人々は、可視化されていない事柄に対して意識を持つのは難しい。例えば環境に配慮して家の中での水の使用を減らそうと思っても、自分がいつどこでどれぐらい水を消費しているのかが分からなければ、具体的な行動にはつながりにくい。月に1度届く水道料金の請求書を眺めるだけでは、なかなか水の使用量は減らないだろう。
この問題に対して、デザインとテクノロジーを掛け合わせることで人々の意識を変えようとしている会社がある。それが、長年の水不足に悩まされているカリフォルニアに本拠を持つデザイン会社のMatterと、エンジニアリング会社のMindtribeだ。両社が共同で開発したのは、自宅での水の使用量をモニタリングし、そのデータをリアルタイムで住人に知らせることができるスマートホームシステム「Well」だ。
Well のシステムでは、まず家庭内の水道に取り付けられた複数のセンサーが水の消費量を計測し、そのデータがサーバー経由で携帯電話のアプリに送される。ユーザーはアプリを開けば、一目で家庭の水消費量を把握できる。
アプリの表示もユニークだ。最初は水タンクがいっぱいになっているところから始まり、水を消費するに従ってアプリのタンクから水が流れ出ていく仕様になっている。水の消費が少ないうちは綺麗な山々の風景が画面に写しだされるが、たくさん使いすぎると一変して砂漠の風景になる。このようにわかりやすく視覚に訴えてくるデザインであるため、ユーザーはいつどれぐらい水を消費したのか意識しやすい。
デザイン会社とエンジニアリング会社が共同で開発していることからもわかるように、Well は「可視化」に焦点を当ててテクノロジーとデザインを融合させた効果的なシステムになっている。ディスプレイデザインなどをめぐって2社は妥協を繰り返すこともあったが、それでも互いに手を取り合ってきたのは、「良いデザインはユーザーの行動をより良く変える」という想いが両者にあるからだ。
かっこいいデザインに思わず惹きつけられたり、綺麗なものを見るだけで少しテンションが上がったりした経験は誰にでもあると思う。水の消費量にしても、単に数値が表示されるよりは印象的なデザインと共になっているほうがユーザーも注目するのではないだろうか。情報を伝達するだけではなく、エコに対する人々のモチベーションをどう高めるか、ということまで考え抜かれたシステムだ。
【参照サイト】Well™: A Smart Home Water Conservation System
(※画像:Mind tribeより引用)