【2022年最新版】Agritech(アグリテック)に取り組む企業・事例まとめ
農業の分野に新たな風を吹かせるAgritech(アグリテック)。業界の市場調査を行うResearchAndMarketsによると、世界のアグリテックの市場規模は、2019-2025年のあいだにCAGR(年平均成長率)18%を超えると予測されている。いま、世界でも注目される分野の一つだ。
Agritech(アグリテック)とは?
アグリテックは、農業(Agriculture)とテクノロジー(Technology)をかけあわせた造語。人手不足やサプライチェーンの不透明さなど、従来の農業における課題を、ドローンやビックデータ、IoT(モノのインターネット)、ブロックチェーンなどの最新テクノロジーで解決する。日本では、農林水産省が推し進める「スマート農業」がアグリテックと同じ位置づけだ。
ここでは、テクノロジーを活用した「農業の効率化」、従来のように広大な土地を必要としない「都市型農業」、そしてサプライチェーン透明化による「生産者(農業従事者)の働き方改善」の三つの分野で世界のアグリテック活用事例を見ていこう。
世界のAgritech(アグリテック)事例
農業の効率化×テクノロジー
農業人材が不足するなか、人の手では難しいことをテクノロジーに担ってもらうアイデアを集めた。
01. 機械学習でレタスを識別し、収穫する「Vegebot」
いまだに多くの野菜は手で収穫されている。たとえばイギリスで栽培される一般的なレタス、アイスバーグレタスは傷が付きやすく、機械での収穫がとても難しく手作業で収穫せざるを得ない。
英ケンブリッジ大学の研究チームが、機械学習を使ってレタスを収穫するロボット「Vegebot」を開発した。状態が良く、収穫するタイミングを迎えたレタスのみを識別し、傷をつけずに収穫。また、ロボットは24時間稼働しており、同じ畑を何度も行き来している。これにより、レタスが成長しきったちょうど良いタイミングで収穫することができるようになっている。
- 国名:イギリス
- 団体(企業)名:ケンブリッジ大学 飯田教授の研究チーム
02. いちごの収穫作業を自動化するAIロボット
スペインの会社Agrobotが開発した、自動でいちごを収穫するロボット。いちごの収穫は基本的に同じことをくり返す単純作業なので、こういう場面でこそロボットの強みが発揮される。画像処理装置のGPUがいちごの成熟具合を細かく判断し、一つひとつ丁寧に収穫してくれる。
- 国名:スペイン
- 団体(企業)名:Agrobot
03. ドローンでマングローブを自動植林
NASAの元エンジニアが設立したスタートアップ「BioCarbon Engineering」のドローンは、ミャンマーで1日に10万本の植林を行う。人々は浮いた時間で生育中の若木の世話に集中できる。
植林にあたり、ドローンはまず該当エリアの上空を飛行して地形や地質に関するデータを収集する。次にアルゴリズムを活用してそのデータを解析し、植林に最も適した場所と最良の種を選択する。そして、地面を低空飛行しながら自動的に地図をたどり、発育しやすいように設計された種子ポッドを発射する。
- 国名:ミャンマー
- 団体(企業)名:BioCarbon Engineering
04. 穀物や作物の状態を管理するスマホアプリ
ドイツのフラウンホーファー研究機構で開発されたスマホアプリ「HawkSpex®mobile」は、穀物や作物をスキャンするだけで、栄養素が十分に供給されているかどうかや、追加肥料が必要かどうかなどについて知ることができる。
通常は、食品をスキャンして残留農薬や塗料などの物に付着する成分や有害物質を発見できるものだが、農業の分野にも十分活かすことができる。
- 国名:ドイツ
- 団体(企業)名:フラウンホーファー研究機構
都市型農業×テクノロジー
地方の広大な土地でしか農業はできない、というこれまでの価値観にとらわれることなく、垂直農法やアクアポニックス、アグリテクチャーなどを通して都市で食物を生産する。
05. 水に浮かぶ酪農場「Floating Farm」
ロッテルダムに生まれた水上農場。LEDライトを利用して牛の餌となる牧草を栽培したり、水上の農場らしくミルクやヨーグルトを農場の下層部に溜まる水を利用して冷却したりする。都市に農場を置くことで、フードマイル(食品輸送に伴うCO2排出)を減らし、食品の安全性も向上。
- 国名:オランダ
- 団体(企業):Beladon
06. アクアポニックスで循環型農業ができる図書館
ハノイのVAC図書館は、ただ本を読めるだけでなく、循環型農業について学ぶことができるという変わった図書館だ。施設の目玉となっているのは「アクアポニックス」というシステム。これは、魚を飼育する「水産養殖(『アクア』カルチュア)」と、土ではなく水で植物を栽培する「水耕栽培(ハイドロ『ポニックス』)」の2つを掛け合わせた農業方法である。
