ビジネスイベントで「経済成長」を疑う。パリで考えた、新しい豊かさの定義【ChangeNOW 2026 レポート】

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本コラムは、2026年4月7日にIDEAS FOR GOODのニュースレターで配信されました。ニュースレター(無料)にご登録いただくと、最新のコラムや特集記事をいち早くご覧いただけます。▶️ニュースレターの詳細・登録はこちらから!

パリの街に春の訪れを告げる風とともに、今年も世界最大級のポジティブ・インパクト・サミット「ChangeNOW」が開催された。IDEAS FOR GOOD編集部として通年で参加しているこのサミット。現地に足を運んだ筆者が、そこで感じた決定的な「風向きの変化」を記録したい。

Image via ChangeNOW

ChangeNOWはこれまで、多様なステークホルダーが参画していることもあり、良くも悪くも「ビジネス寄り」でバランスの取れたイベントという印象があった。スタートアップのピッチや大企業の脱炭素への取り組みが主役であり、経済成長を前提とした「改善」が議論の軸だったからだ。

しかし2026年、その空気には明らかな変化が生じていた。

最大の変化は、議論の本質が「システムの調整」から「システムの移行」へと明確にシフトしたことだ。それを象徴するように、会場では「脱成長(Degrowth)」や「ポスト成長(Post Growth)」という言葉がメイントピックとして躍り出ていた。

2025年のプログラムを振り返ると、それ以前に引き続き、企業や自治体の脱炭素や、ステークホルダーを巻き込むコミュニケーションといったテーマが中心で、脱成長を真っ正面から扱うセッションはほぼ見られなかった。ところが2026年は、全60ほどのセッションのうち、5つのセッションが「脱成長」や「GDPを超えて」というテーマを大々的に掲げていたのである。

なかでも、経済学者ケイト・ラワース氏による「サーカスショー」は鮮烈だった。ドーナツ経済学を提唱する彼女のステージは、まさにエンターテインメントそのもの。バナナ型の電話を手に取り、奇妙な帽子をかぶり、ビートボックスが鳴り響く中で「母なる自然」が舞台を闊歩する。観客を巻き込みながら、既存の金融システムと自然が激突する「バイオスフィア(生物圏)のための戦い」が演じられた。

Image via ChangeNOW

その狙いは、私たちが慣れ親しんだ経済のあり方を一度解体し、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)の枠内で機能する、全く新しい経済の形を私たちの想像力の中にありありと描き出すことにあったのだ。

また、トランジション・タウン運動を率いてきたロブ・ホプキンス氏は、宇宙服のような衣装に身を包んで舞台に登場した。彼は「未来から来たタイムトラベラー」という前提で、ポスト成長を成し遂げた未来のトットネス(英国のローカリゼーションの先進地域)の映像とともに、現代の私たちにこう投げかけた。

ポスト成長という言葉は、学術的な文書の中にしか存在しません。私の仕事は、その世界に対する「憧れ」、すなわち、それを未来として実現したいという欲望を育むことです。都市を女性や子供たちのニーズに合わせて再設計し、ウェルビーイングを暮らしの真ん中に据える。人々の心の中に「未来の記憶」を作り出すことこそが、新しい世界を動かす力になるのです。

彼らのセッションは、AIなどのホットトピックを差し置いて、立ち見が出るほどの熱気に包まれていた。これは、もはや脱成長が一部の過激な思想ではなく、ビジネスの最前線にいる人々にとっても「無視できない、切実な問い」になったことを示しているだろう。

この背景には、ヨーロッパが直面しているウクライナ戦争やイラン攻撃による資源の限界、そしてエネルギー安全保障への強い危機感がある。IDEAS FOR GOODのコラムでもこれまで扱ってきた「十分政策(Sufficiency Policy)」や「適応」という概念は、ここではもはや共通言語として語られていた。これは決して遠い異国の話ではなく、日本もまた直面せざるを得ない共通の課題だ。

ChangeNOW 2026が示したのは、もはや「良いことをして稼ぐ」という段階を超え、「成長を前提としない社会で、いかに新しい豊かさの『最適解』を探るか」という、より深い探求の始まりだった。

パリで語られた「脱成長」の衝撃。私たちがこれまで信じてきた「豊かさ」の輪郭が、今、大きく塗り替えられようとしている。

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