日本でも世界でも、ファッションには時代に合わせた多様性がある。スニーカーを合わせたシンプルな服装や、海外セレブ風の体型を強調した服装、さらにはフリル付きの可愛らしい服装など、好みも人によってさまざまだ。しかしそんな服を「お手本」として店頭で着るマネキンたちの体型はいつも同じだということを疑問に思ったことはないだろうか。
疑問というよりも、不満と言った方がいいかもしれない。「マネキン体型」という言葉は、すなわち頭が小さくて背が高く、手足ともにスラっとした体型を意味する。マネキンにはよく似合っていた服が、自分の体型には合わないというのはよくあることだ。
さらに言えば、ぴんと姿勢よく立った姿が、誰にでも当てはまるわけではないこともポイントである。たとえば車椅子使用者や、生まれつき手足の短い人、腰の曲がったお年寄りには適応しておらず、少し太った体型のマネキンすら見つからない状況で、潜在的にそういう人たちがほとんどのデザインのプロセスからは外れていることがわかる。
そんなファッション業界に新たな風を吹き込むのが、フランスのロボット技術に特化したファッションデザイン会社のEuvekaである。Euvekaは、顧客の要望に合わせて30秒ほどで体型を変えられるロボットマネキン「エミネオ(EMINÉO)」を開発した。
マネキンの体型はヨーロッパサイズの36から46(7号から17号)まで調節できることに加え、ウエストや胸囲、太ももなどのサイズもそれぞれ変えられるため、たとえばウエストが細いのにお尻だけが大きい人や、妊娠中の女性など多様な体型に対応できる。
このマネキンは人を選ばないため、服飾デザイナーや製造業者が、医療患者やプロのスポーツチーム、さらに兵士の体型に最適な衣服のデザインをする際にも役立つ。たとえば車いす使用者の体型や、高齢者の姿勢にもフィットした衣服の製作という可能性が広がるだろう。
エミネオは今年3月に企業や教育機関向けに発売される予定だ。価格は安くはない。ひとつのマネキンを1ヶ月3,000ユーロでリースしたり、96,000ユーロで直接購入することになるため、最初の契約パートナーがシャネルやルイヴィトンといった大手のファッション業者であることには納得がいく。
当たり前だが、世の中にはさまざまな体型の人がおり、同じ人でも時間が経つにつれて体型や姿勢は変わっていく。マネキンが着ているような服を着ることを、はじめから諦めざるを得ない人も多い。今回の事例のように、多様な人の状況に寄り添ったデザインがファッション業界の新たなスタンダードを作っていくことを願う。
【参照サイト】Euveka