自分が1日に何歩ほど歩くのか、把握している人はどれくらいいるだろうか。知らないというあなたは、スマートフォンに万歩計アプリをダウンロードしてみると、その結果に驚くかもしれない。私たちは、想像するよりもはるかに「歩いていない」ことに気が付くのだ。
公共交通網の発達と、自動車文化の普及により、私たちはどんどん「歩かない生活」を選択するようになってきた。そのことが、世界でも都市部での混雑や渋滞を生み、排気ガスによる大気汚染を引き起こし、私たち自身の健康状態をも損ねている。
そんな問題に対処するべく、イラク出身建築家の故ザハ・ハディット氏が立ち上げたZaha Hadid Architects建築事務所が動き出した。彼らが提唱するのは、世界に名だたる大都市ロンドンの歩行者天国エリアを増やし、人々がもっと歩きやすく健康に生活できる街に変えてしまおう、という都市計画だ。
Zaha Hadid Architectsはまず、ロンドン市内における、人々の移動の分析から始めた。どのエリアに住宅が、そしてどのエリアにオフィスが集中しているのか、その間を人々はどの交通手段で移動しているのか、所要時間はどれくらいか、主要ルートはどこか、これらのデータを分析し、「歩行者天国化」によって恩恵を受けるエリアを割り出した。
まずはオックスフォード通りなどロンドンの中でも大通りの歩行者専用化だ。次に、大通りに隣接した道の歩行者専用化、最終的には、ロンドン市内の各歩道をつないで「歩行者専用エリア」化を目指す。これにはコヴェント・ガーデンなど、商店や娯楽施設が立ち並ぶ、にぎやかなエリアが含まれる。
同計画では、このプロジェクトが人々の健康や街に与えうる好影響についても指摘している。歩くことそのものが心と身体の健康につながるだけではなく、人々の移動方法やルートそのものが変化することで、今まであまりスポットが当たっていなかった地区が活発化するという。
たとえば人々がそこに引っ越してきたり、新たなビジネスやコミュニティが生まれたらどうだろうか。市民たちは、さらに多様な選択肢の中から住む場所や働く場所を選べるようになる。人口が密集する中心部で暮らすストレスに悩まされることなく、より豊かなライフスタイルを享受できるようになるのだ。
870万人を越えるロンドン市民たちの移動手段を、根底から変えてしまおうという大計画は、一見非現実的なものに見えるかもしれない。だが、これほどにも壮大なスケールだからこそ意味があるのだと、建設チームは語っている。
「街の一区画だけを歩行者専用化するといった、小さな取り組みではあまり意味がないのです。渋滞や汚染問題の解決、治安や公共衛生環境の向上、といった重大なテーマに取り組むにはね。ロンドンの交通インフラに”歩く”という選択肢を組み込むためには、街全体を巻き込んだ、抜本的な改革が必要なのです。」プロジェクトの公式サイトには、こう綴られている。
本プロジェクトに対し、ロンドン市はまだ公式声明を発表していないが、世界の都市総合力ランキング1位の大都市が 、都市の生活環境改善に向けてどう動き出すのか、今後の展開に期待したい。
自分の身体にも、環境にも優しい、「歩く」という選択。あなたも、今日はいつもより少し早く家を出て、目的地まで歩いて向かってみてはいかがだろうか。慌しく過ごす日常の中では気づけなかった、なにか面白い発見が待っているかもしれない。
【参照サイト】Walkable London