「サステナブル」「循環型経済」「再生可能エネルギー」「社会的責任投資」「ESG」「SDGs」……。
その登壇者は、スピーチが始まると、サステナブルをテーマにしたイベントでよく“言われるであろう言葉”を並べ立てた。
「こうしたイベントで耳にするのは、決まってこのような言葉です。これらの言葉は、私たちを安心させ、親しみやすく、心地よく響きます。(中略)しかし、この物語には問題がある。それは不具合でも、一時的なミスでもなく、『詐欺』なのです。その詐欺の名は、グリーン・キャピタリズム(緑の資本主義)です」
世界最大級のソーシャルイノベーション・サステナビリティの祭典「ChangeNOW」のステージに立つのは、ローザンヌ大学生態経済学研究員であるTimothée Parrique(ティモシー・パリック)氏だ。ティモシー氏が並べた言葉は、サステナブルをテーマにしたイベントで聞くには、あまりにも違和感を感じない言葉たちだった。しかし彼は、こうした言葉たちの背景にある、経済を成長させ続けながら環境負荷だけを下げるという「グリーン成長」に対し、イベント開始数分で異議申し立てをしたのだ。
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本記事では、彼が語った言葉を紐解きながら、IDEAS FOR GOODがこれまで追い続けてきた「脱成長」の文脈を交えつつ、社会のしくみを変えるためのヒントとして読み解いていく。

セッションは満席で立ち見の人々も多くみられた。
環境破壊は「バグ」ではない。システムの「正当な出力」である
私たちが目にする気候危機や生物多様性の喪失は、システムの故障ではない。むしろ、現在の資本主義が「あまりにもルールに忠実に機能しすぎている」結果なのだ。ティモシー氏が提示したデータは、富の偏りと環境破壊が表裏一体であることを示していた。
- 上位20%の富裕層が、世界中の全金属の72%を使用している。
- 上位20%の富裕層が、世界の炭素排出量の63%を引き起こしている。
- 上位20%の富裕層が、生物多様性の損失の55%に責任がある。
- 上位38カ国が、惑星の限界(プラネタリー・バウンダリー)の超過分の44%を占めている。
ティモシー氏は、表面的な「ESG投資」や「CSR活動」に終始する企業へ警鐘を鳴らしながら、構造そのものの解体を求めているのである。

Image via Change NOW
「営利ビジネスである限り、あなたは根本的に環境転換を導くには不適格です」
ビジネスの世界に身を置く私たちにとって、これほど耳の痛い言葉はないかもしれない。過去30年間、私たちは「グリーン成長」という希望を抱いてきた。しかし、GDP(国内総生産)を守ることと、地球を守ることは、今や両立し得ない矛盾を孕んでいる。ティモシー氏はこれを「ダイエットをしながら体重を増やそうとするようなものだ」と例える。
「資本主義の下では、営利ビジネスは利益を上げ続けなければなりません。この『利益か死か』という姿勢が、私たちが直面している混乱の99%を説明します。自然を保護することは、本当は不可能なことではありません。ただ、資本主義の中では『不採算』であり、ゆえに『不可能』とされているだけなのです」
利益は企業の金庫に収まり私有化される一方で、環境破壊や気候変動といった損失の責任は社会全体に分散される。つまり、一部の人が豊かになるための代償を、地球上の全員で支払っている状態である。この不誠実な設計図を持ち続けたまま、言葉だけを「エシカル」や「グリーン」に書き換えても、それは解決にはならないのだ。
言葉が変われば、世界の見え方が変わる。ポスト資本主義を語るための「新しい言葉」
では、私たちはどうすれば、この心地よい停滞とも言える状況から目覚めることができるのだろうか。
ティモシー氏はここで「言葉」について触れる。言語学には「サピア=ウォーフの仮説」という概念がある。私たちが使う言語が、その人の物事の捉え方や世界観を形作るという考え方である。
「あなたが見る世界は、あなたが持っている言葉によって決まるのです。そして、今私たちが持っている言葉では、資本主義を超えた世界を想像することができません。もし、私たちの辞書に『成長』や『利益』という言葉しか載っていなければ、それ以外の方法で社会を豊かにする術を、思考の選択肢から無意識に排除してしまいます」
そうして彼が提示した、私たちが緊急に必要としている、資本主義の代替案となる具体的なキーワード。ここでは、その8つの言葉たちを紹介したい。
1. ポストグロース(脱成長・ポスト成長)
単にGDPを減らすことではなく、経済成長を最優先する中毒状態から脱却し、環境負荷を最小限に抑えながら、人々のウェルビーイングを最大化する社会への計画的な移行を指す。ティモシー氏は、脱成長の研究者たちが20年かけて「生活の質を落とさずに減速する方法」を確立してきたと述べている。「これはもはや、ビットコインや石油株よりも価値のある知恵なのです」とも。
2. 非営利協同組合(Not-for-profit Cooperatives)
「利益か死か」という二択を迫られる営利企業とは異なり、働く人々や地域住民が出資し、経営に参加する組織形態。ここでは「いかに儲けるか」よりも「民主的なガバナンスとニーズの充足」が優先される。ティモシー氏は、「あらゆる営利企業は、明日からでも非営利協同組合になれる」と、構造転換の可能性を説く。
3. パーマカルチャー
「永続的な農業」を意味するこの概念は、食を中心に据え、地球を毒することなく、自然のリズムを尊重しながら人々を養う仕組み。単なる農法ではなく、人間と自然が互恵的に関わるためのシステムデザインと言える。
4. ポストワーク(労働の解放)
生産至上主義から自分たち自身を解放し、友人や家族との時間、あるいは「ケア活動」といった、本当に価値のある活動に時間を充てるという考え方。「誰かを金持ちにするための時間」を減らし、自律的な生を取り戻すことを目指す。
5. リミタリアニズム(限界主義)
今回のスピーチで最も強調された概念の一つが、富の上限と下限を設けること。ティモシー氏は、富の際限ない蓄積を許さず、同時に人間の尊厳を下回る貧困を許さないこのルールを、「幼稚園での基本ルールと同じくらい当たり前のこと」だと表現した。私的資本が成長に執着するメンタリティに対抗し、「公共の富(コモンズ)」を守るための新しい物語の土台である。
6. コンヴィヴィアリティ(自律共生)
哲学者イヴァン・イリイチが提唱した概念で、人間が道具やシステムに支配されるのではなく、人間が自律的に道具を使いこなし、他者や自然と共に生きるあり方を指す。無限の効率化ではなく、自分たちの「適正な規模」を知る知恵である。
7. Low-tech(有用なテクノロジー)
一握りの企業がスマートフォンのカメラの数を競うような「自然酷使型テクノロジー」ではなく、真に有用で、誰もがアクセスでき、持続可能なテクノロジーを選択すること。最先端であることよりも、長持ちし、修理可能で、地域社会に貢献することを重視する。
8. ウェルビーイング・エコノミー(福祉経済)
GDPを指標から引退させ、社会的有用性や生態的な持続可能性を具体的なパフォーマンス指標に据える経済モデル。少数者の利益よりも、多数者の必要性を優先する社会への転換を意味する。
「言葉」を使って、私たちはどんな世界を築いてくのか?
ティモシー氏のスピーチの締めくくりは、ビジネス界への挑戦的な問いかけだった。
「これから皆さんが『成長』や『利益』、『GDP』といった言葉を耳にするたび、まるで文章のスペルミスに赤い下線が引かれるように、『本当にそれでいいのだろうか』と小さな違和感が浮かぶ瞬間を想像してみてください。
もしかして:脱成長、協同組合、コンヴィヴィアリティ、ウェルビーイング?
これが未来の経済言語です。それはすでに存在し、すでに機能しています。問題は、それが可能かどうかではありません。あなたがその言葉を話す意志があるか、そして何より、それに基づいて行動する意志があるかどうかです。
私は今日、あなたに言葉を授けに来ました。その言葉を使って、あなたたちはどんな世界を築くのでしょうか」
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