2020年にオリンピック、そしてパラリンピックの舞台となる東京。2016年にNHKが行った調査によると、東京オリンピックに関心がある人は8割を超えている一方、パラリンピックは6割強と差がある。そんな中、パラスポーツとファッションいう異質な組み合わせにより、パラアスリートたちの新たな魅力を知ることができるフリーマガジン『GO Journal』の記念すべき第一号が、11月22日創刊された。
当日は、「『GO Journal』創刊記念アスリート写真展」オープニング記者発表会があり、今回の企画のクリエイティブ・ディレクターを務めた写真家蜷川実花をはじめ、モデルとなったパラアスリートの辻選手(陸上)や高橋選手(ボッチャ)などが登場した。写真展は、11月27日まで銀座の蔦屋書店にて無料開催され、マガジンも無料配布される。
『GO Journal』は、パラスポーツとパラアスリートたちの新たな魅力を伝える写真集だ。そこから、パラスポーツ観戦のバリアとなっている「障害者はかわいそう」だとか「パラスポーツってよくわからない」といった先入観をなくし、「みんな違ってみんないい」社会を目指そうとしている。
オープニング記者発表会では、蜷川氏と辻選手が撮影秘話や『GO Journal』に対する熱い思いを語った。
パラアスリートたちの魅力をファッション×蜷川ワールドで多くの人に届ける
自慢したいフリーマガジン
蜷川:少しでも多くの方、そしてあまり興味がない人にも、「なんだろう、これ」という違和感から手に取って見てもらえるように、「立派なフリーマガジン」にすることを大事にしました。重さがずっしりとしてずっと残しておきたいものにするため、A3という大きな紙を使用したのもポイントです。
辻:形に残っていろんな方に手に取ってもらえるのがうれしいです。
リオでのナンパから始まった!?
蜷川:リオパラリンピックの開会式を見に行った時に、リオデジャネイロの空港で辻選手に初めてお会いしました。すごく可愛らしい外見だけでなく、華やかさの中に内側からの力強さを感じました。初対面だったのですが、どうしてもこの人を撮ってみたいという写真家の欲が走ってしまい、声をかけ、二回目にお会いするときには撮影の日でした。撮影をとおして、辻さんの内面的な美しさがにじみでて、人間性に惹かれるほど、印象に残る撮影でした。
辻:最初は声をかけられてびっくりし、撮影に関してもどう表情を作るのかと不安でした。でも、撮影現場はナチュラルな雰囲気で、ありのままの自分を撮ってもらいました。
難易度の高い服を着こなす
蜷川:今回、辻さんには難易度の高い衣装を着てもらいました。これらは、内面がないと着れない服なのに、どれもうまく着こなしてましたね。最初は義手をどう出すかなど考えていたのですが、最後は片手があるかないかは関係なくなるほどの自然に撮れた良い撮影でした。
辻:普段着ない洋服を着たり、競技場でも撮影する中で、普段と異なった景色が見えました。競技トラックの青がこんなにお洋服の赤に映えるんだと新しい発見がありました。
「ただ片手がないだけで、何でもできるんです」
辻:普段は義手はつけてません。私は生まれてからずっとこの状態で髪を縛ったり靴ひもを結んだりしているのですが、この状態だからできるんです。嘘の手をつけても何も変わらないし、私は私だし、ありのままの自分を受け入れてもらった方が良いので変える気もないです。
蜷川:何気ないときに辻さんが、「私、ただ片手がないだけなんですよ」って言われたのが衝撃的でした。でも心地よい衝撃で、もっと多くの人に共有していきたいと思ったので、このような形でフリーマガジンにできてよかったなと思います。
アスリートの「かっこいい」魅了を撮る
辻:お気に入りは、表紙の写真です。これは、蜷川さんから指示があって、目の前に金メダルがあるのを想像して睨んでと言われた時の表現です。ファッションと、競技中の私、そして蜷川さんの世界観のすべてが混ざり合っている写真だと思います。
蜷川:良い撮影は信頼関係で成り立っています。結局、良いものといっても撮影される人の中にあるものしか写らないので、私は信頼関係のある中でちょっとしたタイミングで撮るだけです。アスリートたちはやっぱり「かっこいい」んですよね。自分と戦ってきた圧倒的なパワーがにじみ出ているんだと思います。
新しい組み合わせが生む化学反応
蜷川:パラスポーツとファッションという異物を掛け合わせることは、力量が問われるので難しく大きな挑戦でした。でも、新しいからこそ多くの人に見てもらい、意識が変わるきっかけになってもらえたらいいなと思います。
辻:『GO Journal』を見て、パラスポーツやパラアスリートのイメージがガラッと変わったと言ってくれる人が多かったです。健常者と障害者という区別のない共生する社会につなげていけたらいいなと思います。
編集後記
『GO Journal』の第一印象は、良い意味で障害者とかパラスポーツというキーワードが見当たらないほど、蜷川実花の華やかで力強い世界観とマッチするかっこいいファッションマガジンだった。蜷川氏のトークの中で印象的だったのが、「撮影をしているうちに、最後は障害があるかないかは関係なく、ただかっこよかった」という言葉だ。レンズの前にあるのは、障害ではなく、一人ひとりが持っている個性だけなのだ。パラアスリートたちの別の一面を知り、かっこいいマガジンをより多くの人に見てもらうことで、少しずつパラリンピックやパラアスリートへの理解が深まっていくだろう。
【参照サイト】GO Journal
【参照サイト】文研世論調査で探る東京2020への期待と意識
(画像:大谷 宗平(ナカサアンドパートナーズ)/ Nagisa Mizuno)