空気中に含まれる二酸化炭素や窒素酸化物などの汚染物質は世界各地で悪影響を及ぼしている。WHOによると都市居住者の90% が毎日汚染された空気を吸っており、大気汚染が原因で亡くなる人は年間700万人にも及ぶという。この対策として都市に緑を増やそうとしても、限られた空間の中で十分な効果を期待できるだけの植林を行うのはかなり難しい。
2015 年に設立されたドイツのスタートアップ企業Green City Solutionsは、都市に暮らす世界中の人々がよりクリーンな空気を吸って健康的に過ごせる世の中にしたいという想いのもと、植物が本来持つ力とIoT 技術を組み合わせた、街中のエアーフィルターCity Treeを開発した。
City Treeに使われている苔は、空気中の二酸化炭素や窒素酸化物を酸素に変えると同時に、周囲の温度を下げる効果がある。この苔は空気を綺麗にするのにピッタリではあるのだが、適切な水分補給や日当たりの調整が欠かせないため、これだけでは街中で計画的に苔を育てるのは困難だ。そこで、City Treeは全自動で水や栄養を与えるシステムを導入し、また周辺環境の情報をデータ化して分析するIoT 技術も取り入れている。これにより、気候の変化に左右されることなく苔が活発に育つようになっている。
また、City Treeはスペースの有効活用の点でも優れている。City Treeの床面積はベンチの部分を含めてもわずか3.5m2であり、これひとつで275 本もの木を植えているのと同じ効果があるのだ。作動させるのに必要なエネルギーは搭載されている太陽光パネルでまかなっているため、管理がしやすく環境への負荷も少ない。
一般的に、進歩した科学技術は環境への負担が大きいと思われがちだ。そこで昔ながらの緑を取り戻そうと地道に木を植えたりするわけだが、City Treeを見るとそういった発想がとても凡庸なものに思えてくる。科学技術の助けを借りることで、自然それ自体が持つパワーの何倍もの力を生み出すことができるのだ。科学は必ずしも自然と敵対しないということがよくわかる事例だ。
【参照サイト】City Tree