Allbirds、パタゴニア、Ecociaそれぞれが歩む道。サステナビリティを「企業の構造」で守ることは可能か?

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サステナブルな靴の代名詞だったAllbirds(オールバーズ)が、AI企業に生まれ変わる──2026年4月に飛び込んできたこのニュースは、世界のサステナビリティ業界に衝撃を与えた。

「環境に良い企業」を選んで購入すること、働くこと。それがサステナビリティの推進に向けたアクションとして広まりつつある中、そもそも「環境に良い企業」の存在自体が、資本主義の構造によって崩れ去る現実を突きつけられたからだ。

今回のコラムでは、Allbirdsの事例を起点に、パタゴニアやEcosiaといった先行事例と比較しながら、これからの「組織」と「働くこと」のあり方について考えていく。

サステナブルの旗手「Allbirds」を飲み込んだ資本の論理

Allbirdsは、2016年にサンフランシスコで誕生し、TIME誌が“世界一快適なシューズ”と称したことで一躍有名となったシューズメーカー。社会環境に配慮した公益性の高い企業の認証・B Corpの取得企業であり、公共利益を重視する公益法人(Public Benefit Corporation: PBC)という組織形態を採用しており、「環境に良い企業」のDNAが組み込まれたかのように見えた。

しかし、ポスト成長研究者のジェニファー・ウィルキンソン氏が指摘するように、同社が歩んだ道は「資本市場の動向にミッションが左右される」という残酷な真実を浮き彫りにした(※)

2021年の上場後、Allbirdsは株価が約97%も下落するという苦境に立たされていた。そして2026年3月末、シューズ事業はAmerican Exchange Groupに売却され再建が進められることに。上場企業という「箱」としてのAllbirdsは「Newbird AI」へ名を変え、AIインフラ事業へと舵を切ったのだ。AI分野への転換を機に、同社は公益法人としての組織形態も手放す可能性があるという。

つまり公益法人(PBC)という「ミッションやビジョンを軸とした」仕組みだけで、株主への利益配分よりも社会や環境に資することを優先し続けることの限界が垣間見えたのかもしれない。

ミッションを「ロック」するために必要な、資本の流れ

Allbirdsとの比較として、ジェニファー氏は米アウトドア用品大手のパタゴニアを挙げた。パタゴニアもまた環境理念を掲げているが、Allbirdsとの違いは組織の所有と、利益構造にある。

創業者のイヴォン・シュイナード氏は非上場を貫き、2022年には保有する全株式を信託(Patagonia Purpose Trust)と、NPO団体(Hold Fast Collective)に譲渡。これにより、企業の利益は永続的に環境保護に充てられることになった。

ジェニファー氏は、LinkedInの投稿でこう語る──「パタゴニアは、外部からの成長資金への依存を最小限に抑え、非上場企業としての経営を維持しました。2022年の再編により、ミッションを所有権と配当の流れに直接組み込んだのです。これにより、ミッションの逸脱の可能性が大幅に低減されました」(※)

企業が健全に持続する上で欠かせない資本という土台。それを「誰が所有・管理」し、営利企業としての「利益が何に流れ出ていくのか」。この2つの側面に、ミッションが反映されるかどうかは長期的にどんな組織であるかを大きく形作るのだ。

その点では、検索エンジンの利用を通じて植林を行うEcosia(エコジア)のモデルも示唆に富む。クリスチャン・クロル氏は、2018年に自身の株をパーパス財団に売却し「株式は利益目的で売却したり、社外の者が所有したりできない」かつ「会社から利益を引き出すことはできない」ことを法的に確実にした。これにより、同氏そして元共同オーナーのティム氏は、投資資金の返還を受ける権利を事実上放棄したことになる。

Ecosia is a not-for-profit business. We don’t pay out dividends and cannot be bought. That way, we’re able to use 100% of our profits for the planet.
Ecosiaは「非営利企業」です。私たちは配当金を支払わず、買収されることもありません。そうすることで、利益の100%を地球のために使うことができるのです。

──Financial Report|Ecosia

植樹に貢献できる検索エンジン「Ecosia」日本語版リリースへ。CEOが語る、日本独自の進出背景とAI戦略

パタゴニアやEcosiaは、企業が投機の対象とならず自己決定権を維持し、利益が目的を達成するための手段として機能することが「法的に」約束されているる組織形態、スチュワード・オーナーシップ(Steward-ownership)の一つとされる。企業以外の仕組みでは、組合員の意見が集まって組織や利益のあり方を定める協同組合にも近しい姿勢だろう。