- 国名:ベトナム
- 団体(企業)名:Farming Architects
07. 農業とオフィスが共存する高層ビル
農業と建築を組み合わせた「アグリテクチャー(Agriculture+Architecture)」の好例。スウェーデン南部のリンシェーピングに建設される全長60mの高層ビルだ。建物内だけで年間500トンもの食料を生産できるだけでなく、施設内でエネルギーを循環させているのも特徴的だ。
農作物の生産に使用されるエネルギーの50%以上はオフィスエリアの床下暖房として、そしてオフィスエリアで排出されるCO2は野菜の生産にそれぞれ再利用される。そして植物が生み出す新鮮な酸素がオフィスに戻るという仕組みだ。
- 国名:スウェーデン
- 団体(企業)名:Plantagon
08. 太陽エネルギー活用。砂漠でトマトを育てる「Sundrop農場」
南オーストラリアの広大な砂漠でトマトを栽培する取り組み。砂漠の広がるこの地域において、唯一の水源は「海水」。プロジェクトでは、鏡を反射させた効率的な太陽光発電を行い、そのエネルギーで海水を熱することで新鮮な水へと変換している。脱塩された水と食物のための栄養素が供給され、トマトが耕作される。
昨今では気候変動による砂漠化や干ばつなどの影響もあり、農業に適した環境が整っている地域はますます少なくなってきている。これからは、砂漠のような農業に適した環境でなくても、テクノロジーの活用によって大規模かつ継続的に農業ができる。
- 国名:オーストラリア
- 団体(企業)名:Sundrop Farms
09. 垂直農業で砂漠の中でも野菜を育てる「Badia農場」
ドバイに誕生した、ペルシア湾岸地域6か国初の商業垂直農場「Badia農場」。最新の水栽培技術と垂直農業の技術により、日光や土、および化学薬品や殺虫剤を使わずに、栄養価の高いレタス、マイクログリーン、他にも多種類のベビーリーフを栽培している。
垂直農業とは、高さのある建築物の階層や、傾斜面をつかって農業をすることだ。従来の農業のように広い土地がいらず、都市や砂漠の屋内でも食物を生産できる。
- 国名:アラブ首長国連邦
- 団体(企業)名:UAE気候変動環境省
生産者の働き方改善×テクノロジー
ここでは、農家の貧困に取り組むインドネシアのソーシャルスタートアップ4社を紹介する。
10. 農家と小売を直接つなぐプラットフォーム
インドネシアの豊かな稲作、そして決して豊かではない農家の現状に挑むスタートアップLimakilo(リマキロ)。農家と小売店を直接つなぐデジタルプラットフォームを採用することにより、従来必要だった仲介人をなくし、手数料の搾取や、生産地や生産過程のあいまい化を防ぐことができる。
してそんなLimakiloを買収したのが、Wagrung Pintar(ワルン ピンター)。彼らは、インドネシアの「ワルン」という形態の小売店をユニット化し、組み立て式にした店舗を運営している企業だ。バイクタクシーの運転手の仕事に必要となる無料Wi-Fiや充電スタンドを完備し、運転手の休み場ともなっている。
- 国名:インドネシア
- 団体(企業)名:Warung Pintar、Limakilo
11. 生産者にピアツーピアの融資ができる
インドネシアの農業従事者に向けた新興プラットフォーム「TaniHub」。生産者の顔を公開し、小売まで仲介者を必要としないため透明度の高いサプライチェーンを作ることができる。食の安全や、中間搾取による生産者の経済難に取り組んでいる。
そんなTaniHubとパートナーシップを結んだのが「Modalku」だ。これはピアツーピア(P2P)出資プラットフォームで、融資の対象はインドネシア国内の中小零細事業者。TaniHubと連携することで、農業従事者への融資事業を拡大するという。日本からでも融資できる。
- 国名:インドネシア
- 団体(企業)名:TaniHub、Modalku
まとめ:日本の動向は?
日本のアグリテックへの取り組みについては、農林水産省が推し進めている「スマート農業」のページを参照すると良い。現時点でのポイントをいくつか抜粋する。
- 2022年度までにスマート農業を実装、相談体制を整える。そのために、農業版ICT人材バンクの構築や・全農業大学校でのスマート農業カリキュラム化をはかる
- 水田の水管理自動制御システム発売。自動化技術とデータサイエンスにより、2023年までに農業従事者の米の生産コストを現状比4割削減
- リモコン式自走草刈り機の市販化と自動運転アシスト機能付コンバイン発売
これからますます発展していくであろうアグリテック。経済的な持続可能性についてはまだ十分な検証がされていないが、農業人材の不足や、現在の輸入に頼った食料生産を改善する見込みがある。引き続き動向を追いたい。