人は好奇心に満ちている。だからこそ新しいものや珍しいものに惹かれるし、知らない場所や人がいればそれを見てみたいとも思う。そういった外に向う興味というのは、人生をエキサイティングなものにしてくれるし、重要なスパイスにもなってくれる。しかし、そればかりでは飽きてしまうのもまた人間の性である。そんなときにふと振り返る場所というのが、自分の故郷であったり、慣れ親しんで長く住み着いた今いる街であったりする。
普段は目にも留めないような、ありふれた日常の中に存在する街や環境が、実はとても素晴らしい場所であるということに人々が気づいて欲しい。そんな想いから始まったのが「Raubdruckerin」というベルリン発のデザインプロジェクトだ。
プロジェクトRaubdruckerinは、マンホールの蓋やグリッド、テクニカルオブジェクトや都市景観など、街のストリート上に彫り込まれたグラフィックの模様をTシャツやパーカーなどの洋服、バッグなどに直接プリントしアパレル製品を作っている。
このアイデアは、発起人のエマーフランス氏と画家であるその父が、2006年にポルトガルで思いついたもので、初めは父と娘の二人きりでスタートした。その後、地元ベルリンへ戻ったエマーフランス氏は自身の故郷で再発見したマンホールの蓋のデザインにインスパイアされ、Raubdruckerinの活動を本格的にスタートした。
Raubdruckerinの全作品は、公共スペースのストリート上で手作業によって印刷されており、本拠地であるベルリンの他にもアムステルダム、リスボン、パリなどの都市で定期的にこの活動を行っている。
さらにプロジェクトRaubdruckerinは、地元の街の素晴らしさを再認識する機会を提供するだけではなく、製品づくりのすべてのプロセスにおいてサステナビリティが重視されている。作品を生成する印刷機は、印刷プレートやスクリーンを使用せず資源や材料の消費を最小限に抑えられるように工夫されており、インクはガソリンを含まない水ベースで作られた環境に優しいものだけを使用している。
また、プリントを施す全ての製品は、有機繊維GOTSの国際認証を受けたオーガニックコットンやリサイクルポリエステルで作られたパーカーを採用しており、フェアトレードで作られた製品を取り扱っている。
これらの商品はオンライン上で購入が可能で、ウェブページで表示されている商品が在庫の全てで、現在は品薄の状態が続いているという。
一見、重要ではないような見過ごされた街の部分を再発見し、歴史、多様性、創造性に満ちたその街の未知の部分を明らかにするというこのプロジェクトは、今日本でも注目されている地方創生に通じるものを感じる。日常のルーティンや現実に光を当て、そこに価値を見出しアートと結びつけたRaubdruckerinは、世の中にとってポジティブなインパクトを与えてくれる素晴らしいプロジェクトといえるのではないだろうか。
【参照サイト】Raubdruckerin
(※画像:raubdruckerinより引用)