「今日は放課後、図書館でみんなで勉強しよう!」──そんな会話は、実はどの地域でも聞こえてくるわけではない。日本のすべての市区町村に図書館があるわけではないからだ。図書館は市(区)の99.1%に設置されている一方で、町では64.9%、村になるとわずか29%と、都市部と地方の間で差がある(※1)。
一方で、図書館1館あたりの平均資料費予算は2005年以降、少しずつ減ってきており(※2)、限られた予算の中でさまざまな市民ニーズに応える図書館の運営は、年々厳しさを増している(※3, 4)。できるだけ運営費を抑え、地域に根ざして運営を続けられる図書館とは、どんなものだろうか。
インドネシアに、その手がかりをくれる取り組みがある。電気もエアコンもほとんど使用しない図書館・マイクロライブラリーだ。

Photo by Andreaswidi, via SHAU

Photo by Andreaswidi, via SHAU
名前の通り、マイクロライブラリーはとても小さな図書館。最も小さいものだと10平方メートルほど。この取り組みは、2012年からインドネシアとオランダに拠点を持つ建築設計事務所・SHAUが主導しており、自治体の予算や企業のCSR、財団からの支援などが主な財源だ。2025年6月現在、国内8か所を開設し、1か所が建設中。2045年までに100か所のマイクロライブラリー開設を目指している。
その特徴は、エネルギー使用量を抑えた建築デザインと、多機能性だ。たとえば2016年にバンドン市に建てられた初期のプロトタイプ「Bima」では、約2,000個の使用済みアイスクリーム容器を再利用して、光を通す半透明の壁が作られた。和らいだ日光が室内を灯すことで、昼間は照明なしでも十分な明るさを保てる。また一部の容器には穴が開いており、熱や湿気を外に逃すことができるという。

アイスクリーム容器を壁面に使用した「Bima」|Photo by Sanrok Studio, via SHAU

「Bima」は夜になると街を照らす光にもなる|Photo by Sanrok Studio, via SHAU
ほかにも、滑り台と都市農園が併設された「Hanging Gardens」や、長い軒先とダイヤ型の木枠で日光の眩しさと暑さを抑えた「Warak Kayu」など、自然の力を活かして快適な環境をつくるパッシブデザインを取り入れたさまざまなスタイルの図書館が各地に建設されてきた。これらは運営費を抑え、財源の少ない地域でも図書館を持ち続ける方法のヒントとなるかもしれない。

同社として初めてすべて木製で建てられた「Warak Kayu」|Photo by KIE, via SHAU

2階へ続く階段は子どもたちが本を読む椅子にも|Photo by KIE, via SHAU

ダイヤモンド型の格子が直射日光を和らげつつ取り込むので日中は電気を使用しなくても問題ないという|Photo by KIE, via SHAU
マイクロライブラリーの目的は、決して裕福ではない地域にも、図書館という全ての人にひらいたサービスを提供すること。インドネシアでは経済成長が著しく進む一方で、教育設備が不足し、図書館も十分に行き渡っていないという。マイクロライブラリーは、そのデザインとコンパクトさで、より多様な地域の子どもたちが知識や物語に触れる身近な空間を増やそうとしているのだ。
広大な図書館でなくても、小さな心地よい読書空間が増えれば、子どもたちに学びや物語との出会いを届けることができる。そんな町の仕掛けは、地方の教育を支える方法の一つになるかもしれない。
※1 社会教育調査|令和3年度 統計表 図書館調査
※2 図書館関係参考資料|出版文化産業振興財団
※3 「横浜市立図書館のあり方懇談会報告書」(平成19年8月)3効率的な管理運営|横浜市
※4 「公共施設の意味を改めて考えてほしい」。図書館情報学教授に聞く図書館の意義|日本財団ジャーナル
【参照サイト】Microlibrary
【参照サイト】Indonesia’s stunning microlibraries draw young readers – in pictures|The Guardian
【参照サイト】SHAU forms an elevated ‘microlibrary’ from prefabricated timber in indonesia|designboom
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