欧州のサーキュラーエコノミーは順調に前へ進んでいる──そう思っている人は多いだろう。
厳しい環境規制、先進的な企業の取り組み、そして高い市民意識。だが、その表層の下では「循環を支える基盤」がきしみ始めていた。リサイクル工場の操業停止が相次ぎ、再生材を必要とするメーカーとの間には深い溝が生まれつつある。
循環を前に進めようとするほど、その循環が回らなくなるという矛盾。欧州はいま、そんな構造的な危機に直面している。
リサイクル現場で進む「静かな閉鎖」
非営利組織Plastics Recyclers Europe(PRE)は、欧州のプラスチックリサイクル産業が直面する危機を「閉鎖の波」という形で可視化している。PREが2025年に公表した分析によれば、プラスチックリサイクル施設の閉鎖件数は前年比で約50%増加しており、このままでは今後3年で最大約100万トンのリサイクル能力が失われる可能性があるという(※1)。
業界メディアもこの状況を「深刻化する危機」と表現し、欧州のプラスチックリサイクル産業では売上高の減少と投資停滞が同時に進んでいると報じている(※2)。

リサイクルプラントでリサイクル工程の途中の樹脂。金属や他の資源が混じっている。(筆者撮影)
これは「循環の理想」を掲げたこと自体の失敗ではない。問題は、理想を掲げながら、市場が回る条件──需要、価格、検証、公平な競争条件──を制度と同時に成立させることの難しさにある。
バージンプラスチック価格が下落局面に入れば、再生材は価格競争で不利になりやすい。加えて、エネルギー費や人件費、設備投資コストの上昇が操業を圧迫。さらに、域外から流入する安価な再生材の中には、品質や由来が十分に検証されないものもあり、結果として域内で高品質材を生産する事業者ほど不利になりやすい市場構造が生まれているのだ。
危機を読み解くための「三つの歯車」
この危機を理解するうえで鍵になるのは、プラスチック循環が単一の市場ではなく、三つの用途領域の相互作用で成立しているという点だ。
欧州の用途別プラスチック需要を見ると、包装分野が約39%を占める最大市場であり、次いで建設(約23%)、自動車(約8%)、電気電子(約6%)が続く(※3)。
今回の「リサイクラー危機」は、すでに回収と再投入が進んでいる包装・電気電子・自動車といった短サイクル用途で顕在化している点に特徴がある。それぞれ、プラスチックリサイクルを阻む異なる障壁が存在する。
- 包装:循環全体の基盤を支えるため、量を動かす必要がある
- 電気電子廃棄物:難燃剤など有害物質を含み、品質・物質管理の難易度が高い
- 自動車:設計・認証・トレーサビリティの制度設計が他用途に波及する
いま起きているのは、それぞれの歯車が個別に壊れているというより、歯車同士の噛み合わせが崩れ、循環全体が逆回転を始めた状態に近い。主要な分野について一つ一つの現状を見ていきたい。
包装分野:先行したがゆえに露呈した課題
包装分野は、量的にも制度的にも欧州のプラスチック循環を最も先導してきた。
2024年には PPWR(Packaging and Packaging Waste Regulation)が正式に採択され、再生材含有率の義務化、リユース目標、デジタル・プロダクト・パスポート(DPP)の導入が段階的に進められている。
制度設計だけを見れば、包装は循環経済の優等生に見える。しかし現場では、義務が先行する一方で、検証・執行・価格調整の仕組みが十分に整わなかったとの指摘が根強い。
安価だが品質や由来が不透明な再生材が市場に流通すれば、真面目に投資して高品質材を生産する事業者ほど不利になる。包装分野は、循環を推進する制度が整うほど、循環を支える産業基盤の脆弱さが可視化されるという難しさを最初に突きつけた領域でもある。
電気電子廃棄物:“安全に回す”が循環全体を左右する
WEEE領域は、量としては包装ほど大きくない一方で、難燃剤などの「レガシー添加剤」を含む樹脂が混ざりやすく、リサイクルしても用途制約が強いという難所を抱える。EUのWEEE指令は回収・処理の枠組みを定め、適正処理(分別・除去)を制度として求めてきた。
さらに、残留化学物質の規制(POPs規則)により、一定の有害物質を含む再生材は用途が制約され、場合によっては「回す」よりも「止める/除去する」判断が必要になる局面も生まれる。
この領域のポイントは、WEEEが「量」よりも「安全」の要件で循環の難易度を上げ、その分だけ検証(コンプライアンス)・分別(工程設計)・用途設計(どこへ回すか)の重要性を押し上げることだ。結果として、包装や自動車の高品質要求(匂い・色・物性・規格適合など)ともぶつかりやすく、三分野の噛み合わせを品質側から左右しうる。

廃棄されたプリント基盤などの山(筆者撮影)
自動車:「同じ失敗を繰り返さない」ための制度設計
包装分野の経験は、現在の自動車分野の議論に強い影響を与えている。EUは2023年、約20年ぶりとなる使用済自動車(ELV)規制の抜本改正案を提示し、2025年12月12日、欧州議会と理事会はその大枠で暫定合意に達した(※4)。
合意案では、新車に使用されるプラスチックについて、規則発効から6年後に15%、10年後に25%を再生材由来とすることが義務づけられる。このうち20%分は使用済自動車由来のクローズドループ材で達成する必要がある。加えて、自動車版デジタル製品パスポート(サーキュラリティ・ビークル・パスポート)、EU全域のEPR制度、部品再使用・回収ルールの強化も盛り込まれた。
一方で、環境団体や一部専門メディアからは、当初案より目標値や実施時期が後退した点を批判する声も上がっている(※5)。
需要と透明性。循環市場を成立させる条件は?
規制で再生プラスチック利用を義務づけても、市場で再生材が経済的に成り立たなければ循環は進まない。現在の欧州では、エネルギーや人件費の高騰も相まってバージン材に対する再生材の価格競争力が低下し、循環システムの根幹である需要が細っている。また、品質や由来が不透明な安価な再生材が出回る状況では、企業に責任ある調達を促すインセンティブも働きにくい。
PREは域内の再生材需要を復活させ「閉鎖の波」を食い止めるため、域外から流入する低価格・未認証の再生資源への対策(貿易・市場防衛措置)やルールの一貫性確保、第三者認証の厳格な執行と不適合品への制裁強化が急務だと訴えている。
こうした「需要」と「信頼性」の両輪を強化する具体策として、近年存在感を増しているのがRecyClassなどの認証スキームだ。RecyClassは欧州プラスチックリサイクル業界が主導する自主認証制度で、リサイクル工程や再生プラスチックのトレーサビリティを第三者が検証するものだ。2022年から本格運用が始まり、わずか3年で欧州全域のリサイクル設備能力の60%がこのプロセス認証下に入った(※6)。
同認証は、運用各社にとってリサイクル工程を証明する業界標準的な存在になりつつある。実際2024年時点で、HDPE/PPストリームの58%、自動車・WEEE由来樹脂の62%、LDPEの70%、PETの75%がRecyClassのプロセス認証を受けており、高い透明性に裏打ちされた品質証明によって、バリューチェーン全体に高品質な再生材を供給する仕組みが広がっている。規制で求められる再生材利用率の達成に向けても、デザイン改善やトレーサビリティ強化に取り組むための共通プラットフォームとして、こうした認証スキームの役割は今後さらに大きくなるだろう。
他方で拡大生産者責任(EPR)制度の果たす役割も再評価されている。従来から包装や電子機器に関しては、各国の回収システムで運用がされてきたものの、費用負担やルールの違いからリサイクル市場への十分な投資誘因とはなっていない面があった。
新たな自動車規制では施行3年後からメーカーに使用済車両の回収・処理費用を負担させるEU全域のEPR制度が導入される。これはメーカーに「循環しなければ損をする」コスト構造を突きつけるものであり、製品設計段階から循環を織り込むインセンティブとして期待されている。
欧州のプラスチック循環を前に進めるには、包装・電気電子・自動車という三つの歯車を同時に再調整する必要がある。量の主戦場である包装領域に健全な需要と収益性を育み、品質ハードルの高い電気電子領域で高度なリサイクルを実現し、レバレッジ効果の大きい自動車領域で設計・追跡・責任の新たな基盤を築くことが求められる。これらを切り離して考えるのではなく、循環を成立させる市場そのものをどう設計し直すかが、いま最も問われている。

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編集後記
再生材を使うべきか、循環を進めるべきか。
その問いに対する答えは、欧州ではすでに出ている。「Yes」である。
それでも循環が思うように回らないのは、循環そのものが否定されているからではない。循環を成立させる市場の条件──需要、価格、検証、公平な競争──を、制度と同時にどう組み込むかが極めて難しいからだ。再生材含有率の義務化、回収責任の強化、トレーサビリティの導入はいずれも不可欠であり、方向性としては正しい。しかし、「どのタイミングで規制をかけるか」「誰が移行コストを引き受けるのか」「価格差をどう埋めるのか」といった市場設計は、時間軸や産業構造、市況変動と密接に絡む。設計を誤れば、善意の制度であっても循環は進むほど歪む。包装分野で顕在化したのは、この設計上の難しさである。
いま自動車分野で慎重な議論が続くのも、同じ課題を繰り返さないためだ。量としては包装に及ばなくとも、自動車は設計要件、認証、トレーサビリティの設計次第で、他用途の循環にも影響を及ぼしやすい「レバレッジの大きい領域」である。だからこそ、クローズドループをどこまで求めるのか、用途分散をどう位置づけるのか、証明をいかに市場の中に組み込むのかが、環境論ではなく市場設計の問題として問われている。
※1 PRE — 2024 Data Reveals a Deepening Crisis of the European Plastics Recycling Industry
※2 ‘Deepening crisis’ for plastic recycling industry with turnover down 5.5%
※3 Plastics – the fast Facts 2023
※4 Circular economy: deal on new EU rules for the automotive sector
※5 EU’s new vehicle regulation misses the turn toward a circular automotive sector
※6 RecyClass certifies over half of Europe’s plastic recycling capacity
【参照サイト】Wave of Surging Plastic Recycling Plant Closures Hits Europe
【参照サイト】European Commission – Packaging waste
【参照サイト】EUR-Lex – WEEE Directive 2012/19/EU
【参照サイト】EUR-Lex – POPs Regulation (EU) 2019/1021
【参照サイト】EUR-Lex – Corrigendum to Regulation (EU) 2022/2400
【参照サイト】Auto Recycling World – 批判的論考(2025)
【関連ページ】“新品同様”の部品が再び走る。欧州2社、「再製造」で循環型モビリティを推進
【関連ページ】「修理」や「使い捨てプラ」実際どう変わった?サーキュラーエコノミー法規制のリアル【欧州通信#23】
Edited by Megumi






