate Change Conference
【参照サイト】4 Questions that Will Shape COP30 for Vulnerable Countries(World Resources Institute)
【参照サイト】COP 30(UNFCCC)
【参照サイト】COP30 気候変動適応特集!(気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)
【参照サイト】Frequently Asked Questions (FAQ) – COP30(COP30 Brasil 2025)
【参照サイト】From Climate Week to COP30: Rewiring the energy transition from the ground up(Business & Human Rights Resource Centre)
【参照サイト】Just Transition and Human Rights: Key Issues for COP30 | HRC60 Side Event(Geneva Environment Network)
【参照サイト】Regional paths, global stakes: looking ahead to COP30 in a fragmented world(London Business School)
【参照サイト】Tropical Forests Forever Facility (TFFF) proposes innovative financing model for conservation(COP30)
【参照サイト】What Is the State of Play of Climate Commitments Heading into COP30?(IPI Global Observatory)
【参照サイト】What is COP30 and why does it matter for the climate?(Chatham House – International Affairs Think Tank)
【参照サイト】Provisional agenda and annotations (Note by the Executive Secretary)(Framework Convention on Climate Change)

【関連ページ】COP29や米大統領選で見えた「分断」をどう捉える?2025年に向けた“視点”を語るポッドキャスト配信中
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