このように組織の所有・利益構造は、そのミッションを「ロック」できるかどうかを左右する。環境問題は現代経済との摩擦も孕むからこそ、この組織形態という側面にも、さらに注目していくことが重要ではないだろうか。

私たちが立っている組織基盤には、どんな「見えない構造」があるだろうか|Image via Shutterstock

現代の「働くこと」と「ガバナンス」の交差点

企業の所有構造は、一見すると経営者や投資家の問題に見える。しかし、それは働く人々にとっても「何のために自らの時間を差し出すか」という問いに直結している。ひいては、現世代の「何のためにどう働きたいか」という声は将来世代の“当たり前”を形作ることにも繋がるだろう。

毎年5月1日は、メーデー(May Day)だ。労働者の祭典と呼ばれ、賃上げや労働環境改善を訴えるデモの印象も強いが、1886年の5月1日は、アメリカ・シカゴで12〜14時間もの労働に就いていた人々が「8時間労働」の実現を訴えてストライキを起こした象徴的な日である。今やそれが当たり前になり、多くの労働者がその成果を享受している。

では、今を生きる世代として、未来にどんな企業の所有・利益のあり方を残していきたいだろうか。たとえその構造をすぐに変える力がなくとも、労働時間に異議を唱えた先例のように、議論し声をあげることは可能なはずだ。

Image via Shutterstock

誰かが「自然環境のために」と情熱を注いでいる勤務先が、ある日突然まったく違う企業に姿を変えたり、利益至上主義のグループに買収されたりしてしまえば、その人にとって、そこで働く意味は損なわれるだろう。転職も可能だが、転職先で同じことが起きないとは限らない。

「働くこと」の意義を守るためには、労働時間や柔軟な働き方だけでなく「自分たちがどのような構造の組織にエネルギーを与えているのか」というガバナンスへの視点が不可欠になるはずだ。

自らの「働く」に主権を取り戻せるか

Allbirdsが辿った道は、一見すると「志あるビジネス」の敗北のように見えるかもしれない。しかし、それは決して失敗でも無駄な試行錯誤でもなかったはず。彼らが環境負荷を抑えた製品を世に送り出し、業界としての知見や前例を塗り替えたことは消えないだろう。私たちは今、そのバトンの先にある次のフェーズへと進もうとしている。

その移行期に、パタゴニアやEcosiaが示すのは、自分たちの手で「器の形」そのものを設計できるという可能性だ。企業の所有権や利益構造に目を向けることは、実は自分たちの志や事業をの特性を築く資本を、誰にも奪われないための地盤作りなのである。

たとえ資本の波が激しくとも、私たちが「何のために、誰と、どんな仕組みの中で働きたいか」を問い続け、声を上げ続ける限り、新しい組織のあり方は生まれてくる。声を上げない限りは、その芽も出てこないだろう。

ミッションに鍵をかける、頑丈な所有と利益の土台。それを選び取り、共につくり、守っていくこと。一人ひとりが「働くこと」の主権を取り戻していくそのプロセスが、荒波の中でも揺らがない確かな希望になるはずだ。

Allbirds: the Shoe, the Shell and Sustainable Investing|Jennifer Wilkins|LinkedIn

【参照サイト】Allbirds: the Shoe, the Shell and Sustainable Investing|Jennifer Wilkins|LinkedIn
【参照サイト】Allbirds, Inc. Executes $50M Convertible Financing Facility Agreement; Announces Expansion into AI Compute Infrastructure|Allbirds
【参照サイト】靴メーカーのオールバーズ、株価が9倍に──突如「AI企業」への事業転換を発表|Forbes
【参照サイト】オールバーズの「876%」株価急騰を見て、AIクラウドへの事業転換を試みる模倣者が出現するかも|BUSINESS INSIDER
【参照サイト】Trees not profits: we’re giving up our right to ever sell Ecosia|Ecosia
【参照サイト】More than planting trees: How Ecosia anchors its mission sustainably in the company and what role the community plays|B Lab Germany
【参照サイト】Ecosia|steward-owned
【参照サイト】Steward-Ownership|Purpose Economy
【参照サイト】Steward-ownership models|We Are Stewards
【参照サイト】パブリック・ベネフィット・コーポレーション|三菱UFJリサーチ&コンサルティング
